弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 消費者被害
  3. ハイリスク「商品先物取引」規制緩和へ――弁護士が懸念する「消費者被害」の再燃
ハイリスク「商品先物取引」規制緩和へ――弁護士が懸念する「消費者被害」の再燃
先物取引は投機的な要素が強い

ハイリスク「商品先物取引」規制緩和へ――弁護士が懸念する「消費者被害」の再燃

ハイリスク・ハイリターンな取引の代表である「商品先物取引」の勧誘規制が、緩和されることになった。

穀物や貴金属などの将来価格を予想して取引する「商品先物取引」は、投機的な要素が大きいため、勧誘を望まない顧客への電話・訪問勧誘が原則的に禁止されている。この規制の「例外」がこのほど、経産省・農水省の関連省令の改正によって拡大することになった。

今回の省令改正により、業者は(1)ハイリスク取引の経験者や(2)年収800万円以上もしくは金融資産2000万円以上などの条件を満たす65歳未満の人を、一定の条件下で電話・訪問勧誘できるようになる。改正は1月23日付けで、施行日は6月1日だ。

今回のルール変更は、消費者保護の観点からみて、問題ないものなのだろうか。消費者問題にくわしい正木健司弁護士に聞いた。

●消費者保護策が「骨抜きになった」

「勧誘を要請していない顧客に対して、電話・訪問勧誘を行うことを『不招請勧誘』といいます。今回の規制緩和は、これを骨抜きにするもので、非常にインパクトが大きいといえます。

不招請勧誘の禁止は、『抜本的な消費者保護策』として、2011年1月施行の商品先物取引法で定められたルールです。

このルールが定められたことで、商品先物取引による消費者被害は大幅に減少し、先物業界も淘汰・再編を余儀なくされました」

この規制によって、消費者被害がやっと減ったというわけだ。

●「消費者被害は防げない」

「ところが今回、わずか4年ほどしか経っていないにもかかわらず、突然、この『不招請勧誘禁止』を骨抜きにするような省令が定められたのです」

新しい省令では、どんな例外が定められたのだろうか。

「不招請勧誘禁止の例外となったのは、(1)ハイリスク取引の経験者と(2)65歳未満で一定の年収もしくは資産を有し、理解度テストに合格した顧客です。

これは実質的に、不招請勧誘の『解禁』といえます。国会で定めた法律が禁止していることを、省令で実質的に解禁するのは問題があります。省令で定められることの限界を超えていると考えます」

今回の省令では、対象者が、年収800万円以上か、金融資産2000万円以上の人に限定されている。それでは、絞り込みが足りないということだろうか?

「年収・資産による絞り込みが、消費者被害を防ぐために実効性のあるものとは、到底考えられません。悪質な業者は、顧客を誘導して、事実と異なる過大な申告をさせていることが、過去の裁判例でも明らかです」

●被害の再燃・拡大に懸念

「そもそも、不招請勧誘禁止の導入後も、法規制の隙間をぬうような形で、金の現物取引やスマートCX(損失限定取引)の勧誘などによる消費者被害が、少なからず発生しています。

今回の勧誘規制緩和は、消費者保護の面で、非常に重大な問題を有しています。今後、先物取引被害が再燃し、拡大しないか、細心の注意を払っていく必要があります」

正木弁護士は、このように警鐘を鳴らしていた。

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

正木 健司
正木 健司(まさき けんじ)弁護士 弁護士法人名城法律事務所
先物取引、証券取引、デリバティブ取引などの投資被害事件、金融商品取引訴訟を多数取り扱う。名古屋投資被害弁護士研究会代表。先物取引被害全国研究会幹事。全国証券問題研究会幹事。愛知大学法科大学院非常勤講師(消費者法)。ケフィア事業振興会被害東海弁護団事務局長。K&A投資被害弁護団事務局長。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする