2015年06月01日 16時25分

中国・復旦大学が東大プロモビデオ「盗作騒動」で謝罪――著作権侵害はあったのか?

中国・復旦大学が東大プロモビデオ「盗作騒動」で謝罪――著作権侵害はあったのか?
復旦大学のプロモーションビデオ(左)と東京大学のプロモーションビデオ(右)(YouTubeより)

上海にある中国屈指の名門校・復旦大学が発表したプロモーションビデオが、東京大学が昨年公開したプロモーションビデオの盗作ではないかと騒動になった。復旦大は5月下旬、東大のビデオを参考にして制作したことを認め、謝罪した。

復旦大のビデオは、創立110周年を記念して制作され、5月27日に公開された。飛行服を着た女性が大学構内をめぐり、ラストシーンでヘルメットを脱ぐという内容だ。一方、昨年4月に公開された東大のビデオは、宇宙飛行士が大学の研究室などを訪ね歩き、最後にヘルメットをとると、卒業生で宇宙飛行士の山崎直子さんだったというものだ。

報道によると、復旦大は今回のビデオを制作する際、テーマが似ていたため、東大のビデオの表現手法などを参考にしたという。復旦大は「社会に悪影響をもたらし、大学の名声を傷つけ、みなさんの感情を害したことに心から謝罪する」という文書を発表した。すでに、新しいビデオに差し替えられている。

今回の盗作ビデオ騒動は国境を超えて、大きな話題になったが、法的にはどうだったのだろうか。著作権にくわしい冨宅恵弁護士に聞いた。

●「翻案権」を侵害しているか

「今回のケースのように映像がよく似ていることを理由として、訴訟に発展する事例が日本においてもあります。

比較的最近では、NHK大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』の第1回放送のいくつかのシーンが、故・黒澤明監督の映画『七人の侍』の著作権を侵害している、として訴訟になりました。

また、訴訟にまで発展しないものの、ある作品が盗作ではないかと騒がれることが少なくありません」

冨宅弁護士はこのように切り出した。今回のケースをどう考えるのだろうか。

「問題となった復旦大のビデオは、独自に制作されたもので、東大のビデオの映像を無断で利用しているわけではないので、著作権の一つである『複製権』の侵害は問題なりません。

ただし、特定の映像をそのまま使用したものでなくても、『翻案権』の侵害が問題になることがあります」

翻案権も著作権の一つだが、どのような場合に権利侵害となるのだろうか。

「裁判所では、(1)ある作品を参考にして(依拠して)、(2)参考にした作品の具体的な表現のうち、本質的な特徴が維持されたうえで、(3)具体的な表現に修正・増減・変更等を加えること、と考えられています。

たとえば、元の作品の印象的なシーンがアトランダムに流れ、ところどころに写真が挿入され、目まぐるしくオーバーラップしながらシーンが切り替わる映像は、元の作品の『翻案権』を侵害する、と判断された裁判例があります。

映像を含む表現というものは、(a)抽象的なアイデアから、(b)具体的で創作的な特徴を備える一定範囲の表現と結びつくことにより思想・感情といわれるものになり、(c)さらに、表現が具体化することで完成します。

したがって、『翻案権』を侵害するか否かの判断において重要となるのは、元の作品において実際に表現されているものを基準に判断しなければならないということです」

●「法律的には問題ないが、不快感を覚える内容」

今回のケースは、翻案権の侵害があったといえるのだろうか。

「まず、舞台となった大学という場所は、先駆的な研究を行うところです。また、航空宇宙の分野は、先端技術の花形的存在で、それぞれの技術を象徴する宇宙服、あるいは飛行服を身にまとった人物が、大学の構内を紹介するという設定は、アイデア段階のものといえます。

さらに、宇宙服あるいは飛行服を身にまとった人物が、大学の構内を探検でもするかのように次々に回っていき、最後にヘルメットを脱ぎます。その人物が花形的技術に関連する職業に従事する卒業生(女性)であるという設定は、一定の範囲の表現と結びついた思想、感情の段階のものといえます」

では、具体的な表現はどうだろうか。

「2つのビデオを詳細に比較すると、それぞれ大学が異なるため、登場人物が紹介するキャンパス内の映像は異なります。また、紹介する研究分野にも違いがあります。

また、東大のビデオの特徴は、東京の街と東大の構内を探検する様子を比較的短い時間で交互に紹介し、東京の街の魅力を含めた大学をアピールする内容になっています。

それに対して、復旦大のビデオは、一部中国の文化を紹介しているものの、主に大学構内の紹介にとどまります。

また、東大を紹介する宇宙飛行士はディスコの場面で、コミカルな動きをするなど個性をもった人物として表現されています。一方で、復旦大を紹介する飛行士に個性は与えられていません。

これらから、復旦大のビデオは、東大のビデオの翻案権を侵害しないと考えてよいでしょう」

なぜ、今回のような盗作問題に発展したのだろうか。

「法律的には問題がないとはいえ、独創性が尊ばれる大学において、他の大学のアイデアや思想、感情に参考にした表現を対外的に行うという姿勢には、個人的にも承服しかねます。

たとえば、東大のビデオは、東京という街を紹介する一コマとして、ディスコのシーンが違和感なく使用されていますが、復旦大のビデオにはディスコのシーンが非常に短い時間ながら唐突に現れます。東大のビデオの依拠性をことさらに強くし、不快感すら覚えます。

おそらく多くの方々が私と同じ感情を抱いているため、復旦大のビデオが批判にさらされ、ビデオ差し替え・謝罪にまで発展したのではないかと思います」

冨宅弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

取材協力弁護士

冨宅 恵弁護士
大阪工業大学知的財産研究科客員教授。多くの知的財産侵害事件に携わり、プロダクトデザインの保護に関する著書を執筆している。さらに、遺産相続支援、交通事故、医療過誤等についても携わる。

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