静岡県沼津市で昨年9月、公衆トイレの女性用個室トイレに正当な理由なく侵入したとして、建造物侵入の罪に問われた男性に対し、静岡地裁沼津支部が3月14日、無罪判決(求刑・罰金10万円)を言い渡したと静岡新聞などが報じている。
報道によれば、男性は、公判で「おなかが痛くて公衆トイレに行ったが、2つあった男性用の個室はいずれも使えなかった」などとして、無罪を主張していたという。
今回、なぜ男性は無罪となったのか。東山俊弁護士に聞いた。
●なぜ無罪となったのか?
「判決を見たわけではありませんが、今回無罪判決が出た理由としては、次のように考えられます。
『建造物侵入罪』が成立するためには、正当な理由がなく建造物に侵入したこと、つまり違法に侵入したことが必要です。
例えば、令状により警察が自宅を捜索する行為は、仮に住人の意思に反したとしても、正当な理由がありますので、違法な侵入になりません。一方、のぞき目的で風呂に侵入することは、違法な侵入となります。
そして、『建造物侵入』では、正当な理由がないことを検察官が立証する必要があります。今回の件では、検察官が正当な理由がないことの具体的な事情としてのぞき目的を立証しようとしたが、立証できなかったということになると思われます」
●「緊急避難」が成立することも
今回の事例とは別に、一般的に女子トイレへの立ち入りが正当化される場合は、どのようなケースがあるのだろうか。
「正当な職務行為である場合や、やむを得ない場合には、『正当行為』や『緊急避難』が成立し、違法性がないことから、正当な理由があると判断されます。
例えば、捜索令状がある場合には、男性の捜査員が女子トイレに入っても、『正当行為』として、正当な理由があることになるでしょう。
また、今回のケースのように、女子トイレに行かなければ用をたすことができない場合は、用をたさないと体調が悪くなるでしょうし、トイレ以外で用をたすと、軽犯罪法違反になります。そのため、腹痛がひどく、他に方法がないときには、『緊急避難』として、正当な理由があることになるでしょう。
さらに、誰かに追いかけられ、身の危険を感じて女子トイレに逃げ込んだ場合、他に逃げ込む場所がないようなときには、『緊急避難』として、正当な理由があることになるでしょう」