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「ブラック企業の社長を倒せ」RPGで労働法学ぶ 弁護士ら創意工夫、学校に出張も
林裕介弁護士

「ブラック企業の社長を倒せ」RPGで労働法学ぶ 弁護士ら創意工夫、学校に出張も

とても身近なのに、学校で教わる機会が少ない労働法(ワークルール)。少しでも関心を持ってもらおうと、弁護士や労働組合が創意工夫を重ねている。

「大魔王も倒して世界が平和になったから、そろそろ就職しようかな」ーー。

弁護士が芝居がかった声で語ると、30人ほどが集まった会場から笑い声が生まれた。前方のスクリーンには、有名RPG「ドラゴンクエスト」を連想させるドット絵。NPO法人ワーカーズネットかわさきの「RPGで学ぶワークルールCafe」の一幕だ。

ト○ネコ株式会社に入社した主人公が、ブラック社長と戦い、労働環境を改善させるというストーリー。育休や残業代請求、解雇などの労働問題について、どういう対応を取るべきかをクイズにして、グループごとに正解数を競い合うという趣向だ。

出題までは主人公に扮した弁護士や賢者(労基署員)、戦士(労働組合員)役のメンバーが寸劇を展開する。たとえば、こんな感じ。

主人公「入社した後、毎日、始業前と帰る前にビ○ンカ(妻)にメールを送っていたんですが、これは残業代請求の証拠に役にたちますか?」

賢者「どれどれ…おお! このメールがあれば、そなたの勤務した時間が計算できるから、残業代請求ができますぞ!」

主人公「本当ですか!!」

賢者「それでは、このメールをもとに、労基署のほこらの仲間にも手伝ってもらって、スーパーブラック社長が残業代を支払うよう指導してみよう」

会場からは、弁護士らの「熱演」に笑い声と拍手がおくられていた。イベントに参加した女子大学生は、「親しみやすい内容だった。友だちにも紹介したい」。

「ワークルールは知識だけでなく、実際に使えないと意味がない」と話すのは、中心となって企画した林裕介弁護士。RPG形式にしたのは、自分のこととして意識してもらいたいからだという。「この形式は今回が初めて。どんどんブラッシュアップしていきたい」

●ワークルール教育を受けた高校生が労働環境を変えた実例も

ワークルール教育には、各弁護士会も力を注いでいる。たとえば、東京弁護士会は、学校現場からの要請に応じて、60〜90分の出張講座を年20回ほど実施。特に大学と専門学校からの依頼が多いという。

興味を持ってもらうため、専門学校なら現場特有の話題を交えたり、女性が多ければセクハラの話をしたりと、会場に合わせて内容を変えている。

「通り一遍になっても、頭に残らない。大学生ならアルバイトの実体験を話してもらうなど、双方向性も意識しています」と、東弁の法教育部会長を務める浦岡由美子弁護士は語る。

ワークルール教育の成果として、高校生が職場を変えた実例もある。

2016年3月、コンビニアルバイトの男子高校生(埼玉県)が、労働組合「ブラックバイトユニオン」を通じた団体交渉の末、会社側にアルバイトも含む従業員約70人に対する、2年分の未払い賃金(計約500万円)の支払いなどを認めさせた。

きっかけは、同ユニオンによる高校への出前講座だったという。男子生徒は、職場への違和感を組合に相談し、組合員になった。「『労働基準法なんて知らねーよ』みたいな会社が多すぎる。そんな社会に僕は出ていかないといけないのか」とは、彼の弁だ。

●「希望の日程、試験後などに固まりがち」「予算措置が不十分」など課題も

一方で、課題がないわけでもない。前述の浦岡弁護士は、「学校からの希望日が試験や受験などの後に集まりがち。バラけてくれれば、対応もできるのですが…」と打ち明ける。

費用の問題もある。日本労働弁護団の嶋﨑量弁護士によると、公的な予算が不十分で「ブラックバイト対策」などの名目では、学校現場が補助を受けにくいのだという。労働弁護団では派遣費用を抑えているものの、学校側からすると、まだまだ気軽にとまではいかないようだ。

こうした状況から、労働弁護団や日弁連は、ワークルール教育を推進するための法律づくりを求めている。法律によって予算措置が行われば、利用は増えるはずだ。

「忙しい学校の先生が労働法を改めて勉強するのは合理的ではない。理念法を作って、講師を呼ぶ流れができれば、少しずつ変わるはず。どこに相談すれば良いかが分かるだけでも意味はある」と嶋﨑弁護士は語る。

(弁護士ドットコムニュース)

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