駐車場で車内に子どもを放置して、買い物やパチンコなどをする保護者が後を絶たず、毎年夏になると、熱中症で子どもが死亡するという悲劇が繰り返されている。
そこで、全国でパチンコ店を営業するマルハンでは、車内に子どもを置き去りにしないよう、ポスターで呼びかけているほか、見回りを強めているという。ポスターには、「絶対にヤメて 子供の車内放置」「クーラーが効いていない夏の車内は15分で50℃に達します」「お子様の車内放置を発見した場合は救出の為、車の窓ガラスを割る場合があります」などと書かれている。朝日新聞などの報道によると、見回りの従業員は緊急事態に備えて、窓ガラスを割るためのハンマーを持ち歩いているという。
通常であれば、他人の自動車の窓ガラスを割る行為は、器物損壊罪に問われるが、子どもの命を救う為には許されるのだろうか。刑事事件に詳しい星野学弁護士に聞いた。
●車内放置は「保護責任者遺棄致死傷罪」、救出は「正当防衛」と評価される可能性
子どもの命を救うためであれば、窓ガラスを割っても大丈夫?
「子どもを救出するためとはいえ、車の窓ガラスを割る行為は理屈の上で『器物損壊罪』にあたります。ただし、当該行為が『正当防衛』として犯罪ではないと評価される可能性があります。
暑い夏の車内に子どもを放置すれば、子どもの生命・健康に被害を与えることは誰でも分かることなので、放置行為は犯罪行為(保護責任者遺棄致死傷罪、重過失致死傷罪)といえます。このような犯罪行為に対して、子どもの生命・健康に危険が迫っているという状況下で窓ガラスを割って子どもを救出する行為は正当防衛と評価され処罰されないでしょう」
もしも、窓ガラスを割った際に子どもがケガをしてしまったら?
「窓ガラスを割る際は割れたガラスで子どもがケガをしないように注意することが必要です。当然ですが、放置された子どもは犯罪行為をしていません。先ほどの正当防衛は犯罪行為に対するものなので、子どもにケガをさせた場合、その行為には正当防衛は成立せず『緊急避難』が成立するかどうかが問題となります。
そして、子どもの生命を守るためにやむを得ずケガをさせてしまった、子どもを救出するためにはケガをさせるしかなかった、という状況下に限って『緊急避難』と評価され、処罰されないことになります。
したがって、助けるためにはガラスを割ってケガをさせるしか『他にとるべき手段がなかった』という条件が、『緊急避難』が成立するために必要となります。単に子どもの生命・健康に危険が迫っている状況に『他にとるべき手段がなかった』という条件が加わっている分、『緊急避難』の方が『正当防衛』よりもハードルが高いことになります。
それでは、『正当防衛・緊急避難』が成立しない場合には窓ガラスを割る行為の全てが犯罪として処罰されるかというと、形式的に犯罪には当たるけれども検察庁において不起訴処分とされ、実際には処罰をしないという判断が下される可能性が大きいと思います」
●通りがかりの人が車内で放置された子どもを発見したら?
では、駐車場の管理者でなく、通りがかりの人が車内で放置された子どもを発見した場合は?
「正当防衛・緊急避難は、駐車場の管理者以外の人、例えば、たまたま通りがかって子どもの放置を発見した人にも適用されますので、駐車場・店舗の管理者だけが窓ガラスを割っても処罰されないというわけではありません。
ただし、犯罪として処罰されないとしても、ガラスを割って損害を与えているのですから、修理代金等の損害を賠償する責任が生じます。しかし、民事の損害賠償請求の場面でも『正当防衛』として損害賠償請求が否定されるでしょう。これに対して、子どもを放置した人と車の所有者が違う人の場合には、車の所有者自身は放置行為という悪いことをしていないので、所有者に対して修理代金等を支払う責任が生じてしまいます(もっとも、支払った修理代金等はあとで子どもを放置した人に請求できますが)。
そのため、後の紛争を避けるためには、自分だけで判断をするのではなく、警察、救急に電話連絡をし、子どもの状態(顔色、呼吸など)や天候・気温を伝え、窓ガラスを割って子どもを救助すべきか、それとも救助を待つべきであるかの指示を仰ぎ、その指示に従った対応を取った方が良いでしょう」