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「ヘイトスピーチ」を新しい法律で規制すべきか? 弁護士13人の「賛否両論」
欧米では、ヘイトスピーチを法で規制している国が少なくない

「ヘイトスピーチ」を新しい法律で規制すべきか? 弁護士13人の「賛否両論」

頻発するヘイトスピーチ(憎悪表現)を法律で規制すべきか否か――。東京都の舛添要一知事が、在日コリアンらに対するヘイトスピーチについて、安倍晋三首相に法規制を求めた。

報道によると、舛添知事は8月上旬、安倍首相と面会し、「人権に対する挑戦。五輪を控えた東京でまかり通るのは恥ずかしい」と述べ、法整備の必要性に言及した。これに対して、安倍首相も「日本の誇りを傷つける」と指摘し、自民党内での対応を検討する考えを示したという。

ヘイトスピーチを規制することについては、「表現の自由」の観点から反対する意見もあるが、新たな立法措置が必要なのだろうか。弁護士ドットコムに登録している弁護士に意見を聞いた。


●賛否で意見が割れている

ヘイトスピーチを規制する立法に賛成か、それとも、反対か。弁護士ドットコムでは、そのような質問を投げかけ、以下の3つの選択肢から回答してもらった。

1 ヘイトスピーチを規制する立法に賛成する→6票

2 ヘイトスピーチを規制する立法に反対する→4票

3 どちらでもない→3票

13人の弁護士から回答が寄せられた。回答は<立法に賛成する><立法に反対する><どちらでもない>に分散し、意見が割れていることが分かった。

そのうち、自由記述欄で意見を表明した弁護士10人の「コメント全文」を、以下で紹介する。(掲載順は、賛成→反対→どちらでもないの順番)

●ヘイトスピーチを規制する立法に「賛成」する意見

【秋山 直人弁護士】

「表現の自由の保障は極めて重要ですが、権利の濫用は許されません。

いわゆるヘイトスピーチと称されている言論には、明らかに表現の自由の濫用にわたり、差別的で憎悪に満ちたものがあります。こうした言論は、対象者の名誉感情や自尊心、人格権を著しく傷付けるものですから、権利の濫用として規制されてしかるべきと考えます。

表現の自由の観点からの慎重な歯止めを設けた上での規制立法に賛成します」

【森川 真好弁護士】

「憲法が定めた権利であっても、他人に著しい迷惑をかける形(行い)での権利行使は、規制されてもやむを得ないと考えています。いわゆる右翼が大きな音で凱旋することも、狭い道路で、通行人に向かって拡声器を用いることも、問題がありますし、内容において、特定の人に対する侮辱、名誉毀損になることは、刑事罰の対象ともなると思いますので、規制することは可能であるし、適当だと考えています」

【居林 次雄弁護士】

「ヘイトスピーチについては、後進国の表れともいうべき現象です。

戦前の日本では、朝鮮人や中国人をさげすむような教育がおこなわれており、その名残が未だに一部の地方や右翼筋の人々の間に残っているように見受けられます。

この際、立法をしてでも、人種差別の禁止をするのがよろしいと思われます。

国連の人種差別禁止条約でも定められており、日本政府は立法をしてこれにこたえることとしておりましたが、議会の解散によって、お流れとなり、政権が代わってからは、まだ立法の措置が取られておりません。
国際的に後れを取らないようにする必要もあります」

【大貫 憲介弁護士】

「私は、外国人側に立って弁護活動をすることが多いのですが、日々、差別意識と衝突します。日本の裁判所、行政、民間、メディア、どこにも根深い差別意識があります。しかも、多くの方々は、ご自身が差別的であることに気がついていません。日本の根深い差別意識は、先進的な内容の法律で改革していくしかありません。

他方、残念ながら、日本の警察に差別問題を取り締まらせることは、現状では、あまりに危険です。

したがって、ヘイトスピーチの規制は、罰則によるのではなく、労働審判のような簡易な手続きによる救済や行政から独立した機関による勧告、排除命令のような制度を考えるのがよいと思います」

●ヘイトスピーチを規制する立法に「反対」する意見

【鐘ケ江 啓司弁護士】

「まず、いわゆるヘイトスピーチを擁護するつもりは全くありませんし、個人的にも大嫌いですが、法律で新たな表現規制をするということについては反対します。

表現の自由は民主主義を正常に運営するために欠かすことの出来ない自由です。特に、政治的言論に対する保護については、表現の自由の中でも最重要のものです。そして、ヘイトスピーチに政治的色彩があることは間違いありません(差別的表現は表現の自由の枠外といった議論もありますが、そのような区別をすること自体が危険だと思います)。

表現行為が、差別や偏見を助長する誤った言論であるとしても、対抗言論や、現行の侮辱罪や名誉毀損罪、あるいは民事の不法行為責任で対応すべきであって、表現行為に対する萎縮効果が大きく、民主主義を歪める危険性の高いヘイトスピーチ規制には反対します。

近時、特定秘密保護法をはじめとして、表現の自由に対する規制が強まっているように感じます。ヘイトスピーチ規制については、少数者の人権擁護の観点から支持する弁護士も一定数いると推測しますが、「角を矯めて牛を殺す」ことになることを危惧します」

【三森 敏明弁護士】

「表現の自由に対する規制は、極力行うべきではない。仮に、法律上の規制根拠を作った場合、それを拡大解釈して取り締まりが横行することにより、表現の萎縮効果が起こる危険性がある。

ヘイトスピーチであっても、表現の自由の問題は、現行の不法行為、名誉毀損、業務妨害等の根拠に規制することが可能なのだから、あえて新たな立法措置をする必要性はないと思います」

【萩原 猛弁護士】

「ヘイトスピーチも『表現行為』であり、その規制は『表現の自由』との関係が問題となる(憲法第21条1項)。『表現の自由』は、憲法の人権保障体系の中でも『優越的な地位』にある。表現行為は、個人の自己実現であると共に、民主主義の前提だからである。従って『表現の自由』の制約は『必要最小限度』でなければならない。

現行法においては、当該表現行為が『他人の生命・身体・名誉・財産等を傷つける』場合には、脅迫罪(刑法222条)、名誉毀損罪(刑法230条)、業務妨害罪(刑法233条・234条)等によって処罰されることもある。ヘイトスピーチも刑法等の既存の規制立法によって規制することが可能であり、それ以上に新たな規制立法を設ける必要性があるとは思えない。

米国においては、その規制はヘイトスピーチによって『暴動が惹起され地域の平穏が害される現実的な危険性』が存する場合等に限定されているようである。わが国においても、新たな規制立法を設けるには『暴動が惹起され地域の平穏が害される現実的な危険性が存する』という『立法事実』の存在が証明されなければならないが、今だこのような立法事実の存在は認められない」

【大石 眞人弁護士】

「『ヘイトスピーチ』に対する対応は、刑法上の名誉毀損罪や、民法上の不法行為などで個別に対応することで十分であると考えられます。

何をもって『ヘイトスピーチ』とするのか、その定義付けにつき、曖昧不明確なものとなる可能性があり、予め一般的網羅的に規制の対象とすることは難しいと言わざるを得ません。曖昧不明確なものであれば、当然のこと、表現の自由に対する萎縮効果を伴うものとなり、民主政に対する脅威となってしまうでしょう」

●「どちらでもない」という意見

【岡田 晃朝弁護士】

「ヘイトスピーチ自体は、評価できるものではないと思います。

しかし、表現の自由の民主制における立場を考えると安易な規制はすべきで無いでしょう。何がヘイトスピーチなのかという線引きも難しいです。多数決のようなもので規制すると少数者の発言が害されてしまいます。
表現の自由は壊れやすい権利であることも考慮しなくてはないりません。

しかし、では、無制限に許してよいのかということになると、そこには疑問もあります。ブロ-クンウィンドウ理論という理論がありますが、多数のヘイトスピーチが特定の人に対する犯罪を助長する危険もあります。ヘイトスピーチの放置で他国との紛争になり、結局、表現行為自体破壊される危険もあるでしょう。あるいは衆愚政治に陥り、かえって民主制を機能不全にするかもしれません。

2、3日考えただけでは結論が出せませんでした。いずれにせよ、安易な解決に走るべき問題ではないと思います」

【川上 麻里江弁護士】

「『規制はすべきだが、時期尚早』と考えます。

ヘイトスピーチは言論の名に値しませんし、規制をしてうまくいっている国もあります。そういった国と日本とで何が違うかといえば、国家が恣意的な法適用をしないかということに対し、国民がきちんと監視できるかということだと思います。

国家がある法律を解釈して誰かの行為を違法なものとして取り締まるとき、その法の解釈を一度疑ってみることをしないで『お上がそう言ってるんだからそうなんだろう』と思ってしまう人の多さ。デモをすることが大切な権利であるということに思いが至らず『うるさい』『迷惑』で片づけてしまう人の多さ。日本の社会には、規制以前に表現の自由そのものが十分浸透していないと思います。

これから、私たち弁護士が、もっと国家権力に対し国民が物申すこと、めんどくさい存在であり続けることができるために、努力を重ねていかなくてはならないと考えています。

そして、憲法を語ること、人権を学ぶことが人々の間で当たり前になり、権力の好き勝手を許さないだけの力がついた暁には、ヘイトスピーチ規制は是非行うべきだ、と考えています」

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