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元AV女優・川奈まり子さんが語る「引退後」の人生と待ち受ける困難<下>
元AV女優で作家の川奈まり子さん

元AV女優・川奈まり子さんが語る「引退後」の人生と待ち受ける困難<下>

アダルトビデオ(AV)業界の人々を騒然とさせた、NPO法人ヒューマンライツ・ナウの調査報告書。スカウトから声をかけられた若い女性たちが、本人の意に反するかたちでAV出演を強要されているというものだった。

[span>元AV女優で、AV業界の内情にくわしい川奈まり子さんは、弁護士ドットコムニュースのインタビューに答えた。その前半元AV女優・川奈まり子さんが語る「出演強要」問題と業界の課題<上>https://www.bengo4.com/internet/n_4489/](span元AV女優で、AV業界の内情にくわしい川奈まり子さんは、弁護士ドットコムニュースのインタビューに答えた。その前半元AV女優・川奈まり子さんが語る「出演強要」問題と業界の課題<上><https://www.bengo4.com/internet/n_4489/){target=_blank})では「『AV出演が合法ではない』という誤った印象を与える」「AV業界の人たちを路頭に迷せかねない『危険な決めつけ』だ」と報告書を批判した。

一方で、川奈さんは「1人でも出演強要の被害はあっていはいけない」とも話している。インタビューの後半では、現在、作家として活動する川奈さんが「AV女優という仕事がどういうものなのか」について触れながら、出演強要の被害を防ぐための方法を語った。(取材・構成/山下真史)

●AV出演を相談されたら、考え直させる

――「AV女優など出演者の労働者としての権利が守られていない」ということでしたが、AVに出演したいという女性がいた場合、どうしていますか?

たまに、ツイッターやフェイスブックでつながっている若い女の子から、「AV女優になりたいんです」と相談されることがあります。こういうとき、私は「ひとまず、考え直しなさい」と答えています。

大人の女性、たとえば30、40代の女性がAV女優になる場合、それまでの人生経験があるので、よほどの覚悟を固めていたり、何らかの思いがあることがほとんどです。一方で、若い子は、あまり深く考えていないことが多い。

なんとなく「恵比寿マスカッツ可愛かった」とか、「タレントは難しそうだけど、AV女優だったらなれそう」とか、「低学歴で貧乏だし、定職についてないけど、とりあえず食べていけそうじゃん」とか。そんな理由で応募する人が少なからずいると思うんですよね。

――出演したあとに後悔する人はいますか?

いると思いますよ。最初は、プロダクションの人から、ちやほやされて気分よく撮影できても、いざ発売されたらこわくなると思うんです。裸で男優と絡んでいるシーンが、インターネットなどにどんどん流れていくわけですからね。「AV女優になった」と気づくわけです。

そのときに、「どうしよう。親に言っていないけど、バレたら怒られるかな?」とか「ずっと、AV女優をやるしかなくなっちゃうのかな?」とか「ほかに就職したいと思っても、顔がバレて無理なんじゃない?」と後悔するかもしれません。

●引退後を生きることは困難になるが・・・

――AV女優になるということは、どういうことなのでしょうか?

私がAV女優として過ごした時間は4年間で、引退してからのほうがすでに倍以上、長くなっています。引退したあとは、作家として、官能小説など20作品以上を出してきました。

けれども、いまだに「AV女優だったこと」は知られているけど、「作家であること」はほとんど知られていません。AV女優という仕事は、それだけ知名度を持つ可能性があるものなんです。それを一生涯、背負っていくことになります。

もしかしたら、マンションの隣の部屋に引っ越してきた男性が、あらゆるAVを見尽くしているような人で、エレベーターで一緒になったとき「◯◯ちゃんですよね?」なんて声をかけられることもあるかもしれない。

だから、AV女優になるということは、「その後を生きること」でもあるんです。元AV女優で、前歴を隠さず、その後の人生を堂々と送れている人は、そう多くありません。そして、『その後』のほうがはるかに長いのです。

――「その後を生きること」は、困難なのですか?

はっきりいいますが、AV女優になることで、「その後を生きること」は困難になります。

でも、もし、困難を跳ね返すほどの強い生き方ができたとしたら、それはそれですごく面白い人生になるでしょう。そういう元女優さんたちを何人か知っています。彼女たちはみんな、かしこくて強いメンタルの持ち主です。

私自身は、元AV女優でもこんなふうに生きていけるという1つの「モデル」になりたいと考えています。ただし、子育ても含めて、日ごろの生活は「ふつう以上にきちんと」を心がけています。社会からの厳しい視線を常に意識する必要があると感じています。

――AV女優になることはオススメではないのでしょうか?

AV女優になることに反対しきれない理由が一つあります。人生に行き詰まった貧しい女性でも、AV女優になって大金を手にすれば、それまでの人生から脱出できる可能性が生じるので。

いま世の中には、貧困で苦しむ女性がたくさんいます。貧困家庭出身だったり、何らかの理由で親と縁を切っていたりして学歴がなく、定職に就くことができない女性たちです。そういう女性が人生の一発逆転を狙いたいと思った場合、AVでチャンスをつかむことができるかもしれません。

たとえば、実際にAVでお金を貯めて、起業して成功した人もいます。また、貧困家庭出身で、親が学費を出せないから、進学を諦めていたけども、AVで稼いで大学に入ったという人もいます。

そこまで大きな転身ではなくても、ホームレス寸前だったところAVの出演料が手に入ったことで衣食住が足りて、人並みに社会に溶け込めた女の子たちもたくさん見てきました。彼女たちはみんな「AVと出会わなければ無理だった」と言っています。

●「職業差別が厳然としてある」

――「その後を生きること」が難しくなる理由は?

職業差別が厳然としてあるからです。今回の報告書も、すべて反対というわけではありませんが、職業差別的なものを助長させたり、現役・元AV女優だけじゃなくて、10万人以上もいて、その多くは善良な納税者である業界関係者全員の社会的な立場を危うくする内容が含まれていると思います。

――職業差別はどういうものなのでしょうか?

たとえば、「AV女優をやっていた」と聞いたら、「うちの会社では雇えません」「うちの息子と結婚させるわけにはいかない」という話になることがありえます。ほかにも、住居の賃貸を断られたり、大学を退学させられたり。やはり、後ろめたい仕事だという認識が社会には暗黙のうちにありますよね。また、出演者自身も引け目を感じていることが多いと思います。

――どうすれば、そういう状況が改善されるのでしょうか?

世界的に、売春まで含めたセックスワークを労働として認めて「非犯罪化」する動きがすすんでいます。そうすることでセックスワーカーの労働者としての人権を守り、税収を上げ、福祉の支出を減らすわけです。ヨーロッパの先進諸国だけでなくアジアの一部でもセックスワークの多くが合法とされはじめていますが、今回のこの報告書はそうした潮流に逆行しています。

そもそも、日本にはまだ、セックスワーカーを「潜在的な犯罪者」として見る風潮があります。すると当然、セックスワーカーは差別され、立場が弱くなり、セックスワークについていること自体が脅迫の材料になってしまうのです。

AVでも、差別されていることを自覚すると、AV女優たちはプロダクションに頼らざるをえない。すると、もし、そのプロダクションが悪質な会社だった場合、違法な搾取や仕事の強制が行われるかもしれません。しかしAV女優であるということだけで社会に行き場がなくなってしまうなら、悪徳プロダクションの言うことを聞かざるをえないでしょう。

AV出演は合法的な出演業で、厳密に言えば一般のセックスワークとは少し異なりますが、「セックスワークは潜在的にも犯罪者ではない」「セックスワーカーも一般の労働者」という認識がひろく共有されると、職業差別が軽くなり、AV出演者も非常に生きやすくなると思います。

●「規制強化案には反対しない」

――報告書にもどりますが、1人でも出演強要の被害にあわないようにするためにはどうすればいいでしょうか?

プロダクションが一番おそれているのは、どのメーカーからも仕事をもらえなくなることです。各メーカーが協力し合って「駆け込み寺」のような出演者の被害救済団体を作れば、プロダクションとしてはこわいはずです。メーカーとプロダクションが共同で、そういうことをやれればいいですね。

――今回の報告書には、規制強化案がありました。

労働や雇用の面での規制強化案には反対しません。たとえば、報告書の提案にもあるように、監督官庁を設置する案には賛成です。

また、現在「日本コンテンツ審査センター」という国内最大の倫理審査団体が、AVを含む成人向けコンテンツの内容について審査しています。これは私個人の考えですが、そこの権限をさらに強化して撮影現場まで目を光らせるようにできたらいいかもしれませんね。傷害や暴行が少しでも疑われる内容なら、商品化を許可しないなど、業界が主体的にやれることがまだあるはずです。

さらに、個人的には、監督官庁が設けられるなら、警察が関わってくれるほうがよいと思っています。たとえば、AV女優が「撮影現場で強姦にあった」と相談に行っても、まともにとりあってくれない警察があると聞いたことがあります。相談を受けた警察官の気持ち一つということだと困ります。警察が業界のルール作りに関われば、自ずと被害を訴えやすい状況になるのでは。

そして、今回の報告書に協力した被害者支援者団体は、最初から「違法だ」と決めつけてAV業界と敵対せずに、業界と二人三脚で労働者としてのAV出演者の人権を守り、被害を食い止めるというスタンスをとってほしいと考えています。

(了)

(弁護士ドットコムニュース)

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