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ウーバーイーツ配達員の保護、公取委が「強気のチャレンジ」をする日はくるか 経済法の観点から
ウーバーイーツの配達員

ウーバーイーツ配達員の保護、公取委が「強気のチャレンジ」をする日はくるか 経済法の観点から

公正取引委員会を舞台にしたフジテレビの月9ドラマ「競争の番人」(原作:新川帆立)の放送が7月から始まり、独占禁止法を武器に悪の企業と戦う公取委に注目が集まっている。原作の小説の帯には「弱くても、戦え!」とあるが、公取委は強い存在なのか、弱い存在なのかーー。

ウーバーイーツなどのプラットフォーム上で単発の仕事を請け負う人たち、いわゆる「ギグワーカー」をどう保護するのかが、社会的な議論になっており、その役割を担う存在としても、公取委が注目されている。

保護のあり方については、労働基準法や労働組合法といった労働法による保護と、独占禁止法や下請法といった経済法による保護の2つのアプローチがあり、国(内閣官房、公取委、中小企業庁、厚労省の連名)が2021年に発表したフリーランスガイドラインにも記載されている。

現在、ウーバーイーツ配達員でつくるウーバーイーツユニオンが、労働組合法上の労働者性を東京都労働委員会で争っているが、国の新たな政策的な動きは見られない。そうであれば、経済法の文脈で、「強い公取委」の登場に期待できないか。

経済法を専門とする弘前大学の長谷河亜希子准教授は「極めて慎重な体質やマンパワー不足などで、公取委は『弱いから、戦わない』となっているのが現状です。しかし、ギグワーカーを含めた日本のフリーランス保護のために、法執行をちゃんとすべきです」と語る。具体的な論点や課題を聞いた。(編集部:新志有裕)

●独占禁止法の「優越的地位の濫用」にあたるか

まず、独占禁止法や下請法はどのようなギグワーカーの保護にどんな役割を果たせるのだろうか。

独占禁止法で検討すべき典型的なものとして、不公正な取引方法の一類型である「優越的地位の濫用」(2条9項5号)が挙げられる。これは、国のフリーランスガイドラインにも出てくる。

ガイドラインでは、「フリーランスにとって仲介事業者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、仲介事業者がフリーランスにとって著しく不利益な要請等を行っても、フリーランスがこれを受け入れざるを得ないような場合」としている。

具体的な行為として、報酬の支払い遅延や、報酬の減額、著しく低い報酬の一方的な決定など12項目が挙げられている。

ウーバーイーツのようなプラットフォーム上での働き方については、運営会社による「著しく低い報酬の一方的な決定」が考えられるが、長谷河氏は、ガイドラインにもその報酬の目安がないことを問題視しており、「例えば、5000円という金額が著しく低いかどうかの判断は難しいでしょう。そこで、地域別の最低賃金を参考にしたらどうかと考えています」と語る。

他にも、一方的な報酬体系の変更や、一方的なアカウント停止なども「優越的地位の濫用」として、問題になりうるという。

また、2022年6月に地裁判決が出た「食べログ」裁判で話題になったように、ブラックボックスになっているアルゴリズムの変更によって不利益が生じることも「優越的地位の濫用」として検討課題になるとみている。

ただ、「優越的地位の濫用」などをめぐり、事業者相手に民事裁判を起こす場合、フリーランス側に立証責任があることが大きな問題だとしている。

「対フリーランスという意味では、発注者や仲介業者が優越的地位にあると事実上推定して、違うというなら、事業者側に立証させた方がいいのではないでしょうか。個人であるフリーランスには立証責任の負担が重すぎて、大きな壁になっています」

画像タイトル barman / PIXTA

●アメリカでは「欺瞞的勧誘」で罰金が科された事例も

長谷河氏は、独禁法のもうひとつの規制として、「欺瞞的勧誘」(不公正な取引方法の一類型、一般指定8項)に注目している。これは、供給する商品やサービスの内容、取引条件について、著しく優良、有利であることを顧客に誤認させることだ。

フランチャイズ本部による加盟者募集をめぐる問題での適用が考えられるものだが、長谷河氏は、プラットフォーム運営会社への適用も検討すべきだと考えている。

「ただ、実際に適用された事案自体がほとんどなく、国のフリーランスガイドラインでも記述はありません。しかし、同様の規制があるアメリカでは、ウーバーの欺瞞的なドライバー勧誘に罰金が科されたこともあります。商品やサービスの提供が規制の対象なので、適用しにくいなら、指定の改正をして、役務発注者(プラットフォーム運営会社など)も対象にすればいい」

●下請法では発注書面の交付義務などが発注者に課されている

一方、下請法については、親事業者の資本金が1000万円以上であり、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託が規制対象となる。国のフリーランスガイドラインにも記載されており、発注書面を交付しないことなどが禁止されている。

ウーバーイーツの場合、運営会社と配達員との間に、そもそも業務委託契約が結ばれておらず、アプリの利用契約などにとどまっていたが、ようやく今年7月に、運営会社と配達員との間の委託契約という形に変更する旨の通知が運営会社からなされた。

ただ、これまで海外法人と日本法人の双方と契約する形になっていたこともあり、今後、どう変わっていくのかは不透明な部分がある。

「世界中で『ウーバーは仲介しているだけ』という主張が認められずに、ドライバーの労働者性が認められているわけです。そういう言い分が通るのは望ましくないと思っています。いま都労委で争われている労働組合法上の労働者性に加えて、下請法の対象になるかどうかも重要ですね」

●公取委はチャレンジングな動きができるか

そして、独占禁止法や下請法が適用されるかどうかという理論的な話に加えて、公取委が本当に動けるかどうかという問題が存在する。

例えば、公取委に対しては、独占禁止法に違反している行為を申告する仕組みがあるが、取り上げるかどうかは、公取委の裁量にかかっている。

「毎年数千件という申告がありますが、ほとんど期待はできません。また、相談もできるのですが、これは違法行為をする可能性がある事業者が相談するものですので、被害者のための相談制度ではありません。

ただ、2009年にセブンイレブンが加盟店の見切り販売を制限していたことをめぐって、排除措置命令が出たことがありますが、相当な数の申告が影響したことが考えられますので、申告すること自体はやめないでほしい。まだギグワーカーのようなフリーランスについては、具体的な規制基準も確立されていないので、これからの動きが重要です」

さらに、労働基準監督署の監督官が3000人以上いることと比較して、公取委には人員が800人程度しかないことも問題視している。

「人員的につらいというのはあるのかもしれませんが、せっかくフリーランスのガイドラインを作っても、それで満足したら意味がありません。絵に描いた餅で満足するのではなく、実際に動いてほしい」

長谷河氏は、海外との比較でも、公取委の保守的な体質が浮き彫りになると指摘している。

「例えば、アメリカの競争当局は、カルテル規制や企業結合規制など、ありとあらゆる手段を尽くして労働問題にチャレンジしています。ただ、アメリカを含め、各国の競争当局は裁判で結構負けるんですよ。それを許容しないと日本の公取委はチャレンジできないでしょうね。

いま、日本で公取委が出した排除措置命令をめぐって、裁判で公取委が敗訴したりすると、もう天変地異が起こったかのような大騒ぎになります」

●「労働組合法の労働者概念をさらに拡張してはどうか」

これまで、長谷河氏の専門である経済法の観点からみてきたが、逆に、労働法についてはどう考えているのか。長谷河氏は、「労働組合法上の労働者の範囲をさらに広げてはどうか」と提案する。

現在でも、労働組合法上の労働者については、労働基準法上の労働者よりも対象が広いため、日本プロ野球選手会のように、フリーランスでも労働組合を結成できるが、さらに幅広いフリーランスが労組を結成できるようにすべきということだ。

「もし今後、公取委と厚労省の連携が進んで、フリーランスの問題を労働基準監督署が担当することになったとしても、3000人の監督官では全然まわらないでしょう。ですから、仕事自体をわかっている人たち、つまり労使の自治に任せるということですね。

アメリカでは、フリーランスが労働組合を結成することはできず、カルテルとして規制される可能性がありますが、日本はフリーランスでも労働組合法上の労働者性が認められるという特殊性があります。だからこそ、もっと労組を作りやすくするということですね」

労働組合とは別の存在として、中小事業主が協同組合を設立して、取引先との交渉や団体協約の締結を可能とする中小企業等協同組合法もある(日本俳優連合などが有名)が、取引先の企業には交渉に応じる義務がないことや、協同で組合員向けの事業を行う必要性があることなどから、この法律での対応は不十分だと考えているそうだ。

●国の「フリーランス新法」、本気度を示せるか

結局のところ、日本においては、ウーバーイーツのようなプラットフォーム労働について、労働法でも経済法でも、新たな政策形成の動きは見られず、国が発表したフリーランスガイドラインのように、既存の労働法と経済法を使う形での対応が打ち出されている。そして、岸田政権は、フリーランス新法の立法も打ち出している。

「最低限のものとして、契約や発注書面の義務化は入れるべきでしょうが、もっと踏み込んだものにしてほしいですね。フリーランスの中には、その実態は労働基準法上の労働者であるという人が少なからずいます。

彼らが、自分たちは労働者であると訴えた場合には、発注者側が彼らは労働者ではなく個人事業主であることを立証するというように、立証責任をフリーランスから発注者側に転換するといったものですね。

そして、フリーランスガイドラインでは、公取委と厚労省がきちんと連携しているように見えなかったので、本当に公取委が役割を担うのか、やれないなら、厚労省がやるのか、それとも新しい道を探るのか、ということについて、本気で考えるべきでしょう。

フリーランスでも労基署を使えるといったことや、公取委に新たな被害申告の受け入れ窓口を作るなど、さまざまな手が考えられます。何の保護もなく、ギグワーカーを国が見捨てるようなことにはなってほしくない」

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