架空の交通費など、約900万円の政務活動費をだまし取ったとして、詐欺などの罪で在宅起訴された元兵庫県議の野々村竜太郎被告人。その初公判は昨年11月に神戸地裁で開かれるはずだったが、野々村被告人が欠席したため延期された。そこで、神戸地裁が、野々村被告人を強制的に出廷させる「勾引状」を発付したことがわかった。
報道によると、勾引状が発布されたのは、野々村被告人が1月26日に延期された初公判も欠席する恐れがあると、裁判所が判断したためとみられている。仮に出廷しない場合、神戸地検などが身柄を確保し、神戸地裁へ移すことになる。捜査関係者によると、わずか1回の欠席で勾引状が出されるのは異例ということだ。
野々村被告人は昨年11月、報道陣が取材のために自宅前に来ていたことから、「精神的にパニックになった」として初公判を欠席。公判が延期されていた。
今回、神戸地裁から発付された「勾引状」とは、どのようなものか。拒否した場合、「羽交い締めにして出廷させられる」などの実力行使もあり得るのだろうか。藤本尚道弁護士に聞いた。
●被告人の「不出頭」は罪にならないが・・・
「今回のように、刑事事件の被告人が正当な理由なく公判期日に出頭しなかった場合でも、それだけで何らかの罪に問われるわけではありません」
藤本弁護士は最初にそう説明した。
「ただし、被告人が公判期日に出頭しなければ、原則として、公判を開廷することができません。この点が民事裁判の手続と異なるところであって、刑事裁判では『被告人の出廷』が公判期日を開始するための要件とされています。また、『被告人の在廷』が公判期日を続けるための要件とされています」
今回、神戸地裁から発付された「勾引状」とは、どのようなものなのか。
「勾引状とは、被告人や証人などの身柄を拘束して強制的に裁判所まで連行するため、裁判所が発付する令状のことです。通常は、検察官の指揮に基づき、検察事務官や司法警察員が勾引状を執行します。
勾引状の効力は、裁判所に引致(連行)したときから24時間が経過することで消滅しますが、本件は第1回公判期日で審理を終え、結審する予定のようですから、それで必要十分でしょう」
●抵抗しても、強制的に連行される
勾引状が出されても、なお「体調不良」「精神的パニック」などの理由をつけて、出廷を拒否することはできるのか。
「勾引状が発付された以上、何らかの理由をつけて出廷を拒否することは、もはや不可能というべきです。
ただ、検察事務官や司法警察員も『待ったなし』で勾引状を執行するのではなく、まずは任意の出廷を促すものと思われますので、そのまま『お迎えの車』に乗って裁判所まで任意同行という事態も、あり得るのではないかと考えています」
拒否した場合、それこそ「羽交い締めにして出廷させられる」などの実力行使もあり得るのだろうか?
「勾引も令状による身柄拘束ですから、逮捕状による通常逮捕とほぼ同じ状況だと考えてください。仮に被告人が抵抗したとしても、検察事務官や司法警察員に実力をもって制圧され、たとえ号泣しようとも、強制的に連行されることになるでしょう」
公判に出頭しないことで、起訴された犯罪の刑が重くなることはあるのだろうか。
「今回の『ドタキャン騒動』を受けて、『実刑判決やむなし』の声もあるようですが、野々村被告人は、被害総額とされる1800万円余りの全額について、すでに弁償しています。前科前歴がなく、被害額のすべてを弁償した被告人に対する『実刑判決』は余りに過酷な量刑判断だと思われます。
ただし、裁判官も『人の子』です。正当な理由がないのに公判に出頭しなかった被告人に対しては、『反省の色がない』との判断から、量刑判断が多少厳しくなるかもません」