激戦となっている東京都知事選(投開票7月7日)だが、仕事などで当日投票にいけない人が事前に投票できる「期日前投票」も、2020年の前回選挙より27万5980人増加しており(6月21日〜7月5日)、注目度の高さがうかがえる。
SNSでも、ユーザーたちが自ら支持する候補者や、対立する候補者について「舌戦」を繰り広げている。
そうした中、Xでは期日前投票に行った人たちが、投票所で撮影した投票用紙の写真とともに「この人に投票しました」などと投稿し、支持する候補者への投票を呼びかけるなどの行動がみられた。
こうした投票用紙の撮影について、東京都選挙管理委員会は、公式サイトで「公選法上は禁止する規定が設けられていない」としながらも、「平穏な投票手続の進行が阻害されることも考えられ」ることから、退出させる場合もあると明記している。
都内自治体の選挙管理委員会も携帯電話の使用や撮影の禁止をしているケースが多い。
また、特定の候補者への支持を呼びかける「選挙運動」は投票日の前日までとされており、投票日当日に投票所で撮影してSNSで発信する行為は、公選法に反する可能性があるので、注意が必要だ。
●投票所では「携帯の使用禁止」とする自治体も
23区で最も人口が多い世田谷区の選挙管理委員会は、「世田谷区投票所・開票所秩序保持方針」を定め、投票所内での撮影や録音、通話を禁止している。
これらは、「投票所において演説討論をし若しくはけん騒にわたり又は投票に関し協議若しくは勧誘をし、その他投票所の秩序をみだす者があるときは、投票管理者は、これを制止し、命に従わないときは投票所外に退出せしめることができる」とする公選法60条(投票所における秩序保持)などにもとづいて定められているという(公式サイトより)。
世田谷区以外の都内自治体の選挙管理委員会でも、投票所の撮影を禁止したり、控えるよう呼びかけている。
豊島区の選挙管理委員会は、「他人の投票への干渉行為の禁止、投票の秘密保持、投票用紙の偽造防止等の観点」から、投票所内での携帯電話の使用は一律禁止しているという(公式サイトより)。
また、東久留米市の選挙管理委員会も「投票日当日の投票所、および、期日前投票所では携帯電話の使用をご遠慮いただいています」とする。その理由を次のように説明する。
「投票所の中で、携帯電話で話をしていると、誰かの指示を受けて投票しているのではないかという疑いを招くおそれがあります。
また、最近はカメラ付携帯電話が普及しているため、何かを撮影しているという誤解を招くこともあります。
他人の投票に干渉したり、投票の秘密を損ねたりすることは公職選挙法で禁じられています。たとえそのような意図はなくとも、誤解を招く行為は慎むようお願いいたします」(公式サイトより)
●東京都選管の見解は…?
公選法では、投票所内の写真撮影を直接禁止する規定はない。しかし、なぜ各自治体の選挙管理委員会は禁止とするのか。東京都選挙管理委員会は公式サイトで、次のように明記している。
「選挙人の自由な意思の表明を容易にし、もって選挙の公正を確保するためには、投票が平穏な状態の下に行われることが必要であることから、投票所の秩序を乱す者があるときは、投票管理者はこれを制止し、命に従わないときは投票所外に退出させることができるとされています。
したがって、投票所内での写真撮影については、次のようなことが懸念されるところであり、平穏な投票手続の進行が阻害されることも考えられ、そのような場合には投票管理者が当該行為を注意し制止する場合もあります」
東京都選挙管理委員会は「シャッター音のほか撮影に伴う所作などから、他の選挙人に対し、不安感や動揺など心理的な影響を与えること」「他の選挙人が映り込むことや、指示どおりに投票したか確認するための手段として使われることで、投票の自由や投票の秘密を侵害する可能性があること」などを理由として挙げている。
また、「投票所を運営管理する区市町村選挙管理委員会によっては、投票所の秩序維持のため、あらかじめ要綱等を定め、投票所内で撮影を禁止している自治体もあります」として、各投票所のルールを遵守するよう、呼びかけている。
●投票日当日はそもそも選挙運動が禁止
投票所で撮影し、SNSに投稿する行為のリスクは他にもある。公選法では、ネットでの選挙を禁止していないが、公示・告示日から投票日の前日までと定めている(公選法129条・239条)。
これは候補者だけでなく、有権者も対象となっており、たとえば投票日当日、「今日は投票日です。私はA候補に投票しました。みなさんもA候補への投票お願いします」などとSNSに投稿し、特定の候補への投票を呼びかけることは、公選法129条に反する恐れがある。
違反した場合は、1年以下の禁錮または30万円以下の罰金に処するとされており、選挙権や被選挙権がはく奪されるおそれもある(公職選挙法239条)。
なお、投票日当日は選挙運動にあたるような候補者の投稿をSNSでシェアしたり、リポストする行為も、同じように公選法129条にあたる可能性があるので、気をつけたい。
(監修:濵門俊也弁護士)