山崎製パンは、子会社のヤマザキ・ナビスコが製造・販売してきた菓子「リッツ」「オレオ」など4製品の製造を8月末で終える。
ヤマザキ・ナビスコは、米国ナビスコ社と山崎製パン、そして日綿実業(現在の双日)との合弁会社として、1970年に設立された。リッツは、同社の最初の製品として翌年に発売された。小麦粉の品質の違いなどが原因で、米国のレシピをそのまま持ち込むことはできず、同社が小麦粉の開発から手がけ、日本国内での発売に至った。
販売終了の理由は、商標を持つモンデリーズ・インターナショナルとのライセンス契約が切れるからだという。9月以降はモンデリーズ日本法人が販売するということだ。
このような場合、ヤマザキ・ナビスコは、オレオやリッツを作ることはできないのだろうか。たとえば、オレオ、リッツにそっくりだけど、名前の異なる商品を販売したとしたら、どのような問題になるのだろうか。商標の問題に詳しい冨宅恵弁護士に聞いた。
●「リッツ」「オレオ」の名前を使うことができるのか
「ひとくちにライセンス契約といっても、今回のケースでは、商標権をめぐる問題とそれ以外の権利の問題に分けて考える必要があります」
冨宅弁護士はこのように切り出した。
「商標は、商品やサービスの提供者を示す表示です。特許庁に出願し、一定の要件を備えたものについて登録が認められ、特許庁に登録されると商標権という権利が与えられます。
商標を登録する場合には、商標の対象となる商品やサービスを指定しなければなりません(複数の商品やサービスを指定することも可能です)。
そして、商標権は、第三者が、同一の商標や類似の商標を、(1)同一の指定商品や指定サービス、(2)類似の指定商品や指定サービスに使用した場合に、第三者による使用を禁止し、第三者の使用により被った損害の賠償を求めることができる権利です。
商標は、誰によって商品やサービスが提供されているかを示すだけでなく、繰り返し使用されることにより、商品の品質やサービスの質を保証する機能を持つようになります。さらに、信用を勝ち得た商標は、商標そのものが宣伝広告機能を持つようになります」
リッツとオレオについては、どう考えればいいのか。
「まさしく、『リッツ』や『オレオ』などの商標は、表記を見たり、呼称を聞くだけで食感や味覚を思いおこすことができるほど定着していますので、宣伝広告機能を獲得した商標の典型であるといえます」
●そっくりの商品を販売した場合は?
ヤマザキは、「リッツ」「オレオ」という商標を使用できなくなる結果、同名の商品を販売することができなくなるというわけだ。では、名前は違っても、そっくりの商品を販売することはできるのだろうか。
「商標権は、あくまで、商品やサービスの出所表示を独占する権利であり、対象となる商品のレシピや製法、サービスの提供方法にまでは権利が及びません。
ですから、商標権によって、第三者がレシピや製法、提供方法を模倣することを禁止することはできません。
仮に、ヤマザキ・ナビスコが商標権のライセンスのみを受けていたならば、あの『リッツ』や『オレオ』などを、商品名を変更して製造し、販売することが可能です。
ところが、発表を見る限り、ヤマザキ・ナビスコは、商標権だけでなく、『リッツ』や『オレオ』などの製造に関する技術についてもライセンスを受けており、このライセンス契約も商標権のライセンスとともに終了するということです。
ヤマザキ・ナビスコは、ライセンス契約終了をもって『リッツ』や『オレオ』などを製造することができなくなり、在庫を売り切った時点で販売も終了することになります。また、別の名称をつけたとしても、同様の製法で作った商品を販売することもできなくなります。
ただし、モンデリーズ・インターナショナルの日本法人が『リッツ』や『オレオ』などの製造・販売を引き継ぐようですので、私たちが『リッツ』や『オレオ』などを手に入れられなくなることはなさそうです。
ところで、製法などの技術について、ライセンスによって提供を受ける場合、ライセンスを受けた側は、競業する商品を製造しないという制約が課され、他国への販売が禁止されるのが一般的です。ヤマザキ・ナビスコも、このような制約を受けているようです。
ヤマザキ・ナビスコは、ライセンス終了によってこれらの制約から解放されることになりますが、今後は、自社開発により『リッツ』や『オレオ』などを上回る商品を私たち消費者に提供し、それが海外にいても普通に目にする商品となることを期待しています」
冨宅弁護士はこのように分析していた。