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公道カート「マリカー」の敗訴確定、「観光公害」とまで批判されていたコロナ前の実態
公道カート「マリカー」

公道カート「マリカー」の敗訴確定、「観光公害」とまで批判されていたコロナ前の実態

公道カート「マリカー」を運営する「MARIモビリティ開発」(旧マリカー社)が、マリオやヨッシーなど、キャラクターのコスチュームを貸し出して、そのコスチュームが写った画像や映像を許諾なしに宣伝・営業に利用しているなどとして、任天堂から訴えられていた裁判で、最高裁は12月24日付で「MARIモビリティ開発」の上告を退ける決定をし、任天堂の勝訴が確定した。

2審の知財高裁は、「MARIモビリティ開発」に対して、マリカーなどの標章の使用禁止、キャラクターの衣装貸し出しの禁止、5000万円の賠償を命じ、「MARIモビリティ開発」が上告していた。

新型コロナウイルスの感染拡大により、東京都内の路上では見かけなくなっていたが、コロナ禍以前では、訪日外国人向けのサービスとして、大きな注目を集めていた。

裁判以外にも、「マリカー」については、交通ルールなど様々な問題が指摘されていた。今回、2019年1月12日に掲載した「公道カート『マリカー』は日本人に嫌われたままでいいの? 外国人に大人気、インバウンドめぐるギャップ」を一部修正のうえ、再掲載する(以下は当時の情報のまま)。

●誘い文句「マリオのコスプレをして乗れば、まさにリアルマリオカート状態」

コロナ禍の前には、インバウンド(訪日旅行)のアクティビティとして、訪日外国人からかなりの注目を集めていた。一方で、地元の日本人からは「危険だ」「禁止にしろ」などと、冷たい視線が向けられていた。日本人からは見えにくい、「マリカー」の実態はどのようなものだろうか。

運営会社の「MARIモビリティ開発」(旧マリカー社)は2015年6月、設立。東京・品川、秋葉原のほか、大阪、沖縄などの各店舗がレンタルサービスを展開していた。当然のことだが、任天堂とは、まったく関係がない。

マリカーの日本語サイトは閲覧できなくなっているが、ウェブページをキャッシュとして保存するサービスで確認すると、任天堂のキャラクター「マリオ」をはじめとして、「アイアンマン」(マーベル)、クッキーモンスター(セサミストリート)など、100種類以上のコスチュームを、カート利用客が借りられる。

さらに「スーパーマリオのコスプレをして乗れば、まさにリアルマリオカート状態!!みんなで公道カートを楽しんじゃってください!」といった誘い文句も掲載されていた。そんなイケイケのように思えるが、2017年に入り、一転してピンチに陥ることになる。

任天堂が同年2月、旧マリカー社がマリオやヨッシーなど、キャラクターのコスチュームを貸し出して、そのコスチュームが写った画像や映像を許諾なしに宣伝・営業に利用するなどしていることが、不正競争行為にあたるとして提訴したのだ。1審・東京地裁は2019年9月、旧マリカー社に対して、損害賠償1000万円を命じたが、同社は判決を不服として控訴した。

●訴訟資料に掲載されていた任天堂の「現地調査」

「マリカー」をめぐる法廷闘争の第2ラウンドは2019年12月から、知財高裁にうつった。そこで、裁判所に何度か通って、膨大な訴訟資料を閲覧したところ、これまで報道されていない、いくつかの注目すべき事実が見つかった。

その一つは、任天堂が、ある大手企業の子会社に、旧マリカー社の調査を依頼していたことだ。報告書の日付は、2016年11月16日となっている。任天堂が、旧マリカー社を提訴したのは、2017年2月24日だから、少なくとも3カ月以上前から、入念に訴訟の準備をすすめていたと考えられる。

調査内容は、観光客を装って、旧マリカー社のサービスを利用したうえで、(1)領収書、(2)店内の様子(マリオなどのコスチュームの陳列の様子)、(3)広告チラシ、(4)店舗名刺――などの情報収集することだ。

調査報告書には、店の入口に高さ120センチくらいの「マリオ人形」が置かれているところや、マリオやルイージなど、コスプレ衣装が、ずらりとハンガーにかかって並んでいる店内の様子をうつした写真が添付されていた。

●「野放しにしているのはなぜか」任天堂に寄せられた理不尽な苦情

もう一つは、任天堂が提出した証拠から、同社の「お客様相談室」に、一般消費者からメールや電話で、交通安全の面に関する「苦情」「批判」が寄せられていたことだ。いずれも、公道カート運営とまったく関係がない任天堂に対して、その見解を厳しく問いただす内容となっている。主なものを引用する。

「マリカーのような着ぐるみを着せて、日本を訪れている外国人を公道ゴーカートに乗せている会社がある。(中略)。交通違反もしていて、地元では迷惑している。運営元を調べると株式会社マリカーという会社であった。警察に連絡したが、現行犯ではないからどうしようもないなどと言われ、取り合ってくれない。マリオカートの権利元は任天堂であるから、何かとすべきだ」

「ヘルメットもプロテクターも付けず、あのような行為をする集団を任天堂が黙認しているのは、どういったお考えの元なのですか。別会社のことだから・・・では説明になりません。黙認していないということならば、野放しにしているのは何故ですか。一方の被害者として任天堂からのキチンとした回答を待ちます」

任天堂からすれば、言いがかりのような話だ。その堪忍袋の緒が切れた理由の一端がうかがい知れる。地元の住民たちは、街ゆく公道カートを見かけては、任天堂に対する怒りを抱いて、苦情のメールや電話をするまでに至っていた。

●「在日米軍」の関係者も利用していた

そんな同社のサービスだが、旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」が発表した「外国人に人気の日本の体験・ツアー2018」の1位を獲得するなど、勢いがとまらなかった。

どことなく派手な遊びの印象があるが、どういう属性の人たちが利用しているのか。訴訟資料によると、やはり利用者のほとんどが訪日外国人だったという。

旧マリカー社は2017年2月から4月にかけて、利用者アンケートを実施している。2131人から回答があり、そのうち2032人(約95.4%)が、訪日外国人だった。(出身国「日本」かつ「日本の免許証」は99件、出身国不明は「日本」、免許のタイプ不明は「日本」として集計されている)。

国別に集計されたデータは見当たらないが、ざっとリストを眺めると、アメリカ国籍が圧倒的に多かった。ほかは、オーストラリアやカナダ、香港、韓国、イギリスなども多かった。ベルギー、ドイツ、オランダ、インド、アイルランド、イタリア、マカオ、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、台湾などの利用者もあり、SNSを通じて存在が知られているようだ。

在日米軍関係者が多いこともわかっている。実は、旧マリカー社は、営業活動の最初のターゲットを「在日米軍基地」としており、その後、在日米兵たちの口コミ情報によって、その存在が爆発的に知られるようになっていったようだ。在日米軍に取材したところ、「兵士とその家族が利用していたのは確かだ。しかし、オフィシャルの福利厚生プログラムではない」とコメントした。

●外国人客「まるでスターになったような気分になれる」

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では、公道カートの乗り心地はどのようなものか。「渋谷のスクランブル交差点に差し掛かったとき、街の人からスマホを向けられて、まるでスターになったような気分になった。とても楽しい」。2018年12月のある寒い日、約1時間半のコースを走り終えたばかりの外国人男性AさんとBさんは、弁護士ドットコムニュースの取材に、前のめりになりながら、興奮した口調で話した。

2人が公道カートで走ったのは、品川の店舗から、東京タワーを通って、六本木・表参道・渋谷をめぐり、ふたたび品川に戻ってくるというコース。1人あたり8000円と少々値段がはるが、「表参道のイルミネーションとか、とてもキレイだった。一緒に走ったガイドに、カートに乗っている写真を撮ってもらったので、SNSに投稿して、友だちに自慢したい」と口をそろえる。

この日店にいたスタッフは、外国人と日本人が半々で、英語で話しかけられたという。店員はとてもフレンドリーな接客で、「日本的(丁寧)ではないが、みんなニコニコしていて、好印象だった」(Bさん)。同じグループで、公道カートで走った客は、フェイスブックやインスタグラムを通じて、このサービスを知ったと話していたという。

カートの搭乗前には、「名前」「年齢」「性別」「どこの国から来たか?」「何回きたか?」「なぜきたか?」「マリカーを何回利用したか?」「どうやって知ったのか?」「日本で運転したことはあるか?」「(運転)ライセンスの形態は?」などの質問シートに答えさせられる。

そのあと、ようやくコスプレに着替えて、出発する。「任天堂だけじゃなく、ディズニーのコスプレも多かった。服のバリエーションは豊富だった」(Aさん)

任天堂の調査によると、かつては店内に「マリオ人形」もあったというが、その日はなかったようだ。カート本体に「任天堂は無関係」と大きくプリントするなど、裁判を意識するような動きも見られた。

●外国人客「前を走っていたカートに少しぶつかった」

旧マリカー社の公道カートが、一般車両と接触する事故も起きていた。

公道カートは、道路交通法上、自動車(ミニカー)として扱われており、普通運転免許さえ持っていれば運転できる。ヘルメットすら着けなくていいのだ。しかも同社は、独自にカートを整備して、時速60キロメートルまでスピードが出せるようにしているという。

安全面の心配があるが、旧マリカー社が裁判所に提出した資料によると、カートの事故率は「0.1%未満」。訪日外国人のレンタカー事故率が「3.4%」、日本人のレンタカー事故率が「1.1%」であることから、「むしろ安全だ」という主張を展開している。実際に乗ってみて、危険を感じなかったのだろうか。AさんとBさんの見解は少し異なっている。

「乗用車と違って、乗りにくいと思った。ハンドルもかたく、ブレーキも踏みにくいから。ブレーキは、力を込めて踏まないと止まらない。前を走っていたカートに少しぶつかった。前にクッションがついているから大丈夫だったけど、シートベルトをつけず、時速50キロで走るので、やっぱりこわい」(Bさん)

「ガイドさんからは、シートベルトは締めなくていいと言われた。ヘルメットも貸し出してもらえるけど、誰もかぶっていなかった。しかも、自動車が周りをバンバン走っているからこわいかと思ったけど、すぐに慣れた。タクシーとかは、(カートに)配慮してくれていた。やっぱり日本人はやさしいと思った」(Aさん)

●裁判が決着、「マリカー問題」が残した教訓

とはいえ、前述の任天堂への苦情のように、インターネット上では、公道カート全般に対する嫌悪感が広がっていたことはたしかだ。公道カートの走行が危険を誘発してるのではないか、と指摘する意見のほかに、一部では「観光公害」とまで揶揄する声もあった。

こうした状況の下、国交省は2017年、公道カートの安全確保水準を上げるため、道路運送車両の保安基準を改正した。ようやく2020年4月に一部が適用され、2021年4月に全面適用となる。

公道カートをめぐっては、ネット上で「やってみたい」という声も見られるものの、「やっぱりあぶねーよ」「日本の交通ルール知らない素人外国人がこれ以上日本の道路走ってほしくないわ」「地元民からしてみればさっさと潰れろ」など、かなり強い批判がわき上がっていた。これに対して、旧マリカー社から国内向けのメッセージはあまり発信されていなかった。

2020年の年末時点では、コロナ禍により、外国人観光客が途絶え、状況が一変してしまった。ただ、コロナ禍が落ち着いたころには、再び外国人観光客も戻ってくるだろう。任天堂との裁判も終わり、一定の結論も出たいま、「マリカー問題」が残した教訓として、日本社会との軋轢を生まない、あるべきインバウンドの姿を考える時ではないだろうか。

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