2014年08月11日 16時58分

米国タバコ会社に「2兆円」賠償判決――こんな「高額賠償」は日本でも認められるか?

米国タバコ会社に「2兆円」賠償判決――こんな「高額賠償」は日本でも認められるか?
統計上、タバコを吸う人は、吸わない人に比べて肺がんになるリスクが高いと言われている

2兆円の賠償金を支払え――「キャメル」などの銘柄で知られるアメリカの大手タバコ会社「RJレイノルズ・タバコ」に対して、米フロリダ州の陪審団が、懲罰的賠償として約236億ドル(約2兆3900億円)の支払いを命じる評決を言い渡し、話題となっている。

報道によると、タバコ会社を訴えていたのは、肺がんで死亡した男性の妻。この女性は、タバコ会社が「ニコチンのリスク」に関する情報提供を怠ったと主張し、RJレイノルズに賠償を求めていた。死亡した男性は、13歳のころから、毎日1箱以上のタバコを吸っていたという。裁判では、あわせて、遺族側に対する約1700万ドル(約17億円)の損害賠償も認められたとのことだ。

2兆円という莫大な賠償額は、日本の裁判では聞いたことがない。日本でも同様の裁判が起こされた場合、こうした莫大な賠償金が認められる可能性はあるのだろうか。第二東京弁護士会の受動喫煙防止部会長をつとめ、タバコに関する裁判にくわしい岡本光樹弁護士に聞いた。

●日本でも「タバコ訴訟」は起きている

「今回、一人の訴訟で約2兆円という巨額の賠償が認められ、あまりの金額の大きさから、各メディアによってニュース報道されたようですね。ちなみに、日本の年間タバコ税収が2兆円超で、ほぼこれに匹敵する金額です」 

岡本弁護士はこう述べる。一企業には、支払うのが困難な金額だ。

「実は、日本でも同種の訴訟は既に起きています。

肺がん・肺気腫に罹患した元喫煙者が、JTと国を訴えた裁判です(「タバコ病をなくす横浜裁判」)。この裁判は2012年に原告敗訴で確定しました。東京高裁の判決は、我が国の注意表示を違法と評価せず、JTと国の責任を認めないというものでした。

喫煙するか否かは、喫煙者の『自由な意思決定』と捉えており、喫煙者の自己責任だという考えが、この判決の根底にあるように思えます」

●日本で「高額賠償」が認められる可能性は?

アメリカの判決とは、そもそもの考え方に違いがありそうだ。

「実はアメリカでも、1950年代から90年代頃までは、タバコ会社がほぼ全て勝訴していました。理由は、喫煙者の自己責任(危険の引受け)です。

しかし、1990年代後半頃から裁判の流れが大きく変わりました。きっかけは、内部告発や内部文書により、タバコ会社が健康被害や依存性について熟知しながら、それを隠して、故意に詐欺的な販売を継続してきたということが明らかとなったからです。

50の州政府が原告となり、公的医療費の返還を求めてタバコ会社を訴えた裁判で、1998年に2060億ドル(約25兆円)を25年間分割払いにする和解が成立しました。

また、喫煙者個人やその遺族がタバコ会社を訴えた裁判は、2000年代以降、次々と勝訴し、約5億円、9億円、50億円、79億円といった懲罰的賠償も認められました」

喫煙は「自己責任だ」という考えが、日本でも変わる可能性はあるのだろうか?

「可能性はあります。

ニコチンには人を依存させる薬理的性質がありますから、喫煙者が本当に『自由な意思決定』で喫煙を継続していると言えるのか、東京高裁の判決は疑問です」

それでは、日本でも、将来、アメリカのように高額の賠償が認められる可能性があるのか?

「その可能性は低いです。アメリカでは、加害者に対する制裁及び将来における抑止の目的で懲罰的賠償制度が存在します。

日本の最高裁は1997年、アメリカの懲罰的賠償制度について、日本の損害賠償制度とは『本質的に異なる』と判示しています。国会で法律改正をしない限り、日本で高額の懲罰的賠償が認められる可能性は低いでしょう」

日本の損害賠償制度は基本的に、実際に受けた被害を填補するという制度で、「懲罰」とは性質が異なると考えられているようだ。

岡本弁護士はこの点について、「日本の賠償制度は、様々な社会問題・公害問題において、抑止機能が弱いという指摘があります。付加金や二倍・三倍賠償を導入すべきといった提言もあります。違法利益を吐き出させる賠償制度の在り方について、国民的な議論や検討をすべきではないでしょうか」と指摘していた。

(弁護士ドットコムニュース)

取材協力弁護士

岡本 光樹弁護士
1982年岡山県生まれ。05年東大法卒、06年弁護士登録。国内最大手の法律事務所などを経て、11年に独立。企業法務や労働案件、受動喫煙に関する係争・訴訟、家事事件などを幅広く扱う。第二東京弁護士会で人権擁護委・副委員長や受動喫煙防止部会長などを務める。

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