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コロナ禍で減った裁判員裁判 2020年、傍聴ライターが見た相次ぐ盗撮事件の真相
裁判員裁判の減った2020年(画像:弁護士ドットコム)

コロナ禍で減った裁判員裁判 2020年、傍聴ライターが見た相次ぐ盗撮事件の真相

新型コロナウイルス感染拡大により生活が大きく変わった2020年。その影響は、裁判所にも及び、裁判傍聴をはじめて16年目となる筆者にとっても、初めてのことが続いた。そんな様々な変化を振り返ってみたい。(ライター・高橋ユキ)

●多くの裁判が延期になり始めた3月

傍聴席から、最初に異変を感じたのは3月。通常であれば裁判員裁判の開廷が増える時期にもかかわらず、多くが延期となったのだ。

3月3日に広島地裁で開かれた殺人罪の裁判員裁判初公判では冒頭、裁判長から「こうした状況下において、審理の延期を検討したが予定通り行うことを決めた」という趣旨の説明があった。

この公判では、被告人はマスクをつけたまま審理に望んでいた。これまで私が傍聴した裁判で、マスク着用の被告人をみるのは“被告人が結核などの感染症に罹患している”場合などで、稀なことだったため、それだけでも異質さを感じた。18日に開かれた判決公判では、傍聴席の“三密回避”措置が取られるようになる。記者席をのぞく一般傍聴席は、間隔を開けて座るようになった。

これ以降の公判では、ほかの裁判所でも法廷にいる全ての人がマスクを着用するよう求められた。

裁判所によっては、独自の取り組みを行なっていた。たとえば、被告人質問のときだけは被告人のマスクをフェイスシールドに付け替えたり(7月・水戸地裁)、証言台の前に透明のアクリル板を立てるなど(9月・さいたま地裁)、なるべくマスクのない状況で証言できるよう試行錯誤が行われていた。

マスクをしていると被告人の表情が見えなかったり、小さな声の被告人の場合には声が聞き取りづらくなったりするからだろう。しかし多くの裁判所では、マスク姿で被告人質問にのぞむ。現在でもこうした運用は続いている。

●「裁判がなかなか見られない状況」に変わりなし

広島だけでなく、各地の裁判所で傍聴席はおおむね3月下旬から“2席空け”が主流となった(報道記者席はその限りではない)。最高裁判所が同月上旬、全国の裁判所に「多数の傍聴人が見込まれる裁判では、着席する人の間隔を1メートル程度開けることを目安に対応するよう」周知したためだ。座れる傍聴席は通常の半分以下となり、傍聴券交付の裁判では、通常ならば20数枚ほど傍聴券が用意されるような事件であっても、当選枚数は10枚前後に。

宣言解除後も“2席空け”は続き、“1席空け”となったのは10月末だった。これも同月26日、最高裁が「1席が相当」と各地の裁判所に通知したことによる。マスクと同様に、現在もこの運用が続く。席数が少なくなったために、傍聴したい裁判がなかなか見れない状況が続いているともいえる。

4月7日の緊急事態宣言発出から、民事裁判はしばらく開廷がない状態が続き、刑事裁判も開廷が減少。東京地裁では6月2日、3ヶ月ぶりに裁判員裁判が開かれたが、弁護人がマスク着用を拒否したため一時休廷となるなどの騒ぎとなった。

●3000以上の盗撮データを保存していた慶應元職員

さて、筆者は通常、裁判員裁判を多く傍聴しているが、裁判員裁判の開廷が全くない時期があったことから、2020年はそれ以外の刑事裁判をたびたび傍聴した。

そこで気づいたのは、迷惑防止条例違反裁判の内容の変化だ。各都道府県が定める迷惑防止条例には、ダフ屋行為やショバ屋行為の禁止などさまざまな禁止行為が明記されている。

迷惑防止条例違反の公判はかつて、その多くが電車内での痴漢行為(着衣の上から触る)であり、たまにダフ屋行為が見られる程度であったが、痴漢行為にかわり〈盗撮行為〉による起訴が10年ほど前にくらべ、格段に増えた印象を受けたのだった。

たとえば、5月に東京地裁立川支部で傍聴した建造物侵入、迷惑防止条例違反の公判。30代の被告人がJR立川駅近くの書店にある女子トイレ個室内に立ち入り、個室の上からスマホを差し入れ、用便中の女性の大腿部を撮影したとして起訴されていた。被告人には累犯前科があり、2年前にも千葉地裁松戸支部にて執行猶予付きの懲役刑が言い渡されている。

また、慶應大学の塾長室秘書担当課長だった2018年11月と12月に、三田キャンパス内の女子トイレで盗撮をはたらいた40代の被告人が、建造物侵入、迷惑防止条例違反に問われた公判も傍聴した。

この被告人は、キャンパス内の女子トイレ個室上部に自動撮影機能のカメラを取り付け、翌年3月まで撮影を行なっていたとして起訴されていた。押収されたmicroSDからは3000以上の動画像データが確認されたという。個室を利用する人物ごとにフォルダを分けてデータを整理していた。

9月に同地裁で開かれた迷惑防止条例違反、住居侵入、邸宅侵入の公判では、30代の被告人が、近隣の女性が住むアパート玄関ドア脇にある換気扇の隙間にスマホを差し入れ盗撮を行なったほか、近隣に住む女性宅が無施錠であったことから居室内に忍び込みカメラを設置し、盗撮を続けていたとして起訴されていた。

●盗撮はこんなに増えている

盗撮の増加は今年突然始まった現象ではない。迷惑防止条例違反の検挙状況については、東京であれば警視庁のホームページに毎年、違反態様ごとの検挙数が公開されている。

そのうち一番古い平成22年(2010年)は、卑わい言動による検挙数は減少しながらも盗撮は微増していた。翌2011年も緩やかな伸びを見せたものの、2012年には、大幅に検挙数が増加する。

2007年のiPhone発売、翌年のAndroidの発売によるスマホ普及に呼応するように盗撮での検挙数も増加しているといえよう。

法務省ホームページ内「性犯罪に関する刑事法検討会 第6回会議(令和2年9月24日)」内資料「盗撮事犯の検挙状況」にはさらに、犯行に使われた機材や犯行場所について平成24年からのデータがまとめられている。

これによると昨年、デジタルカメラを使用した盗撮の検挙数が110であるのに対し、スマホによる盗撮での検挙数は2871と格段に多い。犯行場所の内訳からは、ショッピングモールや駅構内の階段、公衆トイレ、書店、公衆浴場など、あらゆる場所で撮影が行われていることが分かる。

自宅でも先の例のように、外部との隙間がある場所から機材を差し入れたり、無施錠のタイミングで侵入されカメラを取り付けられるなどの犯行が行われるため油断はならない。

【プロフィール】高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(徳間書店)「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)など。好きな食べ物は氷。

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