茨城県の高速道路上で起きた「あおり運転」事件で、大阪市の会社役員の40代男性が傷害の疑いで逮捕・送検された。
報道によると、男性は8月10日、被害者の車を停止させて、顔を殴ってケガをさせた疑いが持たれている。数キロにわたって、車線変更や減速など「あおり運転」を繰り返していたという。
男性は取り調べに「殴ったこと」は認めているものの、「危険な運転をしたつもりはない」と話しているそうだ。報道が過熱する中で、インターネット上では、男性に対して「厳しい刑罰」をもとめる声もあがっている。
たしかに高速道路上の「あおり運転」は、一歩間違えると悲惨な結果になるおそれがある。今回のようなケースの場合、どのくらいの量刑になるのだろうか。また、「あおり運転」を防ぐためにはどうすれば良いのだろうか。本間久雄弁護士に聞いた。
●「実刑になる可能性は小さくない」
今回のケースの場合、被害者のケガの程度が不明ですが、一般的に、後遺障害が残らない全治2週間前後の傷害を負わせて示談が成立していない場合、初犯なら30万〜50万円の罰金となるのが、刑事実務と言えるでしょう。
ただ、今回のケースの場合、加害者に少なくとも前歴(逮捕・起訴猶予)があると報じられています。また、今回の犯行態様も、高速道路の車線上に無理やり止めさせたうえで、殴打するという一歩間違えば大惨事につながりかねない悪質なもので、社会的な影響も極めて大きなものです。街中で喧嘩になって相手にケガを負わせたというようなケースとは、明らかに質が違います。
仮に、加害者が執行猶予期間中だった場合は、ほぼ間違いなく実刑になると思います。そうでなくても、捜査機関は他の罪状(道路交通法違反など)も立件するでしょうから、実刑になる可能性は小さくないと思います。もし、実刑となった場合は、おそらく2年6カ月前後の量刑になるのではないかと思います。
●「あおり運転を直接取り締まる法律はない」
今のところ、あおり運転を直接取り締まる法律はありません。せいぜい、道路交通法26条が「車間距離保持義務」を規定している程度です(高速道路上で車間距離保持義務に違反すると3カ月以下の懲役もしくは5万円以下の罰金)。
あおり運転によって死傷の結果が生じたときは、危険運転致死傷罪の適用可能性が出てきていますが、あおり運転をしただけでは、せいぜい3カ月以下の懲役という微罪にとどまります。
しかし、あおり運転によって重大な死傷の結果が出てからでは遅いのです。
まずは、あおり運転そのものを相当程度の重さの量刑をもって取り締まる法改正をすべきです。そのうえで、取り締まりを強化して、あおり運転をした人に対しては、免許停止や免許取消の行政処分をおこなったり、積極的に起訴していくなど、厳格な態度をもって摘発していけば、あおり運転は相当減っていくのではないでしょうか。
飲酒運転が行政処分・罰則の強化や、社会の厳しい目で減少したように、あおり運転による悲惨な事故も減少させられるはずです。