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アメリカの女子高生が「学費支払い」求めて両親を提訴! 日本ではどうなる?
大学への進学を希望する若者は以前に比べ増えている。

アメリカの女子高生が「学費支払い」求めて両親を提訴! 日本ではどうなる?

18歳の高校生が両親を訴えるという珍しい裁判が、米国で注目を集めている。「家から追い出された」と主張する米ニュージャージー州の女子高生が、両親を相手取って、高校の学費などの支払いを求める訴訟を起こしたのだ。

報道によると、この女子高生は大学進学を目指していたが、家を追い出されたために、その機会を失いかけていると訴えている。一方、女子高生の両親は、「娘は自分の意志で家を出て行った」などと反論。加えて、すでに18歳となった娘に学費を支払う義務はないと主張しているという。

18歳というと、日本ではまだ未成年だが、米国では選挙権を付与され、自立を求められる年齢だという。米国の法曹関係者の間では「この裁判は18歳以上に対する親の養育義務について判断する先例となる」と注目を浴びているようだ。

大学進学率が高い日本。はたして同様の訴訟が起こった場合、子どもの主張が認められる可能性はあるのだろうか。子どもや親子の問題に詳しい宮島繁成弁護士に聞いた。

●親には「扶養義務」と「監護教育義務」がある

「学費の問題は通常、法律的には扶養の問題として扱われています」

このように宮島弁護士は切り出した。

「民法877条1項は、直系血族は『互いに扶養する義務がある』と定めています。このため、親が子を、子が親を扶養するのは法的な義務ということになります。逆の立場から見ると、法的な権利となります。

また、親が子に対して学費を負担することは、扶養の観点だけではなく、監護教育する義務という観点から根拠づける見解もあります」

これは、民法820条の「親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」という条文に基づいているという。

「実際、大学進学の費用について、養育費という形で離婚後の一方の親に負担を命じる審判例も、めずらしくありません。これは、わが国の大学進学率の高さを考慮した結果でしょう。もちろん、支払いは親の経済状況に応じてということになりますが・・・」

このように宮島弁護士は説明する。したがって、「理論上は、未成年の子どもが親に対して、高校や大学などの学費を請求することは可能」ということだ。

●未成年の子どもが親を訴えることは難しい

だが、現実には、今回のアメリカの事例のように、未成年者が親に対して学費を求めて裁判を起こすことは、日本ではほとんどないという。

「『法は家庭に入らず』という古代ローマの格言が象徴するように、本来は、法が解決する問題ではないからです」

では、もし日本で、未成年の子が自分の親を訴えたいという場合、手続きそのものは可能だろうか。

「難しいところですね。もし、訴訟を起こして学費を請求しようとするならば、未成年者は自分で訴訟行為をおこなうことができないので、法定代理人に請求を託すことになります。しかし通常、未成年者の法定代理人には、その子の親権者がなります。

つまり、法定代理人が自分に対して請求することになってしまいます。そのような訴訟の実現は、工夫すればできないわけではないですが、簡単なことではありません」

どうやらアメリカとちがって、18歳の高校生が学費を求めて、両親相手の裁判を起こす可能性は、日本では少ないといってよさそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

宮島 繁成
宮島 繁成(みやじま しげなり)弁護士 ひまわり総合法律事務所
日弁連子どもの権利委員会、教育法制改正問題対策ワーキンググループ。いじめや体罰のほか、スポーツ問題に取り組んでいる。中学校と高校の教員免許を有している。

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