女子児童の下着を盗撮し、SNSのグループチャットで共有したとして、名古屋市の小学校教員が逮捕された事件は、全国の保護者に衝撃を与えている。
逮捕容疑は、性的姿態撮影処罰法違反、つまり「撮影罪」だ。巧妙化する盗撮行為を厳しく取り締まるために創設され、まもなく施行から2年を迎える。
盗撮や痴漢をはじめとする刑事事件を数多く扱ってきた河西邦剛弁護士によると、施行後も盗撮は減っていない印象という。
今回、盗撮して共有していた教員はどんな罪に問われるのか。また約10人がグループチャットに参加していたというが、その人たちは罪に問われないのだろうか。河西弁護士に解説してもらった。
●画像をダウンロードしていたら罪に問われる
──今回の事件で盗撮した画像を共有していた人はどんな罪に問われますか?
撮影罪だけでなく、送信罪にも該当する可能性があります。撮影罪の法定刑は、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金、送信罪は5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、または併科です
ちなみに単にグループチャットに参加していただけの人は、今回の事件において撮影罪に該当しないと思われますが、確実に捜査対象になり、場合によっては関係先として家宅捜索の可能性もありえるところです。
●初犯でも「正式起訴」されるケースも
──撮影罪の施行から2年で何が変わりましたか?
盗撮行為は、以前よりも重く処罰されるようになりました。
施行前は、前科がなければ罰金30万円程度が多かったのですが、撮影罪が施行されてからは、罰金50万円に上がりました。初犯でも、余罪が複数立件された場合には、略式起訴による罰金ではなく、公判請求(正式起訴)されるケースも見られます。
その背景には、都道府県の迷惑防止条例よりも、撮影罪のほうが法定刑が重く設定されていることです。撮影罪の施行前は、たとえば街中で下着をスマホで盗撮する行為は、都道府県ごとの迷惑防止条例で処罰されており、罰金の上限額も条例によって異なっていましたが、一般的には50万円〜100万円以下でした。
撮影罪では「3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」と定められており、罰金の上限だけで見ると3〜6倍になります。懲役刑についても、迷惑防止条例では1〜2年以下だったのに対して、撮影罪では3年以下となっています。
最終的に罰金額は裁判官が判断しますが、法定刑が引き上げられたことで、罰金額の水準も上がってきていると考えられます。
また、罰金にするか、起訴にするか判断するのは検察官です。押収したスマートフォンから複数の余罪が立件できる場合、前科のない初犯であっても、公判請求するケースが増えている印象です。
●飛行機や新幹線での盗撮も処罰対象に
──立法経緯の中で「飛行機内での盗撮内に対応できない」という問題がありました。
航空機内でCAを盗撮する行為や、高速バス・新幹線内での盗撮行為についても、撮影罪の施行後は立件されるケースが増えています。
条例によって処罰されていた時代は、盗撮がその都道府県でおこなわれたと立証できなければそもそも条例は適用されませんでした。また、条例ごとに「犯罪となる盗撮」の定義や範囲も微妙に異なるため、対応にも限界がありました。
特に飛行機や新幹線など、高速移動する乗り物内での盗撮については、どの都道府県で発生したかの特定が難しいため、立件自体が困難でした。しかし撮影罪の施行によって、場所を問わず「盗撮行為は犯罪」として立件が進むようになっています。
●医学的アプローチによって再犯防止を
──盗撮行為は厳罰化で減りましたか?
盗撮被害が減ったという実感は、まだありません。というのも、盗撮をする人間の多くは、逮捕されるまで法律が変わって厳罰化されていること自体を知らないのです。逮捕されたあとに、警察や弁護士から説明されて、ようやくその重さに気づく、というケースが多いです。
法改正によって厳罰化していること、初犯でも起訴される可能性があることを社会に広く伝えていくことが、少しでも被害を減らす一助になるのではないかと考えています。
ただ、同時にいえるのは、盗撮をする人間の多くは、自らの性衝動をコントロールできないという特徴があります。仮に「厳罰化されたからやめよう」という合理的に判断できる人であれば、そもそも盗撮には手を出さないはずです。
また、技術の進歩によって、カメラが小型化し、手口が多様化しています。
したがって、厳罰化の周知とあわせて、医学的アプローチによって加害者の認知を変え、再犯を防ぐという複合的なアプローチが必要だと思います。意思の力だけに頼るのではなく、再犯防止の観点からも「認知を変える医学的アプローチ」が重要です。