1975年に起きた抗争事件で暴力行為法違反などの罪で起訴され、判決期日前に逃亡した男性に対し、東京地裁は4月27日、約40年前に書かれた懲役1年、執行猶予3年(求刑懲役1年6月)を言い渡した。
報道によると、男性は革労協系の活動家で、1975年4月、共犯者らと東京都内の対立グループの拠点に鉄パイプなどを持って押しかけ、窓ガラスを破壊するなどした。保釈中の77年3月、共犯者らとともに判決を受ける予定だったが、判決期日に出頭せず、行方が分からなくなったという。今年1月に警察が身柄を確保したが、地裁は改めて審理せず、当時言い渡す予定だった判決がそのまま代読されたという。
このニュースに対してネット上では、「逃亡したことについての罰則はないの?」といった疑問の声があがった。また、40年前の事件ということで「時効とかは関係ないのか」というコメントもあったが、法律上、どのように考えられるのか。藤本尚道弁護士に聞いた。
●公判中の逃亡を処罰する法律はない
「まず、この事件は40年前に審理が終わっています。結審後に生じた事情を判決の基礎とするには審理の再開が必要です。審理を再開する場合は、あらためて証拠などの取り調べ、論告求刑、最終弁論、被告人の意見陳述などの手続が行われます。
しかし、本件では審理の再開がなされませんでした。そのため、あくまで40年前の結審時の状況を基礎にして判決を言い渡さざるを得ず、『公判中に逃亡した』という事実を踏まえた判決を言い渡すことは出来ません」
では別にペナルティがあるのだろうか。
「公判中に逃亡したことに対して何らかの刑罰が適用されることはありません。そのような場合に被告人を処罰する法律がないからです。ただし、保釈中に逃亡したことを理由に、保釈保証金の没取というペナルティを受ける可能性はあり得ます」
藤本弁護士はこのように述べる。ネット上では「時効とかは関係ないの?」という疑問の声もあがっていたが・・・。
「公訴時効は、被告人が起訴された時点で進行を停止します。そのため、被告人が公判中に逃亡したとしても、事件そのものが時効にかかってしまうことはありません。
しかし、あまりにも長い期間にわたり被告人不在の公判が係属する状態が続くことは、裁判所にとって好ましいことではありません。検察官が、刑事手続をこれ以上続けることは適当でないと判断した場合、被告人の所在不明を理由に『公訴の取消』を行うことも可能です。検察の公訴取り消しを受けて、裁判所は、『決定』によって『公訴を棄却』します。
ただし、いったん公訴の取り消しが確定してしまうと、あとで被告人が発見されたとしても再び起訴することが難しくなってしまいます。公訴取消し後の再起訴は、公訴取消し後に犯罪事実について新たに重要な証拠を発見した場合に限ると規定されているからです(刑事訴訟法340条)。
本件では40年間もの長いブランクがあったわけですが、被告人が公訴提起時点で25歳の若年者で、死亡の可能性もそれほど高くなかったことを考慮すると、まだまだ『公訴の取消』が検討されるべき時期ではなかったのでしょう」