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中傷被害を乗り越え「ネットの力をプラスに活かしたい」【スマイリーキクチさん・下】
自身の被害をもとに講演活動も行う

中傷被害を乗り越え「ネットの力をプラスに活かしたい」【スマイリーキクチさん・下】

ある日、突然に「殺人犯」だとネットで攻撃にさらされた、お笑い芸人のスマイリーキクチさん。前編( https://www.bengo4.com/internet/n_6209/ )では、加害者が摘発されるまでの10年にもわたる道のりを伝えた。

摘発された19人とキクチさんは面識はなく、加害者たちは書き込んだ理由を「正義感だった」と話したそうだ。こうした「身勝手な正義感」はなぜうまれるのか。また、ネットでの誹謗中傷に悩まされたキクチさんがなぜ、Twitterを始めたのか、話を聞いていく。(ライター・高橋ユキ)

●逮捕されたのは、ごく普通の人たちだった

ーー19人は、どのような人たちだったのでしょうか。

「17〜47歳まで、有名国立大学出身の公務員や、大手企業のサラリーマン、妊婦さん、派遣社員の20代女性など、様々でした。そしてごく普通に見える人たちですね。

警察では写真も見せてもらいましたが、誰1人会ったことはありません。取調室で涙を流し、『謝罪したい』と言った人もいたようですが、最終的には誰からも謝られていません」 

――中傷の書き込みを続けていた人たちが「スマイリーキクチは殺人犯だ」という根拠のない話を真実だと信じきって拡散したり攻撃したりする感覚も分からなかったのですが。

「捕まった19名のうち18名は、書き込んだ理由を『正義感だった』と話していました。要するに、僕のことを殺人犯だと本気で思い込んで書いていた。そして、自分たちは間違った情報に騙された被害者だ、というわけですね」

●「祭り」感覚で加害者になる

――正義感にかられている割には、その怒りに根拠はないわけですよね。裏の取れない情報をすんなり信じてしまうのが不思議です。

「ネットのデマは裏は取れないし、裏が取れないからこそ、真実のように情報が一人歩きするんですよね。デマのわかりやすい特徴は、証拠も裏付けもない。だから逆に信じるんです。いくら僕が事実無根を証明しても、書かれたことが事実であると信じてしまう。

ライブで僕が事件を笑い話にするのを聞いた、とか、スナックでスマイリーキクチが殺人事件のことを笑いながら話していたとか、画像も音声も何もないことを信じるんです」

――19人のうち 18人が「正義感」からの犯行だったとのことですが、残りの1人の動機は何だったのでしょう。

「『祭り』みたいな感覚で遊びでやっていたそうです。僕のことを脅迫や中傷をしていた人間が、事件の加害者と同じような感情を持っているなと思ったんです。抵抗できない人間に対して集団で襲いかかるわけですから。

川崎で一昨年、中学生の男の子が殺害された事件でも、加害者側の個人情報がたくさん出ましたね。あの時は、悪いやつなんだから、追い詰めればいいじゃんという身勝手な正義感が『祭り』になっていったように思います。インターネットは、情報の共有という良い面がある一方で、感情の共有もしやすい。怒りはすぐに伝わりますし、怒りはすごく人が注目するんですよね」

●「全員起訴を見送ろうと思っています」

ーー19人の内、書類送検されたのは7名。名誉毀損罪、脅迫罪で3人が起訴猶予に、残り4人が不起訴処分だったんですね。

「最初に『全員起訴を見送ろうと思っています』と、検事から聞いた時は驚きました。到底、納得はできませんよね。理由をたずねると、東京地検の検事は『ブログをやった側にも問題がある』『足立区出身と公表するから疑われるんだ』などと言うわけです。『普通の人だったら、そういうのは隠すんだ』そうです。

足立区出身と書けば自分が疑われることが予測できるわけがない。屁理屈というか言いがかりです」

ーーネットで殺害予告の書き込みをした人が起訴される事例も多々ありますよね

「僕の場合は『長年中傷を受けているので、数が多すぎる』とも言われましたね。数が多いから対応したくない、ということなのでしょう。」

●ツイッターを始めた理由

――現在スマイリーさんはYouTubeで誹謗中傷の被害対策の情報発信をしたり、ブログでは被害に悩む人の相談に乗られていますが、ツイッターも始められましたよね。SNSの中で最も誹謗中傷が多い場所という印象がありますが、あえてそこに乗り込んだのはなぜでしょう。

「いままでブログで情報発信していましたが、ツイッターが一番激しいからこそ、炎上などを防ぐために、リテラシーを高めるための情報を発信していければいいなと考えました。言論の自由や正義について自分の中で感じたことをたくさんの人が読んでくれています。

僕は確かにネットで中傷の被害は受けました。最初はネットが嫌いでしたよ。でも、ネットには拡散する力がある。それをマイナスではなく、プラスに考えようと。日々多くのデマが拡散するということは、良いことだって拡散する可能性があると思っているんです。

事件の後、同じような悩みを持つ方からの相談を受けているんですが、そうした相談をブログのメッセージで受けてやりとりをしたり、YouTubeに誹謗中傷を受けた場合の対処法についても動画をアップしています」

(後編:「ネット中傷の三段活用…最後は「死んで証明しろ」【スマイリーキクチさん・上】」はこちら → https://www.bengo4.com/internet/n_6209/ )

【取材協力】

スマイリーキクチ:

太田プロダクション所属のお笑い芸人。東京・足立区で発生した女子高生殺害事件の関係者だという情報が流れたことをきっかけにネットで誹謗中傷を受ける。2009年に19人が摘発された。2011年「突然、僕は殺人犯にされた」を出版。

オフィシャルブログ「どうもありがとう」https://ameblo.jp/smiley-kikuchi/

【プロフィール】

高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記」(霞っ子クラブ著/新潮社)、「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(高橋ユキ/徳間書店)など。好きな食べ物は氷。

(弁護士ドットコムニュース)

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