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「帰国させられてしまう」乳児遺棄あいつぐ、技能実習生を追いつめる根深い課題
移住連の安藤さん(左)と指宿弁護士

「帰国させられてしまう」乳児遺棄あいつぐ、技能実習生を追いつめる根深い課題

「妊娠した外国人技能実習生は、帰国させられる」。それは本当なのだろうか。

岡山県津山市で住宅団地の浄化槽から乳児の遺体が見つかった事件で、岡山県警は5月7日、ベトナム国籍の女性技能実習生(死体遺棄容疑で4月16日に逮捕、処分保留で釈放)を堕胎容疑で再逮捕した。

堕胎薬を飲み、4〜5カ月ほどの胎児を堕胎した疑いがある。報道によれば、警察の調べに「技能実習生の身分で妊娠したとなればベトナムに帰らされてしまうことから、堕胎を決断した」と話しているという。

専門家は「妊娠しても帰国する必要はない。堕胎は最悪の結果。実習生はなんとかして支援団体に助けを求めてほしい」と話す。

●妊娠した技能実習生の死体遺棄事件は最近でも

最近でも、ベトナム人の女性が、実習先の福岡県福津市の会社内で男児を死産し、遺棄したとして2019年4月に逮捕されている(朝日新聞デジタル、2019年4月18日)。

また、愛媛県の製紙工場で働く予定だったベトナム人の女性が、妊娠を理由として研修施設から「中絶か帰国か」を迫られたことも報じられた(朝日新聞デジタル、2018年12月2日)。

2013年7月には、富山地裁が、中国人実習生の妊娠を理由とした解雇を無効と認めた。それでも、いまだに痛ましい事件が繰り返されている。

●出入国在留管理庁(入国管理庁)、技能実習機構は

技能実習を中止して帰国する場合、受入先の企業は監理団体に通知をし、監理団体が外国人技能実習機構(OTIT)に届け出ることになっている。

女性技能実習生の妊娠を理由とした解雇や帰国の件数について機構に問い合わせたが、「公表していない」とのこと。

2019年3月、入管や機構は連名で、監理団体及び実習実施者に対して「妊娠等を理由とした技能実習生に対する不利益取扱いについて」とする文書を通達した。実習生にも日本の労働関係法令が適用されるという通達だ。

「技能実習生に対して、妊娠や出産を理由とした解雇や帰国の強制などの不利益な取り扱いをした場合については、受け入れ企業や監理団体に対して厳正に対応することになります」(入管)

ただし、この通達が当の技能実習生たちにまで届いているか疑問は残る。

●実習生の支援者が語る「問題の根深さ」

「特定非営利活動法人 移住者と連帯するネットワーク(移住連)」事務局次長の安藤真起子さんはこう話す。

「2020年1月更新の技能実習手帳(多言語で発行)に、通達で示された内容が載りました。それはよかったと思ったのですが、このような事件が再度起きたことで、問題の根深さを痛感しています」

安藤さんによれば、先の「中絶か強制帰国か」を迫られたベトナム人女性と送り出し機関が結んだ契約書には、「強制送還になる禁止事項」として「窃盗」「盗品の使用・販売」「慢性病、エイズになること」などのほかに、「妊娠」という記載もあったそうだ。

また、昨年5月、横浜地裁川崎支部は、出産した男児を他人の住宅の敷地に放置したとして、中国人の技能実習生の保護責任者遺棄罪を認めて懲役1年6月(執行猶予4年)の判決を言い渡した。

この女性が来日前に送り出し機関と結んだ契約書には、実習中に問題が起きた場合でも、 日本の労働組合や社会的な活動をしている団体、実習先に相談することを禁じる内容が示されていたほか、

「本人都合で実習継続できなくなった場合の損害賠償請求および、保証金含む渡航前費用(約60万円)を返還しない」などの取り決めもあった。

●保証金制度が実習生を「人質」にする

「日本で最低賃金ギリギリの給与で生活する実習生たちにとって、保証金が戻されないことは大きな痛手。来日前のガイダンスでは、妊娠してはいけないと説明を受けます。『来日前の健康診断で妊娠していないかチェックされた』と打ち明けられたこともあります」

「保証金の徴取は日本の技能実習制度で禁止されており、機構も管理に努めているのかもしれませんが、送り出し側での契約の条件などはコントロールしきれません」

とはいえ、送り出し側は送り先の需要に応じたビジネスを遂行しているだけとも考えられる。「現地にも問題がありますが、それは日本側が実習生を安くて使い勝手のよい労働力と見ているからです」

対症療法的な制度の改善では、問題解決はできない。安藤さんが「根深い問題」と言った理由がここにある。

●弁護士は「なんとかしてあきらめずに助けを求めてください」

「妊娠しても、解雇や帰国は許されない。堕胎する必要もない」と語気を強めるのは、外国人の労働問題に詳しい指宿昭一弁護士だ。

今回の岡山県津山市の事件について「彼女のしたことは肯定できないが、彼女は同時に犠牲者でもあると思う。追い詰めてしまった関係機関や技能実習制度の問題を強く感じる」と述べる。

「制度を守る立場の技能実習機構は、妊娠で解雇される実態や堕胎の実態を正確に把握する気や、数字を発表する気がないのではないか。『実習生は黙って働け、妊娠して出産する実習生は想定外だから帰国しろ』。そんな意識が法務省にも受け入れ先の企業にもあると思う」

誰にも相談できずに困っている技能実習生に向けて指宿弁護士は「なんとかネットで調べるなりして、どこかに助けを求めてください」とメッセージをおくる。

「実習生は奴隷でも機械でもない。子どもを産みながら働き続ける権利がある。意に反した堕胎をしないで、支援する労働組合やNGOや宗教関係施設に相談、場合によっては駆け込んでください。子どもを捨てたり、堕胎したりするのは最悪の選択肢。機構が助けてくれないとしても諦めないでください」

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