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「日本のタトゥー文化を守り、自由を取り戻すための闘い」彫り師が異例の「裁判」へ
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「日本のタトゥー文化を守り、自由を取り戻すための闘い」彫り師が異例の「裁判」へ

タトゥーは「医師法」にもとづき、医師しかできない――。そんなルールに疑問を抱いた彫り師の男性が「無罪」を訴え、刑事裁判にのぞんでいる。大阪府吹田市の彫り師、増田太輝さんだ。女性3人にタトゥーを入れたことが医師法に違反するとして、昨年9月に簡易裁判所から罰金30万円の略式命令を受けたが、納得できなかったため、正式裁判を申し立てた。

昨年末から大阪地裁で公判に向けた準備が進んでいるが、「タトゥーは医師が行わなければいけない」というルールを知っている人は、どれだけいるだろうか。ルールの根拠とされているのが、厚生労働省が2001年に各都道府県にあてて出した『医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて』という通知だ。

この通知の中では、「医師免許を有しない者が業として行えば、医師法17条に違反する」行為の一つとして、「色素を入れる行為」があげられている。つまり、タトゥーも「色素を入れる行為」だから「医業」にあたり、医師しか行うことができないと考えられているのだ。

今回も検察は、医師免許をもたずにタトゥーを彫っていた増田さんの行為が、「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めた医師法17条に違反すると解釈している。だが、その「解釈」は本当に正しいのだろうか。そんな問題を提起するのが、この裁判だ。

なぜ増田さんは、法廷で戦うことを選んだのか。裁判で主任弁護人をつとめる亀石倫子弁護士に聞いた。

●「タトゥー」をめぐる法律と時代の変遷

タトゥーは古代から世界各地で行われていた「身体装飾」で、日本では、遅くとも弥生時代からタトゥーを施す慣習がありました。

日本において、明治時代にタトゥーを施す行為を禁じる法令がありましたが、昭和23年(1948年)に同法令が廃止されて以来、成人にタトゥーを施す行為を明文で規制する法令は存在しません。

時代の変化とともに、伝統的な和彫りだけでなく、タトゥーマシンを用いた現代的な洋彫りなどの新たな技術も取り入れられ、安全・衛生面の知識も向上しました。また、アスリートやミュージシャン、若者などを中心に、タトゥーが広く社会に受け入れられるようになってきました。

当局は、タトゥーを施す行為が、医師にしか行い得ない「医業」に該当すると解釈しています。しかし、この解釈は、医師法の趣旨から考えて大いに疑問があります。

タトゥーは医師でなければ彫ってはならないと言われても誰もピンとこないはずですし、法律にも明確に書いていません。このような大半の人が予測できない解釈に基づいて刑罰を科すことは、法律に規定がなければ刑罰を科せられないという「罪刑法定主義」に違反すると考えています。

また、この解釈は、彫り師の「表現の自由」や「営業の自由」を奪うものです。

彫り師は、人の身体に一生残る「作品」を描くのであり、その創作に誇りを持っているのです。タトゥーを彫ることに求められるのは、技術とセンスです。

「医師であれば彫れる」というものではなく、現に、タトゥーを彫れる医師など存在しないでしょう。このままでは、タトゥーを入れようとしても、日本で合法的にタトゥーを施すこともできなくなってしまい、タトゥーを入れたい人の自由すら奪ってしまうことになるのです。

日本のタトゥー文化は、古代から脈々と受け継がれ、その芸術性が海外からも高い評価を受けています。この裁判は、日本のタトゥー文化を守り、自由を取り戻すための闘いなのです。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

亀石 倫子
亀石 倫子(かめいし みちこ)弁護士 法律事務所エクラうめだ
クラブ風営法違反事件(2016年最高裁で無罪確定)、GPS捜査違法事件(2017年最高裁大法廷で違法判決)、タトゥー彫り師医師法違反事件(2018年大阪高裁で逆転無罪)等の刑事事件を多数手がける。2016年に「法律事務所エクラうめだ」を開設。公共訴訟を支える専門家集団LEDGE代表。

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