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「正義マン」と馬鹿にされても「未然に防いでナンボ」 性犯罪許さない男性の生きる道
日下鉄也さん(2021年2月/渋井哲也)

「正義マン」と馬鹿にされても「未然に防いでナンボ」 性犯罪許さない男性の生きる道

男性が一緒に飲んでいる女性に睡眠薬入りの酒を差し出した。そのことに気付かず、女性が口にする。その直後、捜査員が現場に踏み込んだ――。

大阪市の居酒屋で2020年9月、店主を含む男性3人が、30代女性に睡眠薬入りの酒を飲ませて、性的暴行しようとしたとして、準強制性交等未遂の疑いで逮捕された。

この事件をめぐっては、都内に住む民間人の男性、日下鉄也さん(34)が、警察に情報提供するなど、被害を食い止める一役を買った。

ツイッターで「性犯罪を絶対に許さない会」というアカウントを立ち上げた人だ。(ライター・渋井哲也)

●ネットパトロールが端緒になっている

日下さんは10年ほど前、女性への性暴力を阻止する活動をはじめて、2020年夏から本格的にチームをつくって取り組んでいる。

基本的には、ネットパトロールをしている協力者などからの情報提供が端緒で、大阪の事件もそうだった。

この事件では、逮捕された3人のうち、20代男性がネット掲示板で暴行を呼びかけて、「昏睡(こんすい)」という名のLINEグループで参加希望者と連絡を取り合っていた。

日下さんの協力者は、参加希望者を装って、犯行場所や日時をつかんだ。日下さんは、現場で警察と一緒に動いて、被害を防ぐことに貢献した。

●ツイッターにはブラックな面がある

日下さんはツイッターを駆使して情報収集している。神奈川県座間市内のアパートで男女9人の遺体が発見された「座間事件」がきかっけだ。

この事件では、ツイッターで「死にたい」とつぶやいていた女性を、白石隆浩死刑囚がダイレクトメッセージやLINEで連絡をとり、誘い出して殺害した。

「ツイッターにはブラックな面があります。座間事件以外でも、ツイッターで知り合って殺害される事件があります。そのことが事前にわかっていれば止められるのに」

これまでに多くの案件を扱ってきたが、「いちいち数えていないので、どのくらいかは覚えていません。日常の当たり前のルーティンなんです」という。

女性への性暴力を止めようとする思いはどこからきているのだろうか。

「正義感? そうですね。セキュリティの仕事をしているので、何かあったら瞬時に動くことが身についているからかもしれません。

あとは、20代のころに知人が巻き込まれた"事件"が大きいです。許せないものでした。その時の記憶があるからですね」

●知人女性が搾取を受けていた

その"事件"は、10年以上前にさかのぼる。知人の女性が、男性から金銭的にも肉体的にも搾取されていたのだ。「身も心もボロボロになっていました」。日下さんは男性と話し合いを持った。

「相手は年上で、体も大きかったのですが、怖くありませんでした。私は空手をしていたからです。それよりも、まったく話が通じないことがショックでした。わかってくれると思ったのに・・・最終的に搾取は止まりました」

それ以降、SNSや出会い系サイトなどで、書き込みを見つけたら、未然に止めに入ることがあった。そうしたサイトでは、同じような志を持っている人との出会いもあり、仲間ができた。

「仲間の中には、自衛隊の特殊部隊出身者もいました。ただ、当時の仲間とは今は関係が切れてしまっています」

日下鉄也さん(2021年2月/渋井哲也) 日下鉄也さん(2021年2月/渋井哲也)

●加害者はふつうの会社員が多い

身の危険を感じたことはないのだろうか。

「あまり感じたことはないですね。性犯罪の加害者は、ふつうの会社員が多いので、こちらに攻撃してきません。(性犯罪加害の)仲間が、ネット上でマッチングしたら事件化する。そんなイメージです。出向かない場合もあり、電話で説教して、警察にも電話をして、その結果、止まることもあります」

昨年8月から事件を阻止できたのは、計8件。ほとんどのケースで、加害者は被害者の知人だった。元夫や友人、自称彼氏も含まれていた。活動の手応えはあるのか。

「正直、性犯罪をなくせるとは思っていないです。首の薄皮一枚を剥ぐようなものですが、抑止力になればいい、やらないよりはマシということでしょうか。大阪の事件では、まっとうなコメントも多かったけど、5ちゃんねるでは批判が多かったですね。

"正義マン"と言われました。ある種、当たっているんですけどね。断片的な記事を見ればそう思いますよね。でも、何を言われようと、(大阪の事件では)1人を救ったことには変わりはない。結果は出せたつもりです」

●そのあとの人生はその人のもの

事件になる前に阻止したら、助けた女性に対するケアが必要になるが、そのあたりはどうするのだろうか。

「こちらとしては、そうしたケアはできません。よく、性犯罪のワンストップ窓口やケアのボランティアと同じようなものと勘違いされることがあります。一度、ケアのボランティアに参加している人に入ってもらったことがありますが、動きが違いますね。

ケアは専門家じゃないと無理です。だから、そのあとは関知しないのが原則です。そのあとは、その人の人生です。そこまでは救えません。個人的には、事件は未然に防いでナンボだと思っています」

痴漢や盗撮の防止にも目を向けている日下さん。今後も性暴力に特化していくのか。

「そこは仲間と話して、犯罪全般でいいんじゃないかとなっています。子ども同士のいじめ? そこに関わるかどうかはまだわからない。今のところは大人同士の問題を取り扱っていきます」

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