緑色を基調にした表紙の中央に、動植物の写真が大きくプリントされている――。小学生を中心に、40年以上のロングセラーを続けている「ジャポニカ学習帳」の表紙デザインだ。小学生のころ、愛用したという人も多いのではないだろうか。
このジャポニカ学習帳を製造・販売するショウワノートは8月5日、ジャポニカ学習帳が「立体商標(文字なしのもの)」として登録されたことを発表した。ノートとしては、日本初だという。
この「立体商標」とは何だろうか。商標が登録されると、どうなるのだろうか。商標制度にくわしい岩永利彦弁護士に聞いた。
●「立体的形状」も商標として認められる
「商標とは、ごく簡単に説明すると『誰が作った物なのか』『誰が提供しているサービス』なのかを表すマークです。自社の商品を、他社の商品と区別するための標識として使うものです。
商標はふつう、ロゴやキャラクターの文字や図形が使われますが、『立体的形状』も、商標として登録することができます。それが『立体商標』です。
たとえば、不二家の店頭に置かれた『ペコちゃん人形』や、ケンタッキーフライドチキンの『カーネルサンダース人形』が、立体商標のわかりやすい例ですね」
●商標制度は「デザインを保護する制度ではない」
今回は、人形や看板ではなく、「ノート」というありふれた形状のものだが、それでも「商標」となるのだろうか?
「商標と認められるかどうかは難しい問題です。ありふれた形状かどうかというだけが、単一の判断基準ではありません。商標登録の要件は、商標法3条と4条に列挙されています。ショウワノートのジャポニカ学習帳については、この『商標登録の要件』を満たしていると、特許庁が認めたということです」
商標が登録されると、他人が同じようなデザインのノートを作ったら、「商標法違反」となる?
「そこは難しい問題です。
そもそも商標制度は、一次的には、自分の商売と他人の商売とを混同させないようにするマーク(商標)を保護し、ひいてはマークが持つ『信用』を保護するための制度です。
デザインそのものは意匠制度という、別の制度で保護されています。
仮に、ペコちゃん人形そっくりの人形を店先に置いて商売をしたら、立体商標の商標権侵害となるでしょう。こうした人形は、一般的にみても、『看板』であり『商標』といえるからです。
しかし、ノートは実用品です。これは、あくまで現時点での私見ですが、ノートのような実用品の場合、商標権をもって『似たようなデザインのノートを作るな』とまで、主張できるかは微妙です」
●「メーカーが混同されるかどうか」がポイント
「『氷山事件』の最高裁判決(昭和43年2月27日)でも、《商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきである》とされています。
これをかみ砕くと、商標侵害があったかどうかは、2つの商標を比べて、メーカーが混同されるかどうかで決めるべきだ、ということです。
つまり、比べる対象は『商標』であることが前提となっています。実用的な商品であるノートの場合、一般的にみて商標だといえる看板や人形と同じように考えることが妥当かどうかは、実に難しいと思います」
デザインがそっくりなら、メーカーの混同もあるのでは?
「いいえ、そうとも言い切れません。
たとえば、ジャポニカ学習帳と全く同じレイアウト・デザインだけども、大きく『弁護士ドットコム学習帳』と書かれたノートがあったとしましょう。
たとえデザインなどが似ていても、大きく『弁護士ドットコム学習帳』とあれば、『ショウワノート製ではない』と分かります。両者を混同するおそれはありません。こうした表示を『打ち消し表示』といいます。
もし混同されるおそれがないなら、『このノートはジャポニカ学習帳ではない。レイアウト・デザインが似ていても、それを商標として使っているわけではない』といえれば、商標権侵害とならないと考えられます」
岩永弁護士はこのような見解を示したうえで、「これは現時点での私見です。これは、そう前置きしなければならないぐらい、難しい問題だと思います。正確なところは、立体商標の商標権侵害が争点となった裁判で、最高裁判決が出ないと決着が付かないのではないでしょうか」と話していた。