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日本一ひどい悪人に選ばれた「明智光秀」 裏切り者と呼ぶのは「名誉毀損」でないか?
明智光秀は、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した武将の1人だ

日本一ひどい悪人に選ばれた「明智光秀」 裏切り者と呼ぶのは「名誉毀損」でないか?

日本で一番の悪人は「明智光秀」だった――。女性向けサイト「マイナビウーマン」が、「日本史上、一番ひどいと思う悪人は誰か」とユーザーにたずねたところ、織田信長を討った明智光秀が24.8%で堂々の一位を飾った(有効回答数452人)。

「裏切り者というイメージだから」「ドラマでいい描かれ方をしているのを見たことがない」と散々な評価だ。たしかに、明智光秀は歴史ドラマでも「裏切り者」として描かれることが多い。

ただ、歴史上の人物とはいえ、実在した人間を「悪人」呼ばわりするのは、名誉毀損にならないのだろうか。また、今年1月の報道によると、明智光秀の子孫が講演で「謀反人のレッテルが嫌でしかたなかった」と述べているが、子孫に対して「光秀は謀反人」と言うことはどうなのか。西口竜司弁護士に聞いた。

●死者に対する「名誉毀損罪」はあるが・・・

「歴史上の人物に関する評価には様々なものがあります。とりわけ、本能寺の変の実行者である明智光秀については、日本史上最悪の『裏切り者』といったレッテルが貼られています。

他方、明智光秀が領地としていた丹波地方の人々は今でも明智光秀を『名君』と称えています」

見方によって様々な評価があるのが、歴史の面白いところだ。では、「悪人」のレッテルを貼ることは、法的に問題ないのだろうか。

「通常の感覚からすれば、刑法上の問題が出てくるはずがないと思うでしょう。しかし、刑法230条2項には少し変わった規定があります。それは『死者の名誉毀損罪』です。

『死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない』

このように定められています。逆にいうと、虚偽の事実を示して、死者の名誉を毀損した場合は、罰せられる可能性があるということです。

これは、死者の名誉を保護する規定であり、死後においても正当な評価をおとしめられないよう、利益を保護するものです」

●子孫に対する名誉毀損が認められる可能性も

では、明智光秀の場合はどうなるのだろうか。

「明智光秀が『悪人』と書かれたとしても、社会が一般的に『謀反人』という評価を与えているわけですから、『虚偽の事実』を示したとは言えないと思います。刑法上、処罰の対象にするのは難しいでしょう」

なるほど、本能寺の変で謀反を起こしたこと自体は史実とされているから、名誉毀損とはいえないようだ。ただ、子孫は「謀反人の一族だ」と言われることを我慢し続けないといけないのだろうか。

「刑事上の責任とは別に、『社会的に受忍の限度を越えて』いるような内容の記事を書かれた場合、遺族の名誉侵害として、不法行為に基づく損害賠償請求が認められる可能性はあります。

今後、このような問題も出てくるのではないかと思います」

本人ではなく、子孫に関しては、別の法的問題が生じる可能性があるようだ。歴史上の人物の評価は時とともに変化するものだが、はたして、明智光秀が見直される日は来るのだろうか。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

西口 竜司
西口 竜司(にしぐち りゅうじ)弁護士 神戸マリン綜合法律事務所
大阪府出身。法科大学院1期生。「こんな弁護士がいてもいい」というスローガンのもと、気さくで身近な弁護士をめざし多方面で活躍中。予備校での講師活動や執筆を通じての未来の法律家の育成や一般の方にわかりやすい法律セミナー等を行っている。SASUKE2015本戦にも参戦した。弁護士YouTuberとしても活動を開始している。今年からXリーグにも復帰した。

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