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松本潤さん主演の映画『99.9』法律監修弁護士に聞く「深山みたいな刑事弁護士って現実にいますか?」
國松崇弁護士(鈴木翔撮影)

松本潤さん主演の映画『99.9』法律監修弁護士に聞く「深山みたいな刑事弁護士って現実にいますか?」

12月30日に公開を迎える映画『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』。2度のテレビシリーズを経て待望の公開となる本作では、松本潤さん演じる深山大翔と香川照之さん演じる佐田篤弘が所属する斑目法律事務所の刑事事件ルームのメンバーに、杉咲花さん演じる三代目ヒロイン・河野穂乃果が加入。さらに西島秀俊さん演じる謎の弁護士・南雲恭平も登場し、「99.9%逆転不可能」と言われる刑事事件で無罪を勝ち取ってきた彼らが、15年前に起きた凶悪な毒物ワイン殺人事件の事実に迫る。

過去シリーズに引き続き本作でも法律監修をつとめているのが、TBS初の社員弁護士として活躍したのち、現在は東京リベルテ法律事務所に所属して、数々の映画・テレビドラマの制作に関わる國松崇弁護士だ。ここでは國松弁護士に、弁護士になったきっかけや同作を通じて刑事裁判のリアルを伝える意義について聞いた。(ライター・鈴木翔)

●"飛び込み営業"がきっかけでTBS初の社員弁護士に

小さなころはテレビっ子でした。学校から帰ってテレビをつけると大体どの局でも2時間ドラマの再放送なんかをやっていて、そこに出てくる弁護士の姿を見て「法律を使って誰かを助ける仕事ってカッコいいな」と興味を持ったのが弁護士を志した原体験です。

そうした経緯もあって、もともとエンタメ業界への憧れと弁護士になるという目標を両方持っていました。それで司法修習を目前にして、どうにか弁護士にはなれそうだとなったときに改めて自分のやりたいことを考えてみて、かすかに残っていたエンタメの世界への憧れと弁護士資格とを組み合わせたら、何か人とは違う道が切り拓けるんじゃないかと思ったんです。それでまずはテレビ局の人の話を聞いてみようと、局の代表電話に直接電話をかけてみたのが、のちにTBSに入社するきっかけになりました。今思えばとても無謀な行為でしたね。

画像タイトル 國松崇弁護士(鈴木翔撮影)

思い切って飛び込んだ世界でしたが、局内で初の社員弁護士ということで社内でも「弁護士に何をやらせればいいのか」というノウハウがまったくなく、最初は社会人1年目ながら自分のポジションを自分で確立していくところから始まりました。自分から「こんなことができるので、こういう場面で使ってほしい」と提案しながら、社内の各部署に顔を売って関係値を築いていきました。

すると、段々と社内に弁護士がいるという噂も広まり、何かあったらとりあえず相談に行ってみようかみたいな雰囲気に変わっていきました。外部の弁護士に相談するとなると「どれくらい費用がかかるのか」「何を準備すればいいのか」「誰に頼んでいいかわからない」といった悩みに突き当たります。

それに対して、制作現場や局の内情を把握し、気軽に相談できる弁護士が社内にいるということで、いつしか番組制作などにかかる法律面の問題から、法律に関わるかどうかわからないけどまずは話を聞いてほしい、というところまで、大小さまざまな相談を受けるようになりました。

●脚本の違和感を削ぎ、制作陣の思いを実現

『99.9-刑事専門弁護士-』(以下、『99.9』)はオリジナル脚本のドラマなので、さまざまなネタやアイデアをもとにしながら話を組み立てていくのですが、話を繋げていくうちに矛盾するところが出てきます。制作チームはこんな感じでいいんじゃないかと思うところでも、弁護士が見ると違和感が残るところがあったりもします。

エンタメ的な面白さと現実世界のリアリティを両立させながら、うまく全体を整えていくのが法律監修の重要な仕事です。

まずは企画やプロットの段階で全体の大筋を確認して、この脚本の進め方だと終盤のほうでさまざまな登場人物を出さなければならなくなるとか、いろいろな小道具を用意しなければならないとか、そういったことを指摘しながら方向性に調整を加えていきます。

画像タイトル 香川照之さん演じる佐田篤弘©2021『99.9-THE MOVIE』製作委員会

その次は具体的にできあがってきた脚本のチェックに入ります。この段階になると物語の大枠をガラッと変えることはできませんし、監督はじめ制作陣にもどうしてもこうしたいというこだわりも出てきますから、もし法律的におかしいところを見つけても「これはダメです」と頭ごなしに否定はせずに「やりましょう。でも、このままでは矛盾が起こるので、ココとココに釘を打っておきましょう」という感じで、現場の意向も十分に尊重しつつ、違和感を無くしていくことが私の役割になります。

極端な例として、たとえば法廷内で被告人が裁判官に殴りかかるシーンが描かれていたとします。現実の法廷ではおよそ起こり得ないことですが、「あり得ないシーンです」と言ってしまうと場面全体を変えなければならないので、私は「物理的には可能ですから、殴るのはOKです」と答えます。ただ、もしそういうことが現実に起こったとして、殴ろうとする被告人を止めに入る人がいなかったり、傍聴席が大騒ぎになる状況がないのはおかしいですよね。なので、どうしても殴らせたかったら、キャストやエキストラの「受け」の動きに一工夫してくださいとアドバイスします。そんなふうにシーンの流れや演技に味付けをして、制作陣のやりたいことを違和感なく実現するお手伝いをしています。

『99.9』は現実の法曹界にあるような問題をどう斬っていくかというのも大きなテーマなので、大事な場面においてはリアリティを大切にしている作品です。役者さんたちもそのあたりをとても意識されていて、特に法廷シーンでは深山を演じる松本潤さんや、佐田を演じる香川照之さんたちから「こういうときって立って話せばいいんですか?」や「どういう見せ方をすれば証拠関係をうまく説明できますか?」といった具体的な相談がどんどん出てきます。それに対して「深山だったらこうだろう」という私なりの解釈も入れながら、一つ一つアドバイスをしました。

松本さんは深山というキャラクターを本当に深いところまで分析して、書類ひとつとっても見せ方や持ち方にこだわって演じられています。本当に松本潤ではなく深山大翔という人格が目の前にいると感じる瞬間もあったぐらいです。今回の映画版は15年も前に起きた凶悪事件の再審という、これまで以上に証明が難しい題材がテーマになっているので、深山たちがその高いハードルをどんな方法で越えていくかが見どころになります。

●視聴者や同業者からの反響は気になる?

関わった作品が放送された後はSNSなどの反響を欠かさずチェックしていますが、監修で見落としたところなどがなかったか、結構ヒヤヒヤしながら見ています。なかには意外だったり反省させられるような意見もあります。ただ、私の中の割り切りとしていい意味で"粗探し"のような見方も映画やドラマの楽しみ方の一部だと思っています。現実とフィクションではこういうふうに違うんだよと解説しているような方もいますし、そういう波及も含めてエンタメなのだと。

画像タイトル 杉咲花さん演じる河野穂乃果 ©2021『99.9-THE MOVIE』製作委員会

その一方で『99.9』のような法廷モノは同業者からの評価もとても気になります。特に『99.9』は刑事専門弁護士を題材にして「0.1%の事実を追求する」と謳っているわけですから、やはり周りの弁護士からの注目度も高いです。自分が思った通りの反響が来るときは手応えを感じますし、法廷シーンの手続きからセリフのひとつひとつを見て本当に細かな指摘をもらうこともあります。もちろん、エンタメ要素を殺さないように制作チームと議論を重ねたうえで、あえて違和感をスルーしているところもありますが、意見を受け止めて勉強を重ねていく姿勢は常に持っていたいと思っています。

●深山みたいな刑事専門弁護士って実在しますか?

深山ほど変わり者の人格かどうかは別として、本当に刑事専門弁護士と呼ばれるほど刑事事件界隈では名前が通っていて、何かあるたびに話題に上がる弁護士は実際にいます。こういった先生方の弁護活動を見聞きすると、同業者でありながら、無罪を勝ち取るためにそこまでするかと感心させられてしまうこともよくあります。重鎮の先生も多い一方で、『99.9』の影響も少しはあるとうれしいのですが、最近は若い弁護士の中にも刑事事件の弁護を一生懸命やりたいという人が増えてきたような気がします。

特徴と言えるほどかわかりませんが、刑事事件で何度も無罪判決を勝ち取るような弁護士は、とにかくこだわりの強い方が多い印象ですね。まさに深山はそんな弁護士ですが、細かなことを見逃さないし、とにかく違和感を違和感のままにしない。あとは周りの空気に迎合しない鋼のメンタルの持ち主だと思います。

私自身も弁護人として刑事事件を担当することがありますが、無罪を激しく争うような刑事裁判では、傍聴席も含めて法廷全体に「弁護人、空気読めよ」みたいな雰囲気をものすごく感じることがあります。検察官の尋問に対して徹底的に異議を出したりすると、検察官はやれやれという感じで、裁判官もそれに同調したような表情を見せる。傍聴席からも「そんな細かなこと気にしてどうするの」みたいな視線を感じます。刑事事件をやるならその空気に流されない強さというか、こちらを権利として認められていることを堂々とやるだけだというタフなマインドが必要です。

●刑事事件の弁護士はやっぱりお金にならない?

深山のように大手の法律事務所に雇われていれば別ですが、刑事弁護の仕事だけで良い暮らしをしようとしてもなかなか難しいのが現実ですね。刑事事件で活躍されている先生は弁護士としてみなさん優秀な先生方ばかりなので、刑事事件を通じて知り合った方や、評判を聞きつけた一般のお客さんから民事の仕事もお願いされて、そういったことを含めて生活を成り立たせているケースが多いように思います。

画像タイトル 片桐仁さん(左)ら ©2021『99.9-THE MOVIE』製作委員会

ただ、これは私個人の想いですが、刑事事件は稼げないというイメージはなくしていきたいなと思います。弁護士の中にも、刑事事件は“聖域”であってお金を求めていくところではないという考えを持った方はいらっしゃいますが、そういうことばかりが強調されると、生活を犠牲にしてでもガチンコで刑事事件をやりたい人しか入ってこられない小さなムラのようになってしまいますから。刑事事件だからといって、苦労に見合った正当な報酬を取ってはいけないということはないし、どんどん門戸を広げて、刑事事件をやりたいという人がもっと増えるような環境になっていってほしいです。

●刑事事件の弁護をしていてうれしいとき、つらいときは?

うれしいのは、やはり0.1%の事実を発見して無罪を勝ち取ったときですね。実は今年初めて刑事裁判で無罪判決を勝ち取ることができたんです。おそらく弁護士人生の中で何度も訪れる瞬間ではありません。自分の頑張りが報われたという喜びもあるけれど、何よりも冤罪に巻き込まれた被告人の人生を変えることができた。そこにはちょっとした仕事では得られない高揚感がありました。その人が無実の罪で2年、3年と刑務所に入るのか、それとも自由を得るのかは、それこそ、その後の人生に関わる本当に大切なことです。そこに関われたのは本当に貴重な経験になりましたね。

一方で、刑事裁判に関わっていてつらいのは、かつて刑事弁護を担当した元依頼者が、残念ながら再度罪を犯してしまうことです。私は、刑事裁判に向けた表面的・短期的な反省だけではなく、きちんと犯罪と決別し、本当の意味で社会復帰ができるようマインドリセットを促すことも、弁護人の大切な役割だと思っています。こうした信念のもと一生懸命活動した結果、裁判で涙を流しながら心から反省したいと誓ってくれていた元依頼者が、何年か後に「また捕まってしまいました。すみません」と連絡してくるのはやはりショックですね。ただそれでも、信念は曲げずに引き続き頑張っていきたいと思っています。

被告人となった人の冤罪を晴らすためにどんな証拠が必要で、それを手に入れるために弁護士がどんな努力をしているかということは、これまでドラマでほとんど描かれてきませんでした。それを正面を切って、これだけ有名な役者を集めて描くというのは、実際に刑事事件に携わる我々にとって、とても意義のあることです。これを見て刑事事件に携わる弁護士への理解が深まるといいし、さらには子供のころの私のように弁護士になりたいという人が一人でも増えてくれればいいなと思っています。それが、こうした監修の仕事に関わる私の大切な役割だと信じています。

画像タイトル 國松崇弁護士(鈴木翔撮影)

【國松崇弁護士】
東京リベルテ法律事務所/第一東京弁護士会所属。TBS初の企業内弁護士としてキャリアをスタートし、番組制作をはじめ、様々なエンターテインメント分野の企業法務に幅広く携わる。法律事務所に移籍した現在も、テレビ局や制作会社などの各種映像メディア企業の法律顧問を多く務めるほか、これまでに「半沢直樹」や「99.9-刑事専門弁護士-」シリーズなど、TBSをはじめ各局の番組の法律監修も多数担当している。日本組織内弁護士協会理事、厚生労働省知的財産管理技能検定試験委員、著作権法学会正会員。
Twitterアカウント:https://twitter.com/kuni_lawyer

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