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2018年02月24日 09時44分

両備・赤字バス撤退、規制緩和が本当の問題か…寺田教授「不採算エリアは自治体が向き合うべき」

両備・赤字バス撤退、規制緩和が本当の問題か…寺田教授「不採算エリアは自治体が向き合うべき」
両備バス

両備グループ(岡山市北区)が2月8日、両備バスと岡電バスの赤字31路線の廃止届を国土交通省に届け出たと発表した。公式HPで「地方における公共交通の窮状を広く世間に知っていただくとともに、現行の路線バス行政に対する問題提起の趣旨で提出させて頂いた」と説明している。

問題視したのは、同グループの主力路線に新たに他社が参入申請したことだ。「黒字路線を狙い撃ちにした進出」と指摘し、2002年に行われた規制緩和で、バスの需給調整が廃止されて、参入が自由化されたことについて、「他社の新規参入や運賃値下げを余儀なくされる状況が発生し、何とか維持してきた路線の縮小、撤退をせざるを得ない状況」と説明した。

今回の問題をめぐっては、「規制緩和がやはり悪だった」、「新規参入者は適正な価格設定なのか」という意見や、「赤字路線をどうするのかという問題と規制緩和は別問題」、「沿線自治体や住民など、関係者間での議論が尽くされていない」、「自治体が調整の役割を果たしていない」など、様々な意見が出ている。

今回の問題を通じて、何が見えてくるのか。バス産業に詳しい、東京海洋大の寺田一薫教授に話を聞いた。

寺田教授

●2002年の規制緩和後に起きたこと

ーーまず「規制緩和の弊害」という問題について考えてみたい。もう16年も前のことになりますが、規制緩和をして何が変わったのでしょうか。

「バス事業の規制緩和については、2002年の路線バスの規制緩和がおこなわれる2年前の2000年に、貸切バスで規制緩和があり、大きな影響が出ました。価格競争が行われ、その結果、安全面が後回しにされ悲惨な事故が起きたという主張もされています。

ただ、2002年の乗合バスの規制緩和については、路線の休廃止が増えたとよく言われますが、休止・廃止キロの推移を見ると、それ以前と比較しても大きな変化は見られません。地方自治体などが運営するコミュニティバスや、廃止される路線を引き受ける形の新規参入を除いて、乗合事業への参入は少なく、新規参入したとしても数年後には撤退したケースも多いです」

休止・廃止キロの推移

ーー同じ規制緩和でも、なぜ貸切バスと乗合バスでここまで新規参入に差が出たのでしょうか。

「新規参入事業者が既存業者並みのバスネットワークを構築できるかどうかという点に尽きるでしょう。

例えば、事業を始める際に必要な最低車両数で比較すると、貸切バスは営業区域ごとに5両を持っていれば事業ができますが、乗合バスの場合は制度上最低車両数として5両の常用車と1両の予備車が必要です。ただ路線バスの場合、実際にやっていくには、その最低車両数の6両だけだと十分な輸送力も確保できず、良いサービスは提供できません。

バス利用者にとって影響が大きいのが本数です。結局安くしても使い勝手が悪いと、利用者は去っていきます。また、1路線だけ運行したとしても、それではバス運転手の時間が余ってしまう。ある程度多様な路線がないと、効率的な運行はできず、採算が取れないのです。新規参入が難しいからこそ、地方都市において既存のバス会社のシェア率が高い傾向にあります」

ーー今回の両備の問題は、規制緩和に大きな原因があるのでしょうか。

「新規参入があるということは、その路線で利益を確保できるという見込みがあるからでしょう。両備が主張する『新規参入者は適正な価格設定なのか』という論点はありますが、事業計画認可申請が行われ基準に適合していれば制度上は認可がなされます。不適正とまで言えないのであれば、これは単純に価格競争の問題です。

バスを規制する道路運送法には、ライバルと大きく重複する運行に対して変更を命じる『クリームスキミング』の規定があります。しかし適用が難しいのが現状です。今回と同じような混乱があちこちで起きるならば、発車時間が5分ずれていれば参入を認めるなどのわかりやすいルールにすべきです。

今回の両備の主張の特徴は、赤字路線の廃止を持ち出してきたことです。黒字路線の利益を赤字路線にまわしてきたから、黒字が減れば、赤字路線も支えられない、という考え方のようですが、黒字路線の競争をどうするのかという問題と、赤字路線をどうするのかという問題は本来は別の問題であり、切り分けて考えた方がいいでしょう。

今回の問題でも、さっそく自治体が要望活動などに動き出しました。赤字路線をどうするのか、という問題は、規制緩和の問題としてではなく、自治体との間でどうするのかを考えた方がいいでしょう。少子高齢化の時代で、こういった問題は各地で起きています」

●地方路線のサポート、自治体によって温度差

ーー2月16日に岡山市内で開かれた衆院予算委員会の地方公聴会において、両備グループ代表の小嶋光信代表は「需給バランスが崩れた地方路線を根本的に支える仕組みが必要」と話したそうです。(山陽新聞digital 2月16日)。利用者が少ない地方路線は、どうしていくべきですか。

「こうした地方路線については、自治体が運行を補助したり受託したりする方法で対応するしかないと思います。ただ、自治体によって温度差があり、まだまだ自治体がバックアップするという意識が低いのが現状です。今回の両備グループが提出した廃止届も、自治体への強いメッセージでしょう。

例えば鉄道駅と住宅地を結ぶ支線バスが廃止になった場合、自治体が乗合タクシーやコミュニティバスなどで補完したり、一部を買い戻したりするやり方があります。ただ、自治体は市町村にまたがった路線の廃止への対応が不得手な傾向にあります。

今回の両備グループの件についても、岡山市を含む4市にまたがっています。市町村が主催で都道府県や運輸局、事業者、住民などで連携計画を策定する「法定協議会」で議論されることになると思います。

バス会社と自治体は協力して住民の足の確保に取り組むべきですが、ときには今回のような利害対立もおきます。自治体自身も、運行費用や利用者のニーズを知り、バス会社の主張を冷静に受け止めるなくてはなりません。解決のために岡山市周辺の3市が連携に向かっているようですが、常日頃から自治体が広域的に情報交換や交通計画の調整をしておくことも大事です」

【プロフィール】

寺田一薫(てらだ・かずしげ)。1957年生まれ。慶應義塾大商学部卒。東京海洋大学大学院海洋工学系流通情報工学部門教授。専門は交通政策、都市交通、港湾経済など。著書に「地方分権とバス交通―規制緩和後のバス市場」(勁草書房)など。

(弁護士ドットコムニュース)

この記事へのコメント

安易な規制撤廃 40代 男性

黒字路線と赤字路線を切り分けて考えるという意見は、都市部の方の考えだと思います。最終的には黒字路線だけで経営、赤字路線は切り捨て。利潤儲けを考えるなら黒字路線だけにするでしょう。しかしバス事業者として地域の交通機関を守るという考えだと黒字路線の利益を赤字路線に回すのも当然考えることだと思います。規制撤廃から遅れて廃止路線が多くなっているのは地域でコミュニティバスなどでなんとか維持しようとしたがそれもできなかったということでしょう。規制撤廃は強者の論理で弱者を切り捨てるにもつながります。

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ぷくぷく 40代 男性

地域独占している代わりに赤字路線を黒字路線で内部補填しているのであり、美味しい所だけ採られたら会社として成り立たないのは当然である。
両備グループは地域貢献意識が高いグループと思うが、同時に自社改革も行っている。
補助金頼りじゃない会社だからこそ物申せると思うのだが。
自治体に公共交通政策を真剣に考えてもらう機会を与えるのは良いと思う。
日本は私企業が交通を担っているが海外ではほとんど無い事例だと認識して政策を考える時期だと思う。

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じもぴー 60代以上 男性

地元民だが、本当にバス路線が必要なのは交通難民の住民。今後、高齢者の運転免許返納が進めば益々、赤字路線のバスが必要になる。岡山は広い。公共交通の維持が必要

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規制は必要だと思う 40代 男性

公共的な事業のあり方として大きく2通りの考え方があると思う。

一つ目は、民間会社に独占的地位を与えるかわりに儲からない地域にもサービスを義務づけるというやり方と、もう一つは基本的には民間会社の参入に任せるが、参入がない地域のみ自治体が面倒を見るというやり方。

現在は後者の方なので、民間会社が撤退した地域は最終的には自治体が面倒をみないといけないのだが、小さい田舎の自治体は職員数も少ないし、予算も少ない中でさらに仕事が増えるわけで、せっかく民間会社がうまくやってくれてる状況を壊して、結果税金投入することになるような規制緩和に、規制緩和の意味があるのか疑問です。
役所の関与を無くすのが規制緩和の本来の目的なのに、規制緩和によって逆に自治体の負担が増えるって本末転倒だと思う。

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