被疑者を護送する際に、その意思に反して報道関係者に顔写真を撮影させたことなどが人権侵害にあたるとして、東京弁護士会は6月4日、警視庁と新宿警察署に対して再発防止を求める勧告をおこなった。
勧告は、撮影された被疑者の人権救済の申し立てを受けてのもの。勧告によると、申立人は2023年、新宿警察署から東京地検へ護送される際、報道関係者に顔を見せたくない、衣服で顔を隠したいと求めたが、署員はこの申し入れを拒否した。
署員は駐車場のシャッターを開いた状態で、被疑者を護送車両の前を通らせて乗車させ、車内にも遮蔽措置を講じなかった結果、被疑者(申立人)は駐車場外の報道関係者に顔写真を撮影された。
●撮影拒否する意思を無視した点は「人権侵害の程度が高い」
東京弁護士会は今回の勧告で、1969年の最高裁判決を引き合いに出し、「人はみだりに自己の容ぼうを撮影されない人格的利益を有し、警察官が正当な理由なく撮影することは憲法13条の趣旨に反し許されない」との判旨を示した。
さらに、2022年最高裁判決で草野耕一裁判官が補足意見として述べた「実名報道の制裁的機能を認めるとしても法律上の制裁に対して付加的な限度においてのみ許容されるべき」という見解を引用し、被疑者の顔写真報道にも同様の制約が及ぶと強調している。
東京弁護士会は署員の行為が「報道関係者に申立人の顔写真を撮影及び報道させることを目的とするもの」と認定し、「保障された自己の容ぼう等をみだりに撮影されない自由という申立人の人権を侵害するものである」と結論づけている。
東京弁護士会は、申立人が報道関係者による撮影を明示的に拒否していたことを重視。その意思を無視して撮影させたことは「人権侵害の程度が高い」と批判したうえで、警視庁と新宿警察署に対して、今後、同様のことが発生しないよう求めている。