弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 犯罪・刑事事件
  3. 盗難被害のペットショップ「カメ返せ、ネットに顔公開するぞ」 攻撃的ツイートに秘めた意外な願い
盗難被害のペットショップ「カメ返せ、ネットに顔公開するぞ」 攻撃的ツイートに秘めた意外な願い
盗まれたジャイアントマスクタートル(2019年6月に仕入れた際に撮影):店提供

盗難被害のペットショップ「カメ返せ、ネットに顔公開するぞ」 攻撃的ツイートに秘めた意外な願い

売り物の高級な亀を盗まれたとして、ペットショップの店長が被害を報告した。

憤まんやるかたない店長は「カメを泥棒した犯人」に向けて、顔がうつった防犯カメラの画像をSNSに公開することを、ツイッターで予告した。

鳴き声を発しない爬虫類は、盗まれていくことが多いのだという。2020年にも別の店で希少ヤモリが盗まれる事件が発生していて、その手口は似通っている。

しかし、いくら希少な生き物を盗まれた被害者でも、画像公開は名誉毀損に問われる可能性がある。実は店長も、その可能性は十分に理解したうえでツイートしていた。

●被害総額は7万6000円

滋賀県にある爬虫類・熱帯魚店の男性店長が、匿名を条件に取材に応じた。

事件は2月14日に起きたという。

午後6時半ころ、男性が1人で来店し、ある高級な熱帯魚を買い求め、一緒に、魚が食べる餌用の金魚を500匹求めたという。

店長が金魚を数えて、ケースに詰めていると、いつの間にか男性は姿を消していた。

「おかしいと思って、蛇やトカゲのコーナーなどを見渡して、亀が2匹いてないことに気づきました」

男性が店にやってきてから、姿を消すまで、「ものの5分」だったそうだ。

亀にはいつも午後5時〜5時半に餌を与えるため、その時間まで亀がいたことは間違いないという。餌をあげて以降、客はその男性1人だけだった。水槽から亀が自力で出るのもなかなか考えにくいそうだ。

盗まれたとされるのは、「ハラガケガメ」と「ジャイアントマスクタートル」という亀で、ともに甲羅の長さは約20センチ。店での販売価格は各3万8000円だった。

盗まれたハラガケガメ(2019年6月に仕入れた際に撮影):店提供 盗まれたハラガケガメ(2019年6月に仕入れた際に撮影):店提供

「扱っている亀のなかで、もっとも高額です。価格表示もしていたので、狙われたんだと思います。2匹の入った水槽にはフタがついていました。フタのないケースに入った亀は簡単に盗れるけど、そちらには手をつけていません」

2020年11月には、千葉県の爬虫類専門店で、同様の盗難被害があった。

報道(ABEMATIMES、2020年12月3日配信)によると、来店した男性が、餌となるコオロギ100匹を注文。店員が対応する間に、総額30万円を超える希少なヤモリ2匹を盗んだというのだ。

●過去には16万円の蛇も盗まれていた

さて、滋賀の店では、およそ2年前にも、販売価格16万円の蛇(ボールパイソン ブルーアイリューシ)を盗まれたことがあった。今回も、当時と似た手口だったため、「万引き」とすぐに考えるに至ったそうだ。

盗まれたボールパイソン・ブルーアイリューシ(2019年2月に仕入れた際に撮影):店提供 盗まれたボールパイソン・ブルーアイリューシ(2019年2月に仕入れた際に撮影):店提供

亀が消えた翌日、警察に被害届を提出した。

「蛇が盗まれたときは、万引きという軽いものやと思っていた。亀を盗まれて初めて被害届を出しました。警察は『これは立派な窃盗です。今後もこういうことがあれば、すぐ通報してください』と言うてました」

警察は店内で指紋を採取したほか、似顔絵も描いていったという。

●転売目的の可能性も

なぜ狙われたのだろうか。

亀は鳴かないため、同業者の間でも「亀泥棒」は珍しくないと言われているそうだ。

「田舎だからこの値段だけど、首都圏やったら、1匹7万円以上の値段で売られていることもある。闇市での転売目的やと思いますわ」

2匹とも、寒さに弱く、水槽内は25〜30度のあたたかさに保たれていた。

「盗んだけど、扱いに困って、放り出されたら日本の寒さで死んでしまう」と亀の健康を案じる。

●犯人の顔を公開するとツイートした

店長は、被害届を提出した2月15日に、「犯人」に向けてこのようなツイートを投稿している。

昨日カメを泥棒した犯人
防犯カメラに顔が写っているのでツイッターSNSFacebookにて公開します。
盗んだ商品を返しに来れば
公開は見送る予定
すでに警察に被害届を提出
指紋も採取済み
良心があるなら返しに来い

店長が投稿した2月15日のツイート(加工は編集部) 店長が投稿した2月15日のツイート(加工は編集部)

高価な商品を盗まれたとあれば、このような行為に至る被害者の心情も理解できる。しかし、「カメを泥棒した犯人」として、顔画像をインターネットに公開することは、法的な問題がある。

小野智彦弁護士は、このように解説する。

「不特定多数の人に、画像付きで、泥棒と紹介することは、形式的には名誉毀損にあたります。

ただし、『誰が見ても万引き犯だと特定できるような不審な行動』が映像に映っていたというのであれば、責任を問われる可能性は低いでしょう」

●「顔公開ツイート」の真意

名誉毀損など、法的な問題があることについて、店長は「わかっています」と話す。

店に設置されている防犯カメラは「ダミーで、実際には犯行の様子をうつした映像はない」という。

「ダミーやけど、ツイッターにのせますと警察に言うたら、『別にかまへん。殴るぞ、殺すぞとは書かないで。脅迫になることはやめてくれ』と言われました」

さらなる被害を防ぎたいとの思いから、このようなことを書いたそうだ。

「うちのショップの玄関先に返してくれることを願うけど、きっとそれは難しいと思って、取材を受けています。ツイッターを見た犯人が、良心のある人間ならば、きっと次の犯行はしないでしょう。

生き物を盗るってどういう神経しているんかなと思いますよ」

2年前に盗まれ、消息不明。元気だとよいが… 2年前に盗まれ、消息不明。元気だとよいが…

ツイートから1週間、未だに亀は戻らない。店長は、本物の防犯カメラの購入を検討している。

プロフィール

小野 智彦
小野 智彦(おの ともひこ)弁護士 大本総合法律事務所
浜松市出身。1999年4月、弁護士登録。手品、フルート演奏、手相鑑定、カメラ等と多趣味。手品の種明し訴訟原告代理人、ギミックコイン刑事裁判弁護人、雷句誠氏が漫画原稿の美術的価値を求めて小学館を提訴した事件などの代理人を務めた。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする