NPO法人ヒューマンライツ・ナウ(HRN)が児童ポルノに関する調査報告書を9月上旬に公表したことを受け、制作会社や流通会社が対応を発表している。
DVD販売や動画配信などの事業を運営する「DMM.com」は9月7日、アイドルなどが出演するイメージビデオのうち、18歳未満が出演する作品の取り扱いをすべて停止したと発表した。
HRNが9月5日に公表した児童ポルノに関する調査報告書は、18歳未満のイメージビデオのなかに、いわゆる「3号ポルノ」(児童ポルノ禁止法2条3項3号)の疑いがある作品があり、「DMMでも販売されている」などと指摘していた。
いわゆる「3号ポルノ」にあたるというのは、どのような場合なのか。判断するにあたって基準はあるのか。奥村徹弁護士に聞いた。
●「3号ポルノ」どう判断すべきなのか?
「イメージビデオ」「着エロ」の明確な定義がないので、個別の作品について、児童ポルノ法2条3項3号の要件に照らして検討されることになります。現行法の3号ポルノの定義は次のようなものです。
「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」。
報告書の通り「児童が着衣したまま」であれば、仮に「児童の姿態」であり「殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」であったとしても児童ポルノには該当しません。
また、極小の水着や水着をずらして胸部・陰部が露出している場合には「着衣の一部を着けない」となる余地はありますが、デパートで販売されているような水着を普通に着ている場合には問題ありません。
以下の様な判例の基準に照らして判断すべきです。
「被害児童が乳首や陰部がかろうじて隠れる程度の極めて小さい水着やひも状のパンツ等を着用した上、殊更に性器の部分を強調したり、性的行為を暗示したりするような姿態を撮影した場面が大半を占めるもの(東京高裁平成22.5.19)」
「児童に極小の水着を着用させてはいるものの、その一部を陰部に食い込ませるなどして性器の周辺を露わにさせ、あるいは、臀部を露わにするようにずり下げるなどしているもの(東京高裁平成22.3.23)」
●年齢推定の「タナー法」、「過信するべきではない」
児童であることについてHRNの報告書では次のような点を根拠としてあげています。
「性暴力、性虐待等の被害児童への往診経験の豊富な20年のキャリアの小児科医に対し、本件で確認したビデオの一部について、年齢に関する照会を求めた。写真上、顔つき、筋肉の付き方(特におしりや腰ライン)、骨格、乳房の発育、陰毛の発育等の全体像で総合判断した」
人物特定ができない人物についての年齢推定について、警察が採用するのは乳房や陰部の成長で判断する方法(タナー法)です。
しかし、乳房・陰部が露出していない場合には、タナー法による判定は不可能ですし、そのタナー法そのものについても「CG児童ポルノ事件」の判決(東京地裁平成28.3.15)で、次のように過信を諌めていることに注意する必要があります。
「タナー法による分類に基づく年齢の判定は、あくまで統計的数字による判定であって、全くの例外を許さないものとは解されない。その統計的数字も、例えば、現在のDNA型鑑定に比すればその正確さは及ばない。身長や肌の艶、顔つき、あるいは手の平のレントゲン写真などといった判断資料は一切捨象して、胸部及び陰毛のみに限定して判断するタナー法の分類に基づく年齢の判定は、あくまで、18歳未満の児童であるか否かを判断する際の間接事実ないし判断資料の一つとみるべきである」
実際、「着エロ」の児童ポルノ事件の実際の捜査では、全件、被害児童の人物(生年月日)を特定して、児童性が立証されています。
とすると、報告書の「明らかに児童ポルノと評価できる」とする根拠については、児童なのか、児童性の判断方法、「着衣の一部を着けない」と言えるのかという点で、これまでの実務や判例とそぐわない点があるのでこれで「明らかに…判断できる」のかは疑問です。
DMMが審査未了で児童ポルノの疑いがある作品を除外するのは理解できますが、「18歳未満が出演する商品は、たとえ性的な描写がない場合でも取扱いの停止」という対応は、児童ポルノに該当しない合法的な作品を一律に排除してしまう点で過剰反応だと思います。