売り物の高級な亀を盗まれたとして、ペットショップの店長が被害を報告した。
憤まんやるかたない店長は「カメを泥棒した犯人」に向けて、顔がうつった防犯カメラの画像をSNSに公開することを、ツイッターで予告した。
鳴き声を発しない爬虫類は、盗まれていくことが多いのだという。2020年にも別の店で希少ヤモリが盗まれる事件が発生していて、その手口は似通っている。
しかし、いくら希少な生き物を盗まれた被害者でも、画像公開は名誉毀損に問われる可能性がある。実は店長も、その可能性は十分に理解したうえでツイートしていた。
●被害総額は7万6000円
滋賀県にある爬虫類・熱帯魚店の男性店長が、匿名を条件に取材に応じた。
事件は2月14日に起きたという。
午後6時半ころ、男性が1人で来店し、ある高級な熱帯魚を買い求め、一緒に、魚が食べる餌用の金魚を500匹求めたという。
店長が金魚を数えて、ケースに詰めていると、いつの間にか男性は姿を消していた。
「おかしいと思って、蛇やトカゲのコーナーなどを見渡して、亀が2匹いてないことに気づきました」
男性が店にやってきてから、姿を消すまで、「ものの5分」だったそうだ。
亀にはいつも午後5時〜5時半に餌を与えるため、その時間まで亀がいたことは間違いないという。餌をあげて以降、客はその男性1人だけだった。水槽から亀が自力で出るのもなかなか考えにくいそうだ。
盗まれたとされるのは、「ハラガケガメ」と「ジャイアントマスクタートル」という亀で、ともに甲羅の長さは約20センチ。店での販売価格は各3万8000円だった。
盗まれたハラガケガメ(2019年6月に仕入れた際に撮影):店提供
「扱っている亀のなかで、もっとも高額です。価格表示もしていたので、狙われたんだと思います。2匹の入った水槽にはフタがついていました。フタのないケースに入った亀は簡単に盗れるけど、そちらには手をつけていません」
2020年11月には、千葉県の爬虫類専門店で、同様の盗難被害があった。
報道(ABEMATIMES、2020年12月3日配信)によると、来店した男性が、餌となるコオロギ100匹を注文。店員が対応する間に、総額30万円を超える希少なヤモリ2匹を盗んだというのだ。
●過去には16万円の蛇も盗まれていた
さて、滋賀の店では、およそ2年前にも、販売価格16万円の蛇(ボールパイソン ブルーアイリューシ)を盗まれたことがあった。今回も、当時と似た手口だったため、「万引き」とすぐに考えるに至ったそうだ。
盗まれたボールパイソン・ブルーアイリューシ(2019年2月に仕入れた際に撮影):店提供
亀が消えた翌日、警察に被害届を提出した。
「蛇が盗まれたときは、万引きという軽いものやと思っていた。亀を盗まれて初めて被害届を出しました。警察は『これは立派な窃盗です。今後もこういうことがあれば、すぐ通報してください』と言うてました」
警察は店内で指紋を採取したほか、似顔絵も描いていったという。
●転売目的の可能性も
なぜ狙われたのだろうか。
亀は鳴かないため、同業者の間でも「亀泥棒」は珍しくないと言われているそうだ。
「田舎だからこの値段だけど、首都圏やったら、1匹7万円以上の値段で売られていることもある。闇市での転売目的やと思いますわ」
2匹とも、寒さに弱く、水槽内は25〜30度のあたたかさに保たれていた。
「盗んだけど、扱いに困って、放り出されたら日本の寒さで死んでしまう」と亀の健康を案じる。
●犯人の顔を公開するとツイートした
店長は、被害届を提出した2月15日に、「犯人」に向けてこのようなツイートを投稿している。
昨日カメを泥棒した犯人
防犯カメラに顔が写っているのでツイッターSNSFacebookにて公開します。
盗んだ商品を返しに来れば
公開は見送る予定
すでに警察に被害届を提出
指紋も採取済み
良心があるなら返しに来い
店長が投稿した2月15日のツイート(加工は編集部)
高価な商品を盗まれたとあれば、このような行為に至る被害者の心情も理解できる。しかし、「カメを泥棒した犯人」として、顔画像をインターネットに公開することは、法的な問題がある。
小野智彦弁護士は、このように解説する。
「不特定多数の人に、画像付きで、泥棒と紹介することは、形式的には名誉毀損にあたります。
ただし、『誰が見ても万引き犯だと特定できるような不審な行動』が映像に映っていたというのであれば、責任を問われる可能性は低いでしょう」
●「顔公開ツイート」の真意
名誉毀損など、法的な問題があることについて、店長は「わかっています」と話す。
店に設置されている防犯カメラは「ダミーで、実際には犯行の様子をうつした映像はない」という。
「ダミーやけど、ツイッターにのせますと警察に言うたら、『別にかまへん。殴るぞ、殺すぞとは書かないで。脅迫になることはやめてくれ』と言われました」
さらなる被害を防ぎたいとの思いから、このようなことを書いたそうだ。
「うちのショップの玄関先に返してくれることを願うけど、きっとそれは難しいと思って、取材を受けています。ツイッターを見た犯人が、良心のある人間ならば、きっと次の犯行はしないでしょう。
生き物を盗るってどういう神経しているんかなと思いますよ」
2年前に盗まれ、消息不明。元気だとよいが…
ツイートから1週間、未だに亀は戻らない。店長は、本物の防犯カメラの購入を検討している。