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ダイヤモンド・オンライン連載企画/事件に発展しかねないストーカーを遠ざけるには?
ダイヤモンド・オンライン連載企画

ダイヤモンド・オンライン連載企画/事件に発展しかねないストーカーを遠ざけるには?

近年、ストーカー被害の報道をよく目にするようになった。インターネットやSNSの発達で個人情報漏洩のリスクは高まっており、いまや女性にとってストーカー被害は他人事とは言えない時代だ。中には1999年の桶川ストーカー殺人事件、2009年の耳かき店員殺人事件、2012年の逗子ストーカー殺人事件、そして先月発生した群馬県のストーカー殺人事件などのように、殺人事件にまで発展する例もある。もし、あなたがストーキングを受けたらどうすればいいのか。日常の心得から警察への相談の進め方まで解説してもらった。

●珍しくはないストーカー被害事例 慎重に対応しないと殺人事件にも

「私は一人暮らしの大学生です。以前、アルバイト先で知り合った男性と1年ほど交際して別れたのですが、その後、やり直したいという連絡が何度も来るようになりました。

最初はそのたびに断っていたのですが、次第に相手の行動がおかしくなり、どこで見ているのか私が帰宅すると『お帰り』、出かけると『どこに行くの、デートかな?』といったメールが届くようになりました。また、郵便受けに入っていた郵便物が開封されていたり、ごみに出した雑誌類の束がばらされたりといった出来事もありました。

気持ちが悪くなりメールアドレスを変えたところ、切手の貼られていない手紙が自宅の郵便受けに投函されており、中には『メルアド変えたんだね、ひどいよ』と書かれていました。また、同じマンションの両隣と上下の隣人の郵便受けには、『○○ちゃんのご近所の皆様へ』『淫乱な○○ちゃんを皆様で見守ってあげてください』と書いた手紙が投函されていたことがわかりました。

このままでは何をされるか不安です。どうしたらいいでしょうか?」

以上は、筆者が過去、実際に相談を受けた例をモデルにした事例だ(プライバシー保護のために一部内容を改変している)。ストーカー被害の事例は多い。元交際相手がストーカーになるケースが多いが、一方的に好意を持たれ、つきまとわれるケースもある。中には殺人事件にまで発展する例があり、慎重な対応が必要だ。もし、あなたがストーキングを受けていたら、どう行動すれば被害の拡大を防げるのか。日常の心得や、警察への相談はどう進めればいいかを解説しよう。

●プライバシー漏れは最小限に 味方になってくれる人を増やす

まず、日頃の行動を振り返り、自分のプライバシーが不用意に漏れていないか、確認する必要がある。ごみは漁られる可能性があるので、個人情報が書かれている書類は細かく破る、自宅近くのごみ収集所に出さないなど気をつける。カーテンは厚手のものにし、マンションに管理人さんがいれば、事情を説明し、不審者がいないか日頃から気をつけてもらうようにお願いする。

フェイスブックなどのSNSも要注意だ。プライバシーに関する書き込みは最小限にする、書き込む場合も公開範囲を限定する必要がある。「友人の友人まで公開」といった設定だと、思わぬ人が見ていることもある。

ストーカー被害を受けたら、一人で悩まず、家族や友人にも相談した方がいい。味方を増やし、駅までの送迎をしてもらうなど、できる協力をしてもらう。ただし、交際相手に頼んでストーカーに「ストーカー行為をやめろ」と言ってもらうようなことは避けた方がいい。ストーカーが逆上し、「こいつさえいなければ」と交際相手を逆恨みして危害を加えるようなこともあるからだ。

●対抗するには証拠が不可欠 収集して警察に相談を

ストーカーに対して法的な対抗策を取るには、必ず証拠が必要になる。ストーカーからのメールや電話に対しては、「もう連絡するのはやめてください」と明確に拒絶の意思表示を行い、その後は、何度メールや電話が来ても、一切返信や会話はしないことだ。ストーカーは反応があると喜ぶ。着信拒否・迷惑メール設定など、電話やメールについて対処できることはする。

それでもストーカーからのメール・電話・手紙などが届く場合、それらの日時・回数・内容等は証拠として重要になるので、履歴は保存し、記録・証拠化しておく。無言電話でなく、相手が何か話してくるなら、それも録音した方がいい。もし、自宅の周りをストーカーがうろついていることに気づいたら、可能であればビデオで録画することだ。

●ストーカー規制法という法律が2000年11月から施行

ある程度証拠を収集したら、警察に相談する。プライバシーに関わることなので恥ずかしい気持ちもあるかもしれないが、警察に相談するのを躊躇しないことが大事だ。管轄の警察署(多くは生活安全課)に出向いて相談する。ストーカー規制法という法律が2000年11月から施行されており、警察はこの法律に基づいて対応をしてくれる。

ストーカー規制法では、次の8つの行為を「つきまとい等」として「警告」の対象としている。

 ①つきまとい・待ち伏せ・押し掛け

 ②監視していると告げる行為

 ③面会・交際の要求

 ④粗野・乱暴な言動

 ⑤無言電話、拒まれたにもかかわらず連続して行う電話・FAX・電子メール

 ⑥汚物などの送付

 ⑦名誉を傷付ける

 ⑧性的羞恥心の侵害

いずれも、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」で行ったものであることが必要である。

「つきまとい等」を反復すると、「ストーカー行為」になる。警察では、「つきまとい等」の存在が認定できると、被害者からの申し出を受けて、加害者に対し「警告」をしてくれる。「警告」は、加害者を警察署に呼び出して行うのが通常だ。

桶川ストーカー殺人事件などではストーカー被害に対する警察の無理解・怠慢が批判されたが、ストーカー被害が深刻な社会問題となるにつれ、警察の対応も以前より改善されている。

●警察の対応が不十分ならば弁護士にも相談を

警察が正式に警告を行えば、9割程度のケースで、加害者のストーカー行為は収まっているようだ。それでも収まらない悪質な事案の場合には、警察と密に連絡を取り、警戒を強める必要がある。

加害者が「警告」に従わず、さらに「つきまとい等」をした場合には、警察(公安委員会)は「禁止命令」を出すことができ、「禁止命令」が出てもこれに違反して「ストーカー行為」を行うと、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金という刑事罰が用意されている。

つまり、捜査機関が刑事事件として立件し、加害者を逮捕・起訴することが可能になるのだ。

警察にストーカー被害を相談しても迅速に対応してくれないような場合には、弁護士にも相談するといい。加害者が判明していれば、内容証明を送付して警告したり、裁判を起こして慰謝料を請求することができる。また、証拠収集のアドバイスや、証拠を添えて「ストーカー行為」について刑事告訴状を警察署に提出し、正式に捜査を求めることも可能である。

以上のように、解決の手段はある。ストーカー被害を受けたら、とにかく一人で抱え込まないことだ。家族・友人や警察・弁護士に助けを求め、毅然として対応するべきである。

プロフィール

秋山 直人
秋山 直人(あきやま なおと)弁護士 秋山法律事務所
東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は四谷にあり、不動産関連トラブルを中心に業務を行っている。

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