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ハイタッチを「誤解」して殴った男性、「おとがめなし」になる?ポーランド戦後の悲劇
ハイタッチは喜びを分かち合うものだが・・・(Rawpixel/PIXTA)

ハイタッチを「誤解」して殴った男性、「おとがめなし」になる?ポーランド戦後の悲劇

サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会で盛り上がる中、札幌市の歓楽街「ススキノ」で、少し風変わりな事件が起きた。

報道によると、男性(20)は6月29日早朝、ススキノにあるスポーツバーで、日本対ポーランド戦を観戦したあと、知人2人と別の飲食店に向かっていた。路上で、両手をあげて歌いながら、男性(28)に近づいたところ、顔面を2回も殴られてしまったというのだ。

殴られた男性は、日本代表が予選リーグを突破したことから「喜びを分かち合おう」とハイタッチしようとしていたという。一方、殴った男性は、暴行罪の疑いで逮捕された。「殴られると思った。先に殴らないとやられると思った」と話しているという。

サッカーW杯の影響か、繁華街でハイタッチを交わすことが流行しているが、誤解が悲劇を招いてしまったようだ。殴られた男性はケガをしておらず、逮捕された男性は少しかわいそうな気もするが、「おとがめなし」というわけにいかないのだろうか。

刑事事件にくわしい落合洋司弁護士に聞いた。

●誤解でも「正当防衛」が成立する可能性はある

「今回のように相手を殴った場合、被害者がケガをしていなければ暴行罪で、ケガをしていれば傷害罪が問題となります。そして、今回のようなケースでは、『正当防衛』が成立する可能性もあるでしょう」

勘違いした場合でも「正当防衛」が成立するのだろうか。

「そもそも、犯罪が成立するためには、構成要件に該当したうえで、違法性と有責性が認められる必要があります。

一定の要件を満たすことで、違法性がなくなる場合があります。その1つが正当防衛です。刑法で『急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない』とされています(同36条1項)。

そして、相手から襲われようとしていると勘違いして、正当防衛行為に及んだ今回のような場合を『誤想防衛』といいます。そういう『誤想』(誤解・思い違い)に基づいていても、ほかの正当防衛の要件を満たしていれば、犯罪は成立しません」

●誤想の状況や不注意があったかは、慎重に検討される

今回のケースでも「誤想防衛」が成立するのだろうか。

「報道によると、ハイタッチしようとして両手を上げて近づいた相手に殴られると誤信して殴ったということですから、誤想防衛が成立する可能性が高いケースです。

ただ、誤想防衛が成立しても、誤想したことに過失があり、相手がケガをしていれば、過失傷害罪や重過失傷害罪が成立することはありえます。

通常の注意を払えばハイタッチしようとした人の接近とわかるのに、その注意を怠っていれば、過失傷害罪、不注意の程度が重大であれば重過失傷害罪です。

今後の捜査では、誤想の状況や不注意があったかどうかが慎重に検討されて、容疑者の処分が決まることになるでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

落合 洋司
落合 洋司(おちあい ようじ)弁護士 高輪共同法律事務所
1989年、検事に任官、東京地検公安部等に勤務し2000年退官・弁護士登録。IT企業勤務を経て現在に至る。

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