「入れ墨・タトゥーをされた方の入場は固くお断りします」。プールや公衆浴場でこのような利用規制の張り紙を目にしたことのある人は多いだろう。観光庁が10月に発表したアンケート結果でも、全国の宿泊施設の56%が、温泉や大浴場での入れ墨客の入浴を拒否していることが分かった。
アンケートは、ホテルや旅館など3768施設を対象に実施。581施設から回答があった。このうち、56%が拒否し、31%が許可、13%が入れ墨をシールで隠すなどの一部条件付きで認めていた。観光客の入浴を一律に断ることについては議論があり、観光庁が実態調査に乗り出していた。
外国では、入れ墨をファッションの一部とする考え方や、民族の風習で入れるケースもあるが、入れ墨を理由に外国人観光客の入浴を断ることは問題はないのだろうか。猪野亨弁護士に聞いた。
●公共性が強くなると「違法」の可能性が高くなる
「その施設が民間であることを前提として、話しましょう。施設にも営業の自由があります。ですから、本来、誰を入浴させて誰を拒否するのかという選択は、自由です。
しかし、不合理な差別的扱いは、国際人権B規約や人種差別撤廃条約にも違反します。憲法の定める『法の下の平等』の理念に反することになると、不法行為として違法と評価されることもあります。
以前、小樽の銭湯で外国人を一律に拒否した銭湯に対して、2002年に札幌地裁で損害賠償請求が認められています。民間であっても公共性が強くなれば、違法とされる可能性も高くなります」
とはいえ、「背中一面の菩薩像」といったレベルの入れ墨だと、周りの客も驚いてゆっくり入浴できないのではないか。
「もちろん、施設側にも一定の合理的な理由はあります。日本人、外国人を問わず、入れ墨をしている人が入浴していると、他の入浴客が不快になったり、それがきっかけで客離れを招きかねないからです。
ただ、ここで想定されている『入れ墨』とは何か、ということを考える必要があります。
入れ墨の習慣のない日本人には特殊なイメージですが、海外ではごく当たり前の習慣だという国も少なからずあります。民族の風習であれば、是非はともかく特殊性はありません。この場合、入れ墨(タトゥーを含む)だから一律に拒否するのは、『外国人だから拒否しているのと変わらず、違法だ』と判断されるのではないでしょうか。
また、入れ墨といえば確かに、龍の彫り物などまさにヤクザのイメージですが、タトゥーという呼ばれ方もしています。タトゥーは従来の入れ墨と異なり、ワンポイントのイメージです。日本でも、小さなタトゥーをしている人はそれほど珍しくなくなりました。こうした状況から、日本人でも外国人でも一律禁止は行き過ぎです」
猪野弁護士はこのように話していた。