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一審勝訴した今も「ハラスメント文書」配布やまず…フジ住宅を提訴「在日女性」の苦悩
判決後の報告集会で、支援者の前に立つAさん(写真:解放新聞大阪支局提供)

一審勝訴した今も「ハラスメント文書」配布やまず…フジ住宅を提訴「在日女性」の苦悩

「会社が良くなることを願って裁判に踏み切ったのですが、『こんなはずじゃなかったのに』という思いでいっぱいです」。大阪府在住の在日コリアン女性のAさん(50代)は、勤め先の「フジ住宅」(岸和田市)と同社の会長を相手取り、損害賠償を求める裁判を起こしている。

社内で「在日を含む中韓北朝鮮の国籍や民族的出自を有する者に対して「死ねよ」「嘘つき」「卑劣」「野生動物」などと激しい人格攻撃の文言を用いて侮辱」する文書を配布され続けたことや、会長からの呼びかけで「新しい歴史教科書をつくる会」による育鵬社の中学校教科書の採択を求めるアンケートを提出してくるように求められたことに長く苦痛を感じてきた。

Aさんは2015年1月、特定の民族を貶める文書の配布をやめるように会社に申し入れた。しかし、その後も文書配布はやまず、大阪弁護士会に人権救済を求めたところ、会社から退職を提案されたことから、提訴に踏み切った。

1審・大阪地裁堺支部は今年7月、会社と会長に110万円の支払いを命じて、Aさんが勝訴した。それにもかかわらず文書配布は続いているという。そこでAさん側は11月、控訴審予定の大阪高裁に文書配布の差し止めを申し立てた。(ライター・碓氷連太郎)

●「会社にいるのがとてもしんどい日もある」

「1審判決が出てから約5カ月経ちますが(編集部注:取材時)、以前よりも体調が悪くなりました。動悸はするし、ときどき心臓がギュッと動いて苦しくなることがあります。毎日出社していますが、会社では変わらず韓国や中国を貶めたりする内容の記事や、自分を攻撃するために判決をないがしろにする文書などの配布が、今も続いています。

また弁護士さんによると、判決直後の2020年7月に90名の社員の私と判決を非難する内容の感想文を配布され、その翌月にも、7月に配布された感想文の中で特に内容のひどい、10名程度の文書の内容をまとめた感想文が配布されました」(Aさん)

Aさんを支援しているNPO法人「多民族共生人権教育センター」の文公輝さんによると、「いいがかり裁判」「反日裁判官」などと書き連ねている中に、Aさんを中傷する文言が見られるそうだ。

裁判が進行する中で、裁判長が、会長や傍聴人に「ブルーリボンバッジ」をはじめ、メッセージ性のあるバッジを外すように命じた。これによりバッジが着用できなくなったが、今井会長と傍聴人の代表2名は11月17日に、「(バッジ着用禁止は)憲法で定められた、表現の自由の侵害にあたる」として、国を相手取り、390万円の支払いを求める裁判を起こしている。

また、原告のことを誹謗中傷する社外の人間のブログや、『この人はいつまで働き続けるんですか』と書かれた経営理念感想文が、今でも社内で配られていることがわかっている。

「自分が原告であることを公表していませんが、薄々気づいている人もいるので、会社にいるのがとてもしんどい日もあります」(Aさん)

●「配布文書に辟易している社員もいるはず」

会社はなぜ敗訴しても、韓国や在日韓国人を貶める文書の配布を止めないのだろうか。Aさんは背景の一つに「会長の強い思いを諫めることを出来る人物がいないではないか」と感じているようだ。

「全員とは言いませんが、結果的に会長に追従する人はたくさんいます。1審で、世間的に認められないことをしたという判決が出ているのにもかかわらず、会社が今も変わらないのは、会長に会長の意に添わない意見のできる人が会社の中にはいないであろうことが、大きいと思います。

そして私が人権救済の申し立てをした当時、それまで指摘しなかったような時点(完成前)でのミスをわざわざ上の方の上司から指摘され、書面を書くように命じられたことがありました。数年前に、ミスとチェックとの責任の範疇について私の要望を聞き入れ、課内で統一した認識を持つことで話をしてくれた人でした。

きっと、無茶なことと思いつつ、人権救済の申し立てまでした部下である私をどうにかしないとという、プレッシャーを感じたのかもしれません」(Aさん)

今も仕事を続けているAさんは、ときに強い孤独を感じるという。しかし、明確に声をあげられなくても、会長・会社のやることに加担しない人たちの存在に気付いているから、なんとか耐えられていると語る。

「以前は上司におもねるような感想文を提出していたものの、今はしなくなった人もいます。全員が賛同しているわけではなく、『もういい加減、韓国や中国をひどく扱ったり、業務に関係のない思想的な文書の配布をやめてくれ』と辟易している人もきっといるはずだと信じています」(Aさん)

文さんの元にも以前、「名前は出せないけれど現役の社員です」として、Aさんを支持する声が届いたことがあるという。

●「社会的に認められないと気づいてほしい」

原告、被告ともに控訴していることから、来年1月28日に大阪高裁で控訴審がひらかれることになっている。

原告側は1審では不十分だった、原告を名指ししてはいないものの、韓国人をひとくくりにしたヘイトスピーチにより、原告個人への被害があったとの認定をかちとることを目指している。さらに、差別的文書と、原告に対する個人攻撃をおこなう文書の配布を差し止めることを控訴審で追加申し立てをおこなった。

そのために会社でどんな文書が配られて、Aさん自身がどんな気持ちにさせられたのかを、振り返らなくてはならなかった。とても辛い作業だったが、「避けては通れなかった」と、Aさんは心情を吐露する。

そのうえで、彼女は「今井会長にはどうか、過ちに気づいてほしい」と口にした。

「フジ住宅は2016年から『健康経営優良法人(ホワイト500)』(健康経営において特に優良な取り組みを実践している大規模法人を顕彰する)の認定を受けているのですが、ホワイト企業を標榜するなら働く人に苦痛を与える文書を配布しては、ダメですよね。

会長は素直な方だと思います。だから余計に周りにイエスマンしかいないから自分がしていることが社会的に認められないことだと気付く機会がなかったのかもしれません。でも、そういった認識をしっかり変えてもらいたいです。

そのためにもこれからも会長にはお元気でいていただいて、傷ついている人が私だけでなく存在すること、人を幸せにすることの逆になっている現状を想像し、気付いていただきたいです。また、この裁判をもっとたくさんの人に知ってもらえたらと思います」(Aさん)

なお、フジ住宅は自社のホームページ上で「人種差別はなかった」などと反論している(https://www.fuji-jutaku.co.jp/node/2062)。

控訴審は、1月28日に大阪高裁で開かれる予定だ。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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