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創業者vs親会社 高裁で「子会社破産」取り消しの背景にある「特許の扱い」
日機装のパンフレット

創業者vs親会社 高裁で「子会社破産」取り消しの背景にある「特許の扱い」

2月14日、東証プライム上場の企業がある事業からの撤退を発表した。実は、事業のもとになる特許を持っていた連結子会社の破産手続きを始めたものの、創業者が異議を申し立て、昨年末に東京高裁(水野有子裁判長)が取り消していた。破産手続きの前に親会社が買い取った特許の扱いが焦点になっている。(朝日新聞経済部・松浦新)

⚫︎船井電機とは対照的な「破産の取り消し」

親会社は産業用ポンプや医療機器のメーカー「日機装」(本社・東京)で、子会社は「創光科学」(同)。2023年5月に破産手続き開始を申し立て、東京地裁が認めた。これに対して、創光科学の創業者3人が東京高裁に「即時抗告」を申し立てた。これが昨年12月に認められ、破産が取り消された。即時抗告は、大阪の船井電機の破産でも東京高裁に申し立てがあったが、2カ月ほどで却下されている。

創光科学は2006年に名古屋市の名城大学発のベンチャーとして設立された。水や空気の除菌などができる「深紫外線」を出すLEDを研究・開発していた。日機装は設立時からファンドを通じて出資していたが、2012年に連結子会社に加えた。

この際に、創業者の一本松正道さんら3人の株式は議決権のない優先株になり、取締役4人のうち社長を含めた3人が日機装から派遣された。社長だった一本松氏1人が役員として残った。

深紫外線LEDの生産は日機装に移され、2015年に石川県白山市の白山工場で量産化された。新型コロナ禍で除菌装置のニーズが高まり、一時は売上高が伸びた。しかし、日機装は深紫外線LEDの市場が当初期待のように伸びなかったと評価する。

⚫︎事態の経緯

日機装の適時開示や東京高裁の決定によると、事態は次のように進んだ。

2023年1月10日、日機装は創光科学の破産申し立てを決める。同月19日、一本松氏が任期切れで退任。同月31日、創光科学がLEDの特許を5億7200万円で日機装に売却。続けて5月、負債総額が14億円余りで債務超過であるとして創光科学が破産手続き開始を申し立てた。

これに対し、一本松氏ら創業者3人は「債務超過ではなく、破産の申し立ては特許を確保したうえで創業者を排除する不当な目的で行われた」などと即時抗告をした。その高裁決定については後述する。

昨年末に破産が取り消されると、日機装側は1月14日に、最高裁への不服申し立ての許可を高裁に求める「抗告許可」の申し立てをしたが、東京高裁は同月31日に許可しない決定を出す。

2月14日、日機装は2024年12月期決算を発表し、その場で深紫外線LED事業から撤退し、白山工場を今年中に閉鎖することを明らかにした。これにともなう損失として同期に約17億円の評価損を計上した。閉鎖後は製造装置を含めて工場ごと売却する方向で検討しているというが、損失はこれ以上出さないという。

深紫外線LEDを生産するためには特許が必要になる。創光科学の破産は取り消されたが、一本松氏ら創業者側は日機装への特許の売却が不当に安いと主張して争う姿勢だ。

東京高裁は決定で、特許価格について「(創光科学の)支払い不能の判断に与える影響の有無について判断するまでもなく、債務超過または支払い不能の状態にあったとは認められない」として、価格の妥当性の判断までは踏み込まなかった。

画像タイトル 東京高裁の決定

⚫︎高裁は何を判断したのか

東京高裁では次のような議論があった。

日機装は、深紫外線LEDを生産することになった2014年、創光科学が生産をしない代わりに、事業ででた「利益相当額」を支払うとする「合意書」を作った。実際には、事業で利益が出なかったとして支払いはなく、創光科学の運営資金は日機装からの借入金でまかなわれた。

日機装は2014年から2023年までで、売上高にあたる「収益相当額」が約3億7千万円だったのに対して、「費用相当額」が約43億7千万円かかったとして、累計で約40億円の赤字だったと主張した。これに対して、東京高裁は収益相当額が約40億6千万円に対して、費用相当額は約30億5千万円で、「その差額は少なくとも10億1350万3247円となる」と認定した。

焦点は、深紫外線LEDを使った製品の生産のために、日機装が台湾企業とつくった合弁会社からのライセンス料と業務委託料の計60億円の扱いだった。

日機装はライセンス料について「(合弁会社が)実際に利用しているのは日機装の特許のみである」、業務委託料も「(子会社の)日機装技研における研究開発の対価として支払われる」などと主張し、創光科学の収益相当額であることを否定した。

しかし、高裁はライセンス料と委託料の一部についても、「(創光科学が)実質上、自らが本件特許権等を実施する権利を失うことに対する補償である」ことから、「債権者の正当な利益を確保するという観点から判断すべき」として、創光科学の特許が貢献した収益相当額があると認めた。逆に日機装が主張する費用相当額については対象にならないものがあるとして減額した。その結果、10億円余りの利益相当額を認定し、この金額があれば負債総額が14億円余りでも債務超過にならないと結論づけた。

こうして、創光科学の破産は取り消されたが、特許をめぐる一本松氏らの主張が認められたわけでもない。一方で、抗告許可が認められなかった日機装側は、2月7日に最高裁に「特別抗告」を申し立てた。特別抗告は憲法違反がなければ認められないのでハードルは高い。日機装も14日の決算会見でその難しさを認め、「裁判で勝つことより、早期の決着を図るべく、検討している」と話した。

日機装と創業者の争いは、1年半以上かけてふり出しに戻った状態だ。今後は特許の扱いについての協議が避けられない。一本松氏は朝日新聞の取材に「今後の話し合いは日機装側の出方しだい」と話している。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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