東京都品川区にある自宅で、生後1カ月の乳児が授乳中に眠ってしまった母親に押しつぶされて死亡するというできごとが11月8日の明け方ごろにあった。死因は窒息死だという。
新生児は特に授乳間隔が短く、親が睡眠不足になりがちだ。消費者庁によれば、2010年から2014年までの5年間で確認された、0歳児の就寝時の窒息死事故は160件。このうち家族の身体の一部で圧迫されたことによる事故は5件だという。
5件すべてが授乳中の事故とは限らないが、おおよそ年に1件の頻度で同種の事故が起きていることになる。
警察は過失致死の疑いで調べを進めているようだが、今回のような痛ましいできごとでも犯罪になってしまうのだろうか。東山俊弁護士に聞いた。
●過失致死罪が成立しうるが、実際に起訴される可能性は高くない
ーー授乳中に乳児が死亡した場合に、犯罪は成立するのでしょうか
「刑法210条は、過失により人を死亡させた場合、過失致死罪が成立するとしています。
『過失』というのは、簡単に言えば不注意のことです。そのため、過失致死罪というのは、不注意で人を死なせた場合に成立する犯罪ということになります。
そして、授乳中に乳児が乳房で窒息したという事案で、乳児に添い寝して授乳する場合、授乳する者は授乳に伴って通常生じる一切の危険を未然に防ぐ義務があるとし、その義務を怠ったことを理由として過失致死罪が成立するとした判例(大審院昭和2年10月16日判決)があります」
ーー乳児のときの育児は大変ですので、つい眠ってしまうこともありそうです。母親には気の毒に思えますが
「この判例に対しては、添い寝中の授乳は社会的に許容されている行為でもあり、母親の健康状態等を考慮して過失の成否を判断すべきであろうという批判もあります。
この判例は昭和初期の古いものですし、現在では、母親の体調や疲労、周囲から援助を受けていたか等の事情を考慮して慎重に運用していると思われます。
授乳中に乳児が亡くなったからといって、簡単に起訴されるということはあまりないと思われます」