弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 民事紛争の解決手続き
  3. 水泳授業の飛び込みで首骨折、弁護士「一向に改善せず、事故が起き続けている」
水泳授業の飛び込みで首骨折、弁護士「一向に改善せず、事故が起き続けている」
写真はイメージです

水泳授業の飛び込みで首骨折、弁護士「一向に改善せず、事故が起き続けている」

東京都立墨田工業高校で7月、水泳の授業中に3年生の男子生徒がプールに飛び込んだ際、プールの底で頭を打ち、首の骨が折れる大けがを負っていたことが報じられた。男子生徒は現在も入院中で、胸から下にまひのような症状が出ているという。

報道によると、男子生徒は7月14日、保健体育の男性教諭の指導で、飛び込みの練習をしていた。教諭は「頭から飛び込むため」として、高さ約1メートルの水面上にデッキブラシの柄を横に掲げ、生徒に柄を越えて飛び込むよう指示。男子生徒は指示通り入水し、プールの底で頭を打ったという。

事故が起きた当時、学校側は「注水に時間がかかる」との理由で水を減らしており、水深は、満水時より約10センチ浅い1.1メートルだった。教諭は都教委の事情聴取に対して「危険な行為をしてしまった」と話し、都教委は、障害物を飛び越えさせるような指導は「不適切だった」として、教諭の処分を検討しているという。

今回のような学校事故が起きた際、指導していた教諭と学校は、それぞれ、けがをした生徒に対してどのような法的責任を負うのだろうか。高島惇弁護士に聞いた。

●教諭と学校、それぞれが負うべき法的責任は?

「学校事故が起きた際、教諭の指導方法や事故後の救護活動に問題があったり、学校施設の欠陥が原因で事故が起きたりした場合には、生徒に対し尽くすべき安全配慮を怠ったとして、学校に対し損害賠償を請求できます」

高島弁護士はこのように述べる。教諭個人は賠償責任を負わないのだろうか。

「今回のように公立学校で事故が起きた場合は、国家賠償法が適用されるため、教諭個人は賠償責任を負いません。

国家賠償法とは、国や公共団体の損害賠償について適用される法律で、国公立の学校にも適用されます。この法律では、公務員である教諭が不法行為をした場合、国や自治体が賠償責任を負い、公務員個人は、賠償責任を負わないと定められています。

一方、私立学校の場合は、教諭個人が賠償責任を負い、さらに学校も賠償責任を負います」

教諭が刑事告訴される可能性はあるのだろうか。

「教諭が授業を行うにあたっては、生徒の多様性を踏まえながら安全を確保できるよう、生徒の様子や行動を常に監督するなど、高い安全配慮義務が課せられる傾向にあります。

教諭の指導方法や監督状況があまりにもずさんで、その結果事故が生じたと考えられる場合は、私立か公立かを問わず、業務上過失致傷罪として教諭が刑事告訴される可能性も理論上考えられます」

●「逆飛び込み」の学校事故は以前から発生していた

高島弁護士によると、今回のような、頭から水中に飛び込む「逆飛び込み」による頸椎骨折・頸髄損傷の学校事故は「以前から発生していた」という。

「独立行政法人日本スポーツ振興センターが毎年度発行する『学校の管理下の災害』では、逆飛び込みによる障害事例が毎年複数挙げられています。通常の教諭であれば、プールの底へ衝突する危険を予見することは十分可能だったはずです。

にもかかわらず、今回の事故で教諭は、デッキブラシを飛び越える形での飛び込みを指導していました。このような飛び込みは、いったん上に飛び上がることで入水時の角度がより急になるため、スタート地点からそのまま下方へ飛ぶ込む方法と比べて、プールの底に衝突する危険性がより高まります。

日本水泳連盟のガイドラインでは、いかなる飛び込み姿勢に対しても安全な水深は3メートル以上にならざるを得ない旨を指摘しています。今回のように、わずか1.1メートルの水深での逆飛び込み指導は、さすがに無謀だったのではないでしょうか」

ネット上では、「飛び込みはリスクが高すぎる」「教える必要がない」といった意見も出ていた。

「一部の研究者は、水泳の飛び込み事故の問題性を昔から指摘していますが、教育の現場では一向に改善せず、事故が起き続けています。今回もまた事故が発生したことは大変遺憾であって、飛び込みの問題についてきちんと議論がなされていれば十分予防できたはずです。学校における水泳指導を根本的に見直すべき時期にきているのではないでしょうか」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

高島 惇
高島 惇(たかしま あつし)弁護士 法律事務所アルシエン
学校案件や児童相談所案件といった、子どもの権利を巡る紛争について全国的に対応しており、メディアや講演などを通じて学校などが抱えている問題点を周知する活動も行っている。近著として、「いじめ事件の弁護士実務―弁護活動で外せないポイントと留意点」(第一法規)。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする