労働者の支援に取り組む弁護士たちでつくる日本労働弁護団は1月23日、安倍政権で導入が検討されている「高度プロフェッショナル労働制」について、「長時間労働野放し法」と呼ぶべきだとして、その名前に異議を唱えるとともに、制度の導入に反対する声明を出した。
高度プロフェッショナル労働制は、一定の年収要件を満たす「専門労働者」を対象にした新たな労働ルール。制度の対象になった労働者は、さまざまな労働時間規制が適用除外となり、残業代が原則的に支払われなくなる。厚労省の審議会で示された案では、1075万以上の年収を得ている専門職の労働者に限定するとしている。
これまでは一般的に「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれていたが、1月16日に開かれた厚労省の労働審議会で、「特定高度専門業務・成果型労働制」(通称:高度プロフェッショナル労働制)という新しい名称が提案された。一方、労働弁護団は「長時間労働野放し法」という呼び方がふさわしいとして、反対を表明したのだ。
●「成果報酬制」はいまでもできる
審議会で示された新名称は、なぜダメなのだろうか。労働弁護団・常任幹事の嶋崎量弁護士は次のように説明する。
「国民を欺こうとした名称だからです。まず、いま導入されようとしている新たな労働時間法制は、『労働時間でなく、成果で評価されるようになる制度』だと説明されていますが、それはウソです。
新たにルールを導入しなくても、今の法律のままでも、『成果報酬制度』を採用することは可能です。実際に、多くの職場で導入されています」
それでは、新制度では、どこが変わるのだろうか。
「結局、新制度に盛り込まれているのは、従来の労働時間規制を外すことだけです。成果型報酬制度を企業に義務づける内容は、全く含まれていません。これで成果主義が浸透すると考えるのは間違いです。
1075万円という年収制限についてもあくまで参考で、実際には省令で規定するとのことです。日本経団連は2005年に出した提言で『年収400万円』を想定していますし、将来的に引き下げられる可能性は極めて高いです。対象の労働者は、次第に高度なプロフェッショナル以外にも、拡大していくでしょう」
●「残業代」という歯止めが外れる
一方で、同制度にはこれまで、「残業代ゼロ法」というニックネームもあった。今回、あえて「長時間労働野放し法」と名付けたのはどうしてだろうか?
「それは、この制度の問題点が、残業代ゼロだけにとどまらないからです。
これまでは『残業代』の割増賃金の存在が、長時間労働の大きな歯止めになっていました。今回の制度を導入すれば、その歯止めが外れることになってしまいます。つまり、長時間労働が今以上に増加することになるでしょう。
過労死防止法が施行されるほど、多くの人が長時間労働に苦しんでいるのが、日本の現状です。長時間労働は命の危険があるだけではなく、少子化や男女共同参画など、さまざまな社会的課題にも、悪影響を及ぼしています」
嶋崎弁護士はこのように説明していた。
労働弁護団の声明では、新制度が深夜労働の野放しや労働者の健康破壊につながるなどと、他の問題点も指摘されている。
弁護団が発表した「長時間労働野放し法に断固反対する声明」の全文は、労働弁護団のサイトで公開されている。http://roudou-bengodan.org/proposal/detail/post-77.php