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裁判で「無罪」になったので国や自治体を訴える…コンビニ窃盗事件から考える論点
刑事事件で無罪となったにもかからず、国家賠償の訴訟で敗訴するケースは少なくない

裁判で「無罪」になったので国や自治体を訴える…コンビニ窃盗事件から考える論点

コンビニのレジから現金1万円を盗んだ罪に問われて、無罪判決を受けた男性が国と大阪府に計約1000万円の国家賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は1月中旬、男性の請求を退ける判決を言い渡した。

報道によると、男性は2012年、大阪府泉大津市のコンビニのレジの現金1万円を盗んだとして、強盗容疑で逮捕、窃盗罪で起訴された。証拠とされたのは、入り口の自動ドアから検出された男性の指紋だった。しかし、防犯カメラ映像で、男性がドアに触れていたのは事件5日前だったことがわかり、2014年に無罪となった。

今回のケースのように、刑事事件で無罪となったにもかからず、国家賠償の訴訟で敗訴するケースは少なくない。なぜ国家賠償は認められないことがあるのだろうか。湯川二朗弁護士に聞いた。

●警察や検察が「通常つくすべき注意義務」に違反していたかどうか

「公権力の行使にあたる公務員が、故意または過失によって、違法に、他人に損害を与えた場合、国や公共団体が賠償責任を負うことになります(国家賠償法1条1項)。まちがった逮捕や起訴も含まれています」

無罪とされても、国家賠償は認められないことがあるのはなぜか。

「ただし、『違法』『故意または過失』があったといえなければなりません。刑事事件の場合、逮捕・起訴の時点で、警察や検察が『通常つくすべき注意義務』に違反していたかどうかがポイントになります。

今回のケースでいえば、男性は、コンビニ入口の自動ドアから指紋が検出されたことを証拠として逮捕されました。しかし、事件5日前の防犯カメラに、男性がドアに触れた映像が残っていたため、男性の指紋が自動ドアに残っていたとしても、それが犯人である証拠とはならないという理由で無罪とされました。警察や検察はその映像を逮捕や起訴の時点で確認していなかったということです。

そこで、逮捕や起訴の時点で、事件5日前の防犯カメラの映像まで確認すべき『職務上の注意義務』があったのかが問題となります」

●警察や検察官の判断に誤りがなかったのかを検討する

一般的な感覚からすれば、注意義務があるのではないかと思えるが・・・。

「今回の判決は、逮捕時点で、自動ドアに男性の指紋が検出されたから犯人性が疑わしく、かつ、指紋が事件前に付着していたことをうかがわせる事情があきらかでなかったから、そこまでの捜査は通常求められていない、というもののようです。

問題は、この判断の当否です。逮捕までするのであれば、自動ドアは、レジと違って誰でも触れる可能性があるものなので、防犯カメラの映像をこと細かくチェックするのは大変だとしても、少なくとも1週間前くらいまでさかのぼって確認すべきだというようにも思えます。

ましてや、逮捕された男性が、仮に『初めて行ったコンビニでなく、何日か前に行ったことがある』などと弁解していたのであれば、警察としては逮捕後の捜査で起訴前までに、やはり少なくとも5日前までさかのぼって、防犯カメラの映像を確認すべきだったのではないかと思います。

このように、無罪判決後の国賠訴訟では、刑事裁判の公判資料として提出されていないものも含めて、警察の捜査資料や関係者の供述などを総合的に精査して、逮捕や起訴時点の警察・検察官の判断に誤りがなかったのかを検討することになります。

したがって、残念ながら、無罪となったからといって、ただちに国賠法上の責任が認められることになるわけではないのです」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

湯川 二朗
湯川 二朗(ゆかわ じろう)弁護士 湯川法律事務所
京都出身。東京で弁護士を開業した後、福井に移り、さらに京都に戻って地元で弁護士をやっています。土地区画整理法、廃棄物処理法関係等行政訴訟を多く扱っています。全国各地からご相談ご依頼を受けて、県外に行くことが多いです。

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