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「隣にかわいい女の子が…」ベランダを決死のカニ歩き…変態行為の言い訳は
画像はイメージです(Graphs / PIXTA)

「隣にかわいい女の子が…」ベランダを決死のカニ歩き…変態行為の言い訳は

「落ちたら死ぬと思いました」。これは、今年9月、大阪地方裁判所にて行われた住居侵入罪を問われる裁判の中で50代の男性被告人が発した言葉だ。

生死がかかる状況と思われるこの言葉、いかにも裁判で語られるにふさわしい、のっぴきならない状況のように思えるが、その目的は変態行為であった。マンションの5階からベランダをつたって、隣の家に侵入するという命がけの行動。事件はあくまで非日常のものだけでない、身近で起きる可能性があると考えさせられる裁判を紹介する。(裁判ライター・普通)

●珍しい「住居侵入」の犯行内容

今回、問われたのは住居侵入罪のみ。実はこれが裁判ではとても珍しい。

住居侵入罪とはその名の通り、正当な理由がないのに勝手に人の居住スペースに立ち入る行為を指す。この場合、窃盗など他の犯罪行為の実行のために立ち入ることが多いため、裁判としては「住居侵入と窃盗」など2つの罪名で起訴されることが多いのだ。

検察官が読み上げる起訴状の内容によると、被告人は事件の日、自身が住むマンションの5階の部屋から、ベランダをつたって、隣の家に侵入したというものであった。罪として問われている事実はこの行為のみだ。しかし、次に語られたその目的の特異性に驚かされることになる。

●「5Fの家のベランダに突如知らない男が」

検察官が主張した事実は以下の通りだ。

被告人は過去、痴漢行為により罰金処分を受けたことが2度ある。被告人の隣の家には若い女性が住んでおり、かわいいと気になっていた。

事件当日、ベランダでパンツ一枚の恰好で涼んでいた被告人は、その女性の下着が見たいと考え、ベランダの手すりに両足を乗せ、遮蔽板を握りながら、女性宅のベランダに入った。干してある下着を見つけると、それを眺めた後、また自身の部屋へ戻っていった。

この行為を被告人は複数回行っていたと取り調べで供述しているが、下着を盗むなどはしていないと言う。事実、被害女性からも窃盗被害の訴えは出ていない。なので、問われる罪は住居侵入のみなのだ。

事件は、被告人がベランダに侵入した日、在宅していた被害女性が現場を目的したことで発覚した。

窃盗被害はなかったとは言え、それはあくまで結果の話であり、被害女性にとっては襲われるかもなど、様々な思いになったことは容易に想像できる。パンツ一枚だった被告人の姿もその恐怖を増幅させただろう。

事件後、被告人はマンションを出たが、被害女性も引っ越しを決めた。

●「痴漢もちょっと触った“だけ”なのに」

弁護人からの被告人質問が始まった。弁護人としては、被告人が正しく罪を認識し、また他の犯罪の意思がなかったことを証明したいところ。

弁護人「被害者の家はあなたの家から見てどちら側ですか」             
被告人「右です」               
 
弁護人「どうやってベランダに侵入したのですか?」              
被告人「ベランダにある踏み台に乗って、左足を女性の家の方に向け、家との仕切りに手をかけて、カニ歩きのようにして進んでいきました」         
 

詳細に説明する被告人のおかげで、その状況が頭に浮かぶ。この情景が、まさか女性の下着を見に行くための行動とは思えないが。

弁護人「下着を目の前にして触りましたか」              
被告人「触ったというか、タグのところだけ持って何カップかは見ました」           
 
弁護人「それをかいだり、持って帰ったりはしましたか」                    
被告人「いえ、してません」           
 
弁護人「それは何故ですか」              
被告人「見れればよかったんで」              

これは、住居侵入以外の余罪がないこと、窃盗に関しては意思すらもなかったことの証明だろう。罪にはならない行為だが、この答弁を聞いていたら被害者の心的ストレスは増すことだろう。

弁護人「どうして、今回このようなことを」             
被告人「隣にかわいい女の子が住んでたので、ちょっと見たいなと思っただけなんです」            
 
弁護人「前も痴漢で捕まってるのにどうして」            
被告人「前の痴漢も、ちょっと触った“だけ”なんですが…」           
 
弁護人「触った“だけ”じゃないでしょ!」            
被告人「ちょっとならという性欲を抑えきれなくて」            

痴漢に関しては「ちょっと触っただけ」、今回は「見るだけ」なら大丈夫だろうという被告人の思いが表れているように思える。

●人生が終わる可能性に勝った性欲

続いて検察官の質問だ。被告人の犯行対応の悪質性を表す趣旨が伝わるものであった。

検察官「被害女性のことはどう思っていたんですか」            
被告人「かわいいな、と」            
 
検察官「下着を見て、どうするつもりだったんですか」            
被告人「何もするとかはないです」            
 
検察官「性欲はどうしようと?」            
被告人「下着を見れたら、あとは部屋でAVでも見て、って感じですね」            

余罪を引き出すことはできないが、自身の性欲で後先考えず行動に移すタイプであることは伝わる。

検察官「5階のベランダで恐くなかったんですか?」            
被告人「恐かったです」            
 
検察官「滑って落ちたらどうなると思いました」            
被告人「落ちたら死ぬと思いました」            
 
検察官「ベランダの行った先に、その女性がいたらどうなると思いました」            
被告人「人生終わると思いました」            
 
検察官「なら、なんで辞めなかったんですか」            
被告人「性欲が勝ってしまいました」            

この被告人に潜在的にある性的志向についてはその危険性が十二分に表される答弁であった。

その後、被告人は性的依存を治療するためにクリニックの受診を検討することを証言した。 しかし、先ほどの「触っただけ」という証言や、命をかえりみない行動など、自身の行動の異常さを客観視できていないと、とても治療の継続などは難しいだろう。

あくまで裁判で問われている内容は「ベランダに侵入したこと」である。しかし、この一文では伝わらない犯罪の異常性、被害者にとって引っ越しを余儀なくされた状況や心的被害などは裁判でないと知ることはできない。求刑は懲役10ヶ月だった。

【ライタープロフィール】 普通(ふつう):裁判ライターとして毎月約100件の裁判を傍聴。ニュースで報じられない事件を中心にYouTube、noteなどで発信。趣味の国内旅行には必ず、その地での裁判傍聴を組み合わせるなど裁判中心の生活を送っている。

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