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サッカー伊東純也選手『逆告訴』の狙いは…リスクは承知の"諸刃の剣" 刑事弁護士の指摘
伊東純也選手(写真:JFA/アフロ)

サッカー伊東純也選手『逆告訴』の狙いは…リスクは承知の"諸刃の剣" 刑事弁護士の指摘

サッカー日本代表の伊東純也選手から大阪のホテルで性被害を受けたとして、女性2人が今年1月に刑事告訴したと報じられた。一方、伊東選手側は2月1日、性被害は事実無根だとして、虚偽告訴の疑いで告訴したという。

今回の報道を受けて、日本サッカー協会は「伊東選手のチーム離脱」を発表し、一時撤回してから結局離脱を決めるなど、伊東選手の活動にも大きな影響が及んでいる。

伊東選手が虚偽告訴罪で"逆告訴"した意味合いとは何か。元東京地検の検事で刑事事件にくわしい西山晴基弁護士は「さまざまなリスクを承知の上で逆告訴したのでしょう」と指摘する。

●刑事処罰がより重くなるリスクとは

——虚偽告訴罪とはどのような罪でしょうか

刑法では、相手に刑事処分などを受けさせる目的で、ウソ(虚偽)の告訴をする行為を虚偽告訴罪と定められています(懲役3カ月以上10年以下)。

——法律用語ではありませんが「逆告訴」にはどのような意図が考えられますか

まず、世の中に事実無根であることをアピールする狙いがあると思われます。

記者会見やSNSなどで、事実無根を主張することも考えられますが、自らその主張を公に発信すると、かえって、その発言について名誉毀損などの理由で責任追及されるリスクがあります。捜査や裁判を通じて、事実無根を主張するほうが、そうしたリスクは少ないです。

さらに、世の中に「訴訟提起や告訴をするだけの証拠があるのではないか」という印象を抱かせる効果もあるでしょう。ただし、事実無根のアピールをすることは、より相手に精神的苦痛を与えるリスクがあります。

逆告訴を受けて、女性側の代理人が「被害者らは更なる精神的苦痛を受けています」というコメントを発表したと報じられているところです。

ましてや、今回のような虚偽告訴罪で刑事告訴したにもかかわらず、裁判で性加害が事実と認められた場合には、単に「犯行を積極的に否認していた被告人」になってしまって、刑事処罰がより重くなるリスクがあります。

虚偽告訴罪で刑事告訴をしたということは、そうしたリスクまで承知の上なのでしょう。

●逆告訴をした「もう一つの狙い」

もう一つの狙いとして、示談交渉に入った場合を想定して、その交渉材料にする狙いもあると思われます。

示談金を支払って、相手に告訴や被害申告を取り下げてもらうための交渉です。当然ではありますが、通常は加害者側が告訴の取下げを求める立場になりますから、不利な立場にあると言えます。

逆告訴があれば、相手にも「告訴を取り下げてもらいたい」と思わせる交渉材料を作ることができます。

逆告訴は「示談交渉での不利な状況を打開するための一手」とも見ることができます。

警察は一般的に、立件の見込みがなければ、弁護士を通じた告訴状の提出があっても、受理してくれないことが多々あります。

そのため、今回、逆告訴が受理されたということは、警察が虚偽告訴の主張についても「一定程度信ぴょう性がある」という心証を抱いた可能性が考えられます。

つまり、性加害の告訴を受理した段階と、虚偽告訴を受理した段階とでは、警察の心証は変わっている、少なくとも、揺らいでいる可能性があります。

そのため、警察は今後、双方の主張の信用性を慎重に判断していくことになるでしょう。

プロフィール

西山 晴基
西山 晴基(にしやま はるき)弁護士 レイ法律事務所
東京地検を退官後、レイ法律事務所に入所。検察官として、東京地検・さいたま地検・福岡地検といった大規模検察庁において、殺人・強盗致死・恐喝等の強行犯事件、強制性交等致死、強制わいせつ致傷、児童福祉法違反、公然わいせつ、盗撮、児童買春等の性犯罪事件、詐欺、業務上横領、特別背任等の経済犯罪事件、脱税事件等数多く経験し、捜査機関や刑事裁判官の考え方を熟知。現在は、弁護士として、刑事分野、芸能・エンターテインメント分野の案件を専門に数多くの事件を扱う。

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