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町長の「うそ本」発言で閲覧不可→反論文付の貸し出し 「図書館の憲法」に反する?
御嵩町の図書館で閲覧不可となった本(2022年3月/弁護士ドットコム撮影)

町長の「うそ本」発言で閲覧不可→反論文付の貸し出し 「図書館の憲法」に反する?

町長が「うそ本」と断定した本が、町の図書館で閲覧不可に——。

問題になっているのは、岐阜県御嵩町の図書館。2021年2月に出版された書籍「テロと産廃 御嵩町騒動の顛末とその波紋」(杉本裕明著・花伝社)について、渡辺公夫町長が「うそ本」などと議会で発言したことをきっかけに、2021年3月から町の図書館で閲覧ができない状態が続いてきた。

今年3月の町議会でこの問題が発覚して報道されると、渡辺町長が批判した本を図書館が閲覧不可にしていたことについて、「検閲ではないか」という指摘が相次いだ。

戦前の図書館が「思想善導」(思想統制の政策)の機関として機能した反省などから、日本図書館協会は憲法にもとづき、「図書館の自由に関する宣言」(1954年採択、1979年改訂)を採択している。

この宣言は、「図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする」とうたい、「図書館の憲法」とも呼ばれる。御嵩町の図書館にも掲示されているという。

「知る自由」を守るはずの図書館で起きた「事件」。どのような問題があったのだろうか。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●町長が「うそ本」と発言、閲覧不可に

まず、閲覧を不可とされた本は、どのようなものだったのか。

御嵩町で産廃処理施設の建設計画が持ち上がり、1990年代、賛成派と反対派の対立が激しさを増した。そうした中、建設中止を掲げて当選した町長(当時)が1996年、何者かに襲撃され、瀕死の重傷となる殺人未遂事件が起きた。

この事件をきっかけに、御嵩町では全国初となる産廃処分場の是非を問う住民投票がおこなわれた。「テロと産廃 御嵩町騒動の顛末とその波紋」は、そんな御嵩町の町政をルポした本で、著者のジャーナリスト、杉本さんが2021年3月に図書館に寄贈していた。

しかし、取材を受けた渡辺町長が2021年3月、町議会でこの本を「うそ本です」と発言し、図書館では閲覧ができない状態となっている。

「また、不快な本が出ていますけれど、いきなり最初から名前が出ましたが、うそです。私取材を受けましたので、レコーダーで取っているから安心していたんですけど、うそです。大切なことが書いていない。今読み進んで、面白くないんで時間がかかるんですけれども、反論満載のうそ本です。そういう意味では、図書館に置いてくれなんて送ってきたみたいですけど、あんなでたらめを置くわけにいかんなあということを正直思っております」

町の教育委員会は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して、今後、閲覧できるようにすると話しているが、「閲覧や貸出の際には、本に町長の反論文を貼り付ける」としている。

●「図書館の自由に関する宣言」とは?

「図書館の自由に関する宣言」は、図書館の任務を果たすために次の4つを確認して実行するとしている(抄訳)。

第1 図書館は資料収集の自由を有する。  
第2 図書館は資料提供の自由を有する。  
第3 図書館は利用者の秘密を守る。  
第4 図書館はすべての検閲に反対する。

これらのうち、御嵩町の図書館の対応は第1と第2と照らし合わせて「問題がある」と皇學館大学の岡野裕行准教授(図書館情報学)は指摘する。

まず、第1では「図書館は、国民の知る自由を保障する機関として、国民のあらゆる資料要求にこたえなければならない」とされている。

「御嵩町の図書館では、『テロと産廃 御嵩町騒動の顛末とその波紋』の所蔵登録がされないことで、1年間の貸し出しがなされなかったことは、問題だと考えます。近隣図書館への取り寄せへも対応できていなかったことで、ほかの自治体の利用者にも影響が出てしまっています」

さらに、「図書館は、自らの責任において作成した収集方針にもとづき資料の選択および収集を行う」としており、その際には「多様な、対立する意見のある問題については、それぞれの観点に立つ資料を幅広く収集する」ことを求めている。

これについても、岡野准教授は「たとえ自らの自治体にとって不都合なことが書かれた資料であっても、知る自由にこたえるためには、さまざまな観点の資料を収集することが不可欠です」と話す。

●閲覧させるが、町長の反論文を「貼り付け」

「テロと産廃 御嵩町騒動の顛末とその波紋」は本来、図書館では「地域資料」という重要な資料にあたると考えられる。

図書館法では、図書館に対し、「郷土資料」および「地方行政資料」(地域資料)を収集して一般の利用に供するよう求めているほか、御嵩町の図書館の管理運営に関する規則をみても「地域資料」は重要な資料として位置付けている。

「それぞれの自治体に関する地域資料は、網羅的な収集・保存が求められます。それを意図的に排除しようとしていることは特に問題です。図書館法や御嵩町の管理運営に関する規則に照らし合わせても、無視した運用がされています」(岡野准教授)

また、今後の対応として御嵩町は町長の反論文を「テロと産廃 御嵩町騒動の顛末とその波紋」に「貼り付ける」とする。これについても、「図書館の自由に関する宣言」の第2に「図書館は資料提供の自由を有する」に触れると岡野准教授は説明する。

「宣言では、国民の知る自由を保障するため、『すべての図書館資料は、原則として国民の自由な利用に供されるべきである』として、正当な理由がない限りは特別扱いしたり、資料の内容に手を加える、書架から撤去したり廃棄しないことを求めています。

しかし、町長の反論文を貼り付けるということは、資料の内容に手を加えることに該当する恐れがあります。そもそも、杉本氏の著作物はそれだけで完結した状態で流通しているものであり、町長による反論の文書は別の著作物です。

他者(杉本氏)の著作物に自ら(町長)の著作物を抱き合わせようとするときに、どういう『正当な理由』があるのか不明です」​​(岡野准教授)

●町長の反論文は独自の資料として扱うべき

さらに、利用者の読書をコントロールすることにもつながると指摘する。

「図書館の資料は『国民の自由な利用に供されるべき』となっています。ここで言う『自由な利用』とは、『利用者が読みたい資料を選ぶ自由』だけでなく、『利用者が読みたくない資料を選ばない自由』も含まれると考えられます。

『当該の本は読みたいが町長の反論の文書は読みたくない』という利用者には、どのように対応するつもりなのかも説明が必要でしょう。利用者の読書をコントロールする権利は、町長にも教育委員会にも存在しません。

これは、戦前の図書館がおこなっていた『思想善導』への反省にも関わることです。町長の反論文は、独自の資料として、あくまでも個別に管理・提供すべきであり、一体化させることは慎むべきです。

多様な意見が出てくるように、今回のできごとのように事前に利用を制限してしまうのではなく、町長自ら地域資料をさらに充実させる方向に進めたほうが健全な対応でしょう。言論活動に対しては言論で対処すべきであり、押さえつける方向には進めないようにしたいです」(岡野准教授)

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