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「大迫半端ないって」グッズ大人気、肖像権や著作権の問題にならないの?
「大迫半端ないって」と号泣した選手のイラストをプリントしたグッズ

「大迫半端ないって」グッズ大人気、肖像権や著作権の問題にならないの?

サッカーのワールドカップ・ロシア大会のコロンビア戦で、決勝ゴールをあげた日本代表の大迫勇也選手。そんな彼をたたえるフレーズ「大迫半端ないって」が、ツイッター上で話題を呼んでいる。

「大迫半端ないって」の元ネタは、2009年までさかのぼる。全国高校サッカー準々決勝で、大迫選手の所属する鹿児島城西(鹿児島)は、滝川二(兵庫)に快勝した。この試合で、大迫選手は2得点を奪う大活躍だった。

試合後のロッカールームで、滝川二の中西隆裕主将は「大迫、半端ないって!あいつ半端ないって!後ろ向きのボール、めっちゃトラップするもん。そんなんできひんやん、普通」と絶叫した。このようすはテレビ映像として残り、インターネット上で拡散している。

そして今回、大迫選手が大舞台で決勝ゴールをあげたことから、ふたたび盛り上がっている。フリーマーケットアプリでは、中西主将の顔のイラストと「大迫半端ないって」というフレーズをプリントしたグッズが売られており、Tシャツは売り切れになっているようだ。

「大迫半端ないって」はインターネット上で盛り上がっているが、名誉毀損にあたったり、中西主将の肖像権や著作権を侵害したりしているとは、いえないのだろうか。インターネット問題にくわしい清水陽平弁護士に聞いた。

●イラストにも肖像権が成立する

「その人の社会的評価を低下させるようなことがあれば、名誉毀損の問題になりえます。しかし、今回のケースでは、社会的評価を低下させるようなことにはならないと思われるので、名誉毀損の問題になりません。

一方、中西主将の顔をイラストにしたTシャツなどについては、肖像権の問題があるかの検討が必要です。

イラストについて肖像権が成立するのかという点について、最高裁は『人は、自己の容ぼう等を描写したイラスト画についても、これをみだりに公表されない人格的利益を有すると解するのが相当』として、認めています。

しかし、そのイラストを公表することが違法といえるかについては、イラストは、描写に作者の主観や技術が反映するものであり、公表された場合も、それらを反映したものであることを前提にして受け取られることを理由に、『社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうか』を検討する必要があるとしています」

●「肖像権侵害」とまではいえない

「中西主将は、一連の発言を、テレビカメラの前で、ある種パフォーマンス的に行っているようですので、その映像が公表されることも予想していたといえます。そのことも考慮すると、イラストが使われたとしても、『社会生活上受忍の限度を超える』とまではいえないと判断されるように思います。

したがって、肖像権侵害は問題になりえますが、侵害とまではいえないということになるのではないかと考えます。

ただ、中西主将は、社会人として普通の生活している方です。そのため、仮にイラストの使用をやめてほしいと思っていたとしても、なかなかそれを言い出すことは難しいと思います。

肖像権侵害にならない可能性は高いのではないかと思いますが、仮に、本人がイラストの使用をやめてほしいと思っているとすれば、イラストの使用はやめるのが妥当だろうと思います」

●「大迫半端ないって」に創作性はあるのか

「大迫半端ないって」というフレーズの著作権はどうだろうか。

「著作権が認められるためには、そもそも『大迫半端ないって』のフレーズが著作物といえる必要があります。著作物といえるためには、思想または感情を内容とするものを創作的に表現することが必要です。

『大迫半端ないって』は、すごいと思った感情を表現したものであるとはいえますが、創作性があるといえるかは要検討です。

言葉が短いから創作性が否定されるというものではありませんが、一般的に、キャッチフレーズのようなものに、創作性が認められる例は、そう多くありません。創作性が認められるためには、知的所産というに足りるものがあるとか、創造的な言葉の選択などが必要になりますが、短い言葉だと、これを発揮することが難しいためです。

『大迫半端ないって』のフレーズは、口を突いて出た言葉と思われ、ありふれた表現ともいえます。そのため、これをもって創作性があるということは困難と思われます。そのため、著作権上の問題はないでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

清水 陽平
清水 陽平(しみず ようへい)弁護士 法律事務所アルシエン
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(2020年)、「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(2022~2023年) の構成員となっている。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第4版(弘文堂)」などがあり、マンガ「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」の法律監修を行っている。

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