100人以上の命が失われたパリの同時多発テロ事件をうけ、フランスへの出張を見合わせる日本企業があいついでいる。朝日新聞の報道によれば、三越伊勢丹ホールディングス、武田薬品工業、東レなどの企業が、当面の出張見合わせなどを通知するようだ。
一方で、フランス企業と共同で事業を進めている会社など、ビジネス上の要請から、フランスへの出張を継続する企業も少なくないだろう。しかし、パリ近郊で18日、フランスの治安部隊と武装グループが銃撃戦を展開するなど、テロ後の緊張が続いており、楽観できない状況だ。
もし会社員がフランスへの出張を上司から命じられた場合、「自分としては、危険だと思う」という理由で、出張を断ることはできるのだろうか。もし断った場合、なんらかのペナルティーを科されるのだろうか。企業法務に詳しい高島秀行弁護士に話を聞いた。
●「業務命令違反」の可能性はあるか?
「企業には、雇用契約上、従業員の生命・身体の安全に配慮しながら、働かせる義務があります。
したがって、フランスが従業員の生命・身体に対して危険な状態にあると判断されるときは、従業員に対し帰国を命じたり、出張を控えたりしなければなりません」
高島弁護士はこのように指摘する。
では、会社側からの出張命令が撤回されなかったため、従業員が自らの判断で、「危険なので、出張にはいきません」と言った場合、なんらかのペナルティーを科されることがあるのだろうか?
「従業員の判断で、出張を断ったり、帰国したりすることが可能かということですが、フランスが現在、客観的に生命・身体が危険な状態にあると判断されれば、会社が危険との判断を示していなくても、なんらかの懲戒処分をうける可能性はないでしょう」
高島弁護士はこう説明したうえで、次のように続けた。
「しかし、会社が『危険ではない』と争えば、業務命令違反となり、懲戒処分もあり得ます。自己判断で出張を断る場合には、後で会社と訴訟で争う覚悟が必要となります。
したがって、訴訟でその根拠を示せるように、生命・身体に危険な状態かどうか、独りよがりではなく、外務省や現地の企業の対応など、客観的な事情から判断する必要があります」
●いまのフランスについてはどうか?
では、今回の場合、どう考えればいいのだろうか。
「現在の状況を見てみると、次のような事情を指摘できます。
(1)テロは起きたばかりで、テロ集団は今後もテロを行うと言っており、現時点ではフランスのどこでテロが起きてもおかしくない状況にあると思われる
(2)フランスで非常事態宣言が出されている
(3)複数の国内企業で出張見合わせなどの措置をとり始めている
以上の3点から、従業員が自らの判断で出張をキャンセルしても、会社側が『危険ではない』と言える状況ではありません。懲戒処分を受ける可能性は低いと考えます」