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依頼者の財産「1.3億円」を横領、弁護士が法廷で明かした事情「色んな口座をぐるぐる回しているうちに…」
広島地裁

依頼者の財産「1.3億円」を横領、弁護士が法廷で明かした事情「色んな口座をぐるぐる回しているうちに…」

広島弁護士会に所属する弁護士が成年後見人として預かっていた被後見人2人の金を合計1億3000万円余り横領したとして、広島地裁で業務上横領の罪に問われている裁判は3月4日に判決が宣告される。

その弁護士、齋村美由紀被告人(49)は横領した金を自動車の購入やエステの代金などにあてていたことが報道され、ネット上でこの事実が拡散されて批判の声が渦巻いた。裁判では、依頼者に求められるがまま自費で多額の立替払いをしていたことなど、こうした報道の印象と異なる事件の実相が示された。(ノンフィクションライター・片岡健)

●弁護士になりたいと思った理由は「人助けをしたかった」

齋村被告人は大学卒業後、法律事務所で秘書として3年働いたのち、弁護士になるために法科大学院に進学。2008年に司法試験に合格し、2009年に広島弁護士会に登録した。被告人質問では、弁護士になりたいと思った理由をこう話した。

「法律事務所で働いていた頃、人を助けて感謝される弁護士の姿をみていて、私も人助けをしたいと思いました」

高校、大学は東京、法科大学院は山梨、司法修習地は名古屋だった。弁護士として働く地に広島を選んだ理由については、「生まれてから10年ほど広島に住んでいたので、懐かしさがありました」と答えた。

弁護士になった当初は、地元では有名な法律事務所に所属。7年勤務した後、同じ事務所の同期の弁護士と一緒に独立し、2人で事務所を立ち上げた。

独立後の収入は「月100万円くらい」だったという。一緒に事務所を営んでいた弁護士と事務所維持費を月30万円ずつ出し合ったり、ロータリークラブに所属したりしていたが、独身だったこともあり、経済的な不自由はなかったという。

しかし、昨年7月と8月、広島地検に2回にわたり、業務上横領の容疑で逮捕、起訴された。起訴内容は、成年後見人として預かっていた被後見人A氏の5000万円と被後見人B氏の計8060万3120円を横領した疑い。同10月に広島地裁で始まった裁判では起訴内容を認めており、すでに審理は終結。あとは判決を待つばかりだ。

では、なぜ、そのような巨額の金を横領したのか。

齋村被告人が逮捕されて以来、報道では、横領した金を自動車の購入やエステの代金にあてていたことがよく取り上げられてきた。実際には、齋村被告人は横領した金のうち、一部をそのように使ったのは事実だが、大部分は1人の依頼人への「立替払い」にあてていたのだ。

●使った預り金口座の金は、自分の金で補填するつもりだったが…

齋村被告人は2018年、その依頼人X氏から、亡くなった父の遺産の調査や相続手続きを依頼されて受任した。X氏はほどなく祖母(=亡くなった父の母)も亡くし、齋村被告人はX氏から祖母の遺産の代襲相続の手続きも追加で受任した。

最初に問題になったのは、祖母がX氏の父を年金受取人として契約していた年金保険だった。X氏の父が年金受給開始前に亡くなったため、祖母が死亡給付金3000万円を受け取れるはずだったが、祖母も亡くなる前、これを受け取っていなかった。

X氏は自分がこの3000万円を受け取れると考え、齋村被告人が保険会社に支払い請求の手続きをすることになったが、この手続きが順調に進まなかったという。

被告人質問では、その事情をこう説明した

「お祖母さまは、この年金保険を(本名ではなく)通称で契約していました。そのため、死亡給付金の支払いを請求するには、お祖母さまと受取人の同一性を証明しないといけませんでした」

同一性証明のための証拠集めが進まない中、齋村被告人はX氏から「保険金はいつ出るのか」と急かされ、「順調です。(2019年の)7月末までに手続きします」と答えてしまった。結果、手続きを行えないまま8月になり、今度は「少し遅れているようなので、私が一部を立替払いします」と言ってしまう。そして8月15日、預り金用の銀行口座で預かっていた依頼人の750万円をX氏に送金したという。

齋村被告人は当時、定期預金を960万円余り有しており、当初はこの金から750万円をX氏に送金しようと考えたそうだ。結局そうせずに、依頼人の金をX氏への立替払いにあてた理由をこう説明した。

「X氏の口座は、預かり金用の口座と同じ広島銀行でした。私の定期預金は別の銀行でしたし、普通預金ではないので、(X氏への送金の)手続きに少し時間がかかります。時間に余裕がなかったので、預かり金用の口座のお金を使わせてもらいました」

この時、X氏に送金した預り金用の口座の750万円については、あとで自分の金で補填するつもりだったという。しかし、結果的にその後、この750万円を補填できない状態が続いた。依頼人の金のみならず、自分の金も使って次々にX氏に立替払いをしたためだ。

●依頼人に求められるまま、合計1億5500万円を立替払い

齋村被告人が被告人質問で明かしたX氏への立替払いは以下の通りだ。

まず、最初に問題になった年金保険の死亡給付金3000万円については、その後も支払い請求の手続きができない状態が続く中、齋村被告人は上記の750万円も含めて合計2600万円をX氏に立替払いしたという。これには、別の依頼人の金のほか、自分の金もあてたそうだ。

一方で祖母の遺産については、齋村被告人の交渉の結果、X氏は、不動産を相続した別の相続人から5000万円の代償金(遺産分割に際し、不動産などの分けにくい財産を相続した人が清算のために他の相続人に支払う金)を受け取れることになった。

ただ、相手方がすぐに支払い可能なのは300万円だけだった。残り4700万円は不動産を担保に銀行から融資を受けて支払われることになっていたという。

齋村被告人はこの代償金についてもX氏から「まだか」「まだか」と急かされ、最後は「先生が払ってください」と迫られた。そして2020年6~7月、起訴された事件の被害者である被後見人A氏の預金から代償金と同額の5000万円を2回に分けてX氏に立替払いしてしまう。X氏の要求を断れなかった理由については、こう説明した。

「それまでお金を振り込んでいたので、この時も『(代償金が支払われるのを)待ってください』と言えませんでした。軽率だったと思います」

さらに齋村被告人は2021年以降、起訴された事件のもう1人の被害者である被後見人B氏の預金から7回にわたって6200万円をX氏の口座に振り込んだ。これもX氏が相続で得られるだろう金の立替払いだったという。そんなこんなで、X氏への立替払いは最終的に合計1億5500万円に及んだそうだ。

齋村被告人は独立前、依頼人と「難しいこと」になった場合には、事務所の先輩弁護士に担当を替わってもらったり、一緒に対応してもらったりしたという。しかし、X氏から受任した事案は、一人で対応していた。

齋村被告人はその後、2022年2月から2024年5月までの間、前出B氏の口座から26回にわたって計1860万円3120円を引き出し、生活費などにあてた。自動車の購入やエステの代金として使ったのもこの金だ。この事実については、こう説明した。

「色んな口座をぐるぐる回しているうちに使ってしまいました」

●横領した金はすべて弁済できる見通しだが…

齋村被告人は逮捕後、X氏に立替払いした合計1億5500万円のうち、5000万円は返してもらえたが、残り1億500万円はまだ返してもらえていないという。

そのため、保険を解約したり、自動車やゴルフ場の会員権を売ったりした金でB氏に2000万円を弁済し、親族もA氏に50万円を弁済してくれたが、まだ被害弁済できていない金が7680万円あるそうだ。

ただ、X氏の相続手続きを引き継いだ別の弁護士は証人出廷した際、「X氏は今後、うまくいけば相続などで1億円以上を確保できます」と証言している。齋村被告人は自宅マンションを売却する予定もあるそうで、X氏から今後立替払いした残りの金も返してもらえれば、残り7680万円の被害弁済も可能という。

齋村被告人は逮捕された時点でX氏の事案以外にも40件以上の事案を抱えていた。これらの事案も全部、他の弁護士たちが手分けして引き継いでくれているという。

2月3日に行われた最後の公判審理では、検察官は論告で、「被害金額は極めて高額」「弁護士業務や成年後見人制度への国民の信頼を揺るがせた」などと指摘し、懲役5年の実刑判決が相当だと主張した。

一方、弁護人は最終弁論で、「私的欲望を満たすための犯行ではなかった」「被告人は全財産をもって被害弁済する意向だ」「事件と真摯に向き合って反省している」などと訴え、執行猶予付きの判決を求めた。

続いて行われた被告人の最終意見陳述。証言台の椅子に座った齋村被告人は、「まず、被害者の方々に深く謝罪させて頂きます」と述べたが、次の言葉が30秒ほど出てこなかった。それから嗚咽しつつ、なんとか陳述を続けたが、声が小さく、ほとんど聞き取れなかった。

齋村被告人はこの裁判で禁固以上の刑が確定すれば、弁護士資格を失う。今後は一般事務の仕事をする予定という。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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