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安倍首相が訴えた憲法「緊急事態条項」は本当に必要なのか 私権の制限に賛否
憲法フォーラムにビデオメッセージを寄せた安倍晋三首相

安倍首相が訴えた憲法「緊急事態条項」は本当に必要なのか 私権の制限に賛否

安倍晋三首相は憲法記念日の5月3日、改憲派がオンライン上で開催した「憲法フォーラム」に自民党総裁としてビデオメッセージを寄せました。

新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、憲法を改正し、緊急事態条項を設けることについて、国会の憲法審査会で議論を進めるべきと訴えました。

新型コロナウイルスをめぐり、政府は4月7日に緊急事態宣言を発令していますが、これは新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づくものであり、憲法改正による緊急事態条項とは全くの別物です。

では、緊急事態条項とはどのようなものでしょうか。安倍首相の発言も踏まえ、各党の緊急事態条項に対するスタンスをまとめます。(ライター・オダサダオ)

●政府に大きな権限を与え、私権の制限などの措置を取れる

緊急事態条項は、国家緊急権を規定する法規定です。国家緊急権とは、戦争や災害など、平時の統治機構では対処できず、国家の平和や独立が脅かされるような非常事態が発生した場合、憲法秩序を一時停止し、政府機関に大きな権限を与えたり、私権を制限したりするなどの緊急措置を取ることで、事態の収拾を図る権限のことです。

2020年4月7日に発令された緊急事態宣言では、国民の生活および経済に甚大な影響を及ぼす事態が発生したとして、外出制限の要請などが出されました。憲法改正による緊急事態条項との違いは、外出制限などはあくまでも要請にすぎないということです。緊急事態条項では、基本的人権の制限を認めていますので、一定の強制力があります。

憲法は、国民の権利を保障する法体系です。一方、国家緊急権は、非常事態に権利を制限して秩序維持を図るというものです。そのため、国家緊急権をめぐっては様々な議論があります。他方、非常事態が発生した場合は、一刻も早い収拾が求められます。そのため、非常事態に備えて、ほとんどの国で国家緊急権は憲法に盛り込まれています。

日本の場合、大日本帝国憲法では、天皇が国家緊急権を行使する規定が制定されていましたが、戦後制定された日本国憲法では盛り込まれていません。

●憲法改正草案に盛り込んだ自民党、慎重な立場の公明党

緊急事態条項についての各党の立場はどのようなものでしょうか。まず、今回の安倍首相のメッセージに代表されるように、緊急事態条項を憲法に盛り込もうとしているのが自民党です。2012年に公表した憲法改正草案にも緊急事態条項が含まれています。日本国憲法改正草案Q&Aで、緊急事態に関する規定を設ける理由を「国家の生命、身体、財産の保護は、平常時のみならず、緊急時においても国家の最も重要な役割です」として、憲法に明確に規定することを目指しています。

自民党が2018年にまとめた改憲案4項目にも盛り込まれました。

日本維新の会は、憲法改正には賛成の立場を取っており、緊急事態条項についても必要性を指摘する議員がいます。2020年1月28日の衆議院予算委員会で馬場伸幸議員が緊急事態条項の必要性に言及しました。

自民党と連立を組んでいる公明党は、緊急事態条項の新設には慎重な立場です。4月9日の記者会見で、北側一雄副代表は権利・自由を制約する根拠を設ける必要はないとして、緊急事態条項新設には、否定的な立場を示しています。

●私権の制限に複数の野党から反対の声

一方、明確に反対しているのが立憲民主党や社民党、共産党、れいわ新選組です。これらの党は、国家緊急権は私権を制限するとして、緊急事態条項の新設に反対しています。

国民民主党も、緊急事態条項新設には慎重な立場です。2019年11月28日の衆議院憲法審査会で国民民主党所属の奥野総一郎議員は、「現行制度で十分であり、憲法改正は必要ない」との意見を述べました。2020年4月15日に玉木雄一郎代表も会見で同様の立場を表明しています。

これまで見てきたように、国家の緊急事態において、私権を制限すべきか否かをめぐって、意見が分かれています。新型コロナウイルスの感染拡大という未曾有の危機を経て、憲法はどうあるべきか。今後、さらに論戦が繰り広げられることになりそうです。

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