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「3歳女児」に食事あたえず衰弱死? なぜ母親は「殺人罪」で起訴されなかったのか
幼い子どもをめぐる痛ましい事件が絶えない

「3歳女児」に食事あたえず衰弱死? なぜ母親は「殺人罪」で起訴されなかったのか

やせ細った女児の体内からは、アルミ箔やタマネギの皮が見つかった——。大阪府茨木市で昨年6月に起きた「3歳女児衰弱死事件」。女児の母親(20)と女児の養父にあたる夫(22)は、3歳の長女に食事を与えず衰弱死させたとして、昨年12月に「保護責任者遺棄致死罪」で起訴された。

報道によると、母親と養父は、昨年2年から6月中旬にかけて、長女に充分な栄養を与えず、6月に低栄養により死亡させたとされる。死亡時の体重は約8キロ。同年齢の平均体重の半分ほどだった。女児の体内からは、空腹のあまり口にしたと思われる、アルミ箔やタマネギの皮が見つかった。長女は生まれつき、全身の筋力が低下する難病を抱えていたという。

昨年11月に母親と養父が逮捕されたとき、2人にかけられた容疑は「殺人罪」だった。しかし、検察が起訴した罪状は「保護責任者遺棄致死罪」だ。なぜ、罪が切り替わったのだろうか。元検事の経歴をもつ徳永博久弁護士に聞いた。

●「死んでも構わない」と殺意があったか

「殺人罪は、人が死ぬだろうと認識した上で、その人の生命をおびやかす行為をした場合に成立します。

ここでいう『行為』には、殴る蹴るなどの暴行のほか、何もしないで放置することも含みます。したがって、自分の子どもが死んでも構わないと考えた上で、食べ物を与えなかった場合でも、殺人罪が成立します」

徳永弁護士はこのように説明する。では、「保護責任者遺棄致死罪」はどのような犯罪なのだろうか。

「保護責任者遺棄致死罪とは、老人や幼児などを保護する責任のある人が、本来必要であるはずの保護を怠って放置や置き去りをした結果、保護が必要な人が死亡した場合に成立する犯罪です。

『世話を行わない』という部分は殺人罪と共通していますが、『死んでも構わない』という殺意がない点が大きく違います」

ざっくり言うと、「殺そうと思っていなかったのに、結果として死んでしまった」という場合に保護責任者遺棄致死罪が成立するということだ。

●「世話を行わない」という認識があれば成立

なぜ、起訴の段階で、殺人罪から保護責任者遺棄致死罪へと切り替わったのか?

「逮捕当時は『母親と養父は、女児が死んでも構わないと考えて食事を与えなかった』と判断され、殺人の容疑で逮捕されました。

ところが、その後の捜査を進めていく中で、両親が『亡くなったのは病気のせい』と殺意を否認していることがわかりました。

幼児が難病を患っていたこと等の事情を含めて考えると、両親が『死んでも構わない』と考えていたことの立証が困難であると判断されたのでしょう。そこで、殺意がなくても、『世話を行わない』という認識があれば成立する保護責任者遺棄致死罪で起訴したのだと思われます」

徳永弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

德永 博久
德永 博久(とくなが ひろひさ)弁護士 小笠原六川国際総合法律事務所
第一東京弁護士会所属 東京大学法学部卒業後、金融機関、東京地検検事等を経て弁護士登録し、現事務所のパートナー弁護士に至る。職業能力開発総合大学講師(知的財産権法、労働法)、公益財団法人日本防犯安全振興財団監事を現任。訴訟や企業の不正調査などを中心に、幅広く相談・依頼を受けている。

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