
医療過誤訴訟をライフワークに30年、依頼者と二人三脚で事件解決に挑む
『白い巨塔』きっかけに
ーー弁護士を目指したきっかけや理由を教えてください。
山崎豊子の『白い巨塔』を高校生の頃に読み、小説の中に登場する弁護士に憧れたのがきっかけです。医療過誤被害者を救済するために病院という巨大な組織に立ち向かう姿に共感し、弁護士になりたいと思いました。
ーーどんな学生生活でしたか?
大学では司法試験受験生が集まるサークルや法律相談サークルに参加して、法律の研究をしながら司法試験の勉強をしていました。当時は司法試験の合格率が低く、ロースクールもない時代でしたので、研究室などは司法試験受験生の溜まり場になっていました。
司法試験受験生の中には、脱サラをして弁護士を目指す人や学生運動に熱心で就職しなかった人などがいて、そういう人たちと一緒に司法試験を目指して切磋琢磨して勉強するのは楽しかったです。「給湯族」と呼ばれていたのですが、昼休みに給湯室に集まってみんなで議論を交わすのは刺激的でした。そのときに鍛えられたディベート力は弁護士になってからも活きていると思います。
ーー注力している分野と、注力している理由についてお聞かせください。
弁護士を目指すきっかけになった医療過誤訴訟は、弁護士になった当初からライフワークとして続けています。他には交通事故、離婚、相続。この四つが柱になっています。
日本の医療訴訟は勝訴率が20パーセント前後といわれています。被害に遭われた方は、それでも戦わなければなりません。中にはお金が目的ではなく、同じ事故が起こらないでほしいという思いで訴訟を起こす人もいます。そういう人たちの手伝いをできることにやりがいを感じています。
医療訴訟は医療の知識が求められる上に、裁判となると長い時間がかかります。一朝一夕で扱える分野ではないため、医療分野に取り組もうとする弁護士が少ないのが現状です。そのため、相談が集中することもありますが、長くこの分野に携わってきた者の使命感として、一人でも多くの被害者を救えるよう尽力しています。
交通事故は医療訴訟を扱っている関係で携わるようになりました。過失割合を争う事案よりも、後遺障害等級認定など、医療に関係する事案が多いです。
離婚と相続は過去の依頼者の紹介で来られる方が多いです。どちらも家族が関係する問題で、人生観が現れる分野だと感じます。依頼者にとって何が本当の幸せなのかを、私自身の人生や弁護士として関わった方々の人生と照らし合わせながら考えるようにしています。
ーー仕事をする上で心がけていることを教えてください。
依頼者に同感することを心がけています。相談に来る人は悩みを抱え苦しんでいます。まずはその苦しみを理解して、そこから一緒に考えていきます。「弁護士にすべて任せる」では困りますし、「依頼者の言う通り」でもいけません。二人三脚で一緒に問題解決に臨むことを大事にしています。
以前、依頼者から「事件解決はうれしいけれど、先生と会えなくなるのが寂しい」と言われたことがあります。私にとって最高の褒め言葉でした。不安を抱える中で、弁護士を心の拠り所と感じてくれていたのだと思いうれしかったです。
弁護士には冷静な判断や依頼人との一定の距離が求められますが、何の感動もなく、感受性もない機械になるのではなく、依頼者の喜びや悲しみに同感した上で頑張ることが大切だと思っています。そして、同感することが自分のモチベーションに繋がると考えています。
海外視察を通して見えた世界
ーー弁護士として活動してきた中で印象的だったエピソードを教えてください。
弁護士10年目くらいに経験した医療過誤訴訟が印象に残っています。重度の後遺症を抱えてしまった乳幼児の事件でした。弁護団を組んで損害賠償を求めたところ、病院側は過失を認めずに真っ向から争う姿勢を見せました。
勝てる見込みは高いと思っていましたが、病院側が権威のある医師を証人尋問に呼ぶなどしてこちらの主張に対抗してきたので、判決が出るまで油断はできませんでした。
勝訴の判決が言い渡されたとき、私は人目をはばからず法廷の中で涙を流しました。勝てたことの喜び、プレッシャーからの解放、依頼人への思い、様々な感情が混ざっていたと思います。30年間弁護士をしていて、法廷で泣いたのはこのときだけです。
相手方が控訴をしなかったため、1億円以上の損害賠償金が確定して依頼人も喜んでくれました。裁判は勝つことがすべてではありませんが、この事件は幼い我が子を傷つけられた依頼人のために、なんとしても勝たなければいけない事件でした。それだけに、勝ったときの喜びは大きかったです。
ーー医療訴訟関連では海外視察などもしていますね。
これまでアメリカ、フランス、イギリス、ドイツ、韓国に行きました。医療過誤の解決方法には国ごとに違いがあります。
アメリカは基本的に民間医療なので、医療過誤が起きたときは患者側が弁護士を雇って裁判で争います。フランスは社会保障が手厚く、医療は国が提供するという考えがあるため、病院に過失があった場合には国が賠償します。
韓国には医療訴訟に特化した調停制度があり、国が選んだ鑑定員が有責無責の判断をします。ドイツには紛争を迅速に解決することを目的に医師会が設立した調停所や鑑定委員会があります。
海外視察では各国の裁判制度だけでなく、医療に対する考え方の違いも学ぶことができて、とても勉強になりました。
ーー海外視察の経験が活かされていることはありますか?
事件に対して、「アメリカならこうする」というような多角的な考え方をするようになりました。また、迅速性を意識するようになりました。
アメリカには民間の調停組織があり、裁判に比べ早期解決ができることから多くの紛争解決に利用されています。私はかねてより日本の裁判ももっと時間節約ができないものかと考えていて、民事調停を積極的に取り入れるようになりました。
医療訴訟などは特に調停のメリットが活きる分野だと思います。裁判と違って公になることがないため、病院側が責任について素直に認めやすい面があります。患者側が勝てるような案件は、なるべく早く決着がつく必要があると感じています。
調停は時間だけでなく費用を抑えることもできるので、積極的に利用することで依頼者の負担も減ると考えています。
「私にしかできない仕事に携わっていきたい」
ーー趣味や休日の過ごし方について教えてください。
テニスが趣味で、週に2回スクールに通っています。ちょうど40歳のときに健康のために始めました。20年近く続けた甲斐あって、かなり上達したと思います。北海道弁護士会連合会記念テニス大会(全道のテニス愛好家の弁護士が集まる大会)では2度の優勝、7度準優勝を果たしています。
ボールを追っている間は他のことを考える余裕がないので、仕事のことを忘れられて気分転換になります。それと、スクールではいろいろな職業の人と知り合えるので、テニスを通じて親睦を深めるのも楽しいです。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
医療、交通事故、離婚、相続の分野はこれまで多くの事件を扱い、知識と経験が蓄えられていると思うので、残された弁護士人生はこれらの分野に絞って、私にしかできないような事件に携わりたいと考えています。
他の弁護士が受任を見送るような難しい事件でも、私の経験を活かせば打開できるかもしれません。そうした事件に取り組んで、困っている人の役に立つ仕事をしたいと思っています。
ーー法律トラブルを抱えていて、悩んでいる方へのメッセージをお願いします。
一人で悩んでいても解決しないので、弁護士に相談してほしいです。電話相談もいいですが、できれば直接会って相談するのがいいと思います。自分の口で話すことで、何が問題なのか頭の中を整理することができるはずです。自問自答している間は一歩も進めません。弁護士に話すことが解決の糸口になると思います。
ときどき、何年も悩んだ末に相談に来る人がいますが、人生の貴重な時間を悩むことに費やすのはもったいないと思います。弁護士に相談すれば法的な観点だけでなく、多くの相談者を見てきた経験からアドバイスをすることができると思うので、いろいろな話をしながら、自分の進むべき道を決めてもらえればいいと思います。