2年間飼った猫が行方不明になったあと、別の飼い主のもとで飼われていた――。こんな場合、猫の「正当な飼い主」はどちらなのか? アメリカ・カリフォルニア州で、一匹の猫をめぐり、新旧の飼い主が所有権を争っていることが報じられた。
CNNによると、もともとの飼い主である女性は2005年に子猫を引き取ったが、2年後に引っ越した際に猫が逃げ出し、行方がわからなくなっていた。2014年になって、猫に埋め込まれたマイクロチップの情報を書き換えようとして人物がいると、マイクロチップ会社から知らされ、猫の居場所がわかったそうだ。
現在の飼い主の女性は、2010年にこの猫を保護施設から引き取ったという。返還を求めている元の飼い主に対し、「5年間暮らした家から引き離されて、新しい環境に置かれれば、極度のストレスになる」と訴え、返還を拒んでいるという。
争いは裁判で決着をつけることになるようだが、同様の事例が日本で起こった場合、元の飼い主は「猫を返してほしい」と要求できるのだろうか。澤藤亮介弁護士に聞いた。
●第三者が猫の所有権を取得できる場合とは?
「猫などの動物は、日本の民法上『動産』に分類され、物と同様に所有権の対象になります。元の飼い主は、飼っていた当時は、当然その猫に対する所有権を有していたわけです。
そして、自分のもとから猫が行方不明になったあとも、事後的に元の飼い主が所有権を失う事情がない限り、元の飼い主が猫の所有権を有していることになります。
そのため、元の所有者は、猫に対する所有権に基づき、猫の占有者(本件では現在の飼い主)に返還請求をすることが可能です」
澤藤弁護士はこのように述べる。事後的に元の飼い主が所有権を失うケースとしては、どんなことが考えられるだろうか。
「日本では、遺失物法や動物愛護法、各都道府県の条例などの適用によって、その猫の所有権を事後的に元の飼い主以外の第三者が取得することがあります。
その場合、元の飼い主は、猫の占有者に対して返還を求めることができなくなります。
今回のケースでは、どのような経緯でその猫が保護施設で保護されるようになったかは不明ですが、たとえば東京都では、次のような仕組みによって、第三者が猫の所有権を取得することが可能です。
すなわち、自治体の保健所や動物愛護相談センターなどで殺処分される前に、元の飼い主以外の「第三者」がその猫の譲り受けを希望した場合、飼育環境が整っているなど一定の要件を満たす場合には、その第三者が猫の所有権を取得することが可能です(東京都動物の愛護及び管理に関する条例25条)。
ですから、もし今回のケースが東京であったとしたら、所有権が「新しい飼い主」にあることも考えられます。
他方、今回のケースとは異なり、迷い猫を警察やその他公的な保護施設に届けることなく、ひそかに飼い始めてしまった場合は、原則として、元の飼い主からの返還請求に応じなくてはなりませんので、注意が必要です」
澤藤弁護士はこのように述べていた。