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サイバー「初任給42万円、固定残業代80時間」がもたらすインパクト 倉重弁護士が考察
サイバーエージェントのHPより(https://cyberagent.snar.jp/index.aspx)

サイバー「初任給42万円、固定残業代80時間」がもたらすインパクト 倉重弁護士が考察

サイバーエージェントが公表した「初任給42万円、固定残業代80時間/月」が話題になっています。

弁護士ドットコムニュースでも労働弁護士による解説記事「サイバーエージェント『初任給42万円、固定残業代80時間』は法的にOK?」を掲載したところ、ツイッターなどで大きな反響がありました。

働き方改革が叫ばれる中、古参のIT大手があえて出したこの基準には、どんなメッセージが込められているのでしょうか。日本企業全体への影響は? 企業側の労働法実務に詳しい倉重公太朗弁護士に聞きました。

●「従来の時間給制からの脱却を指向しているのではないか」

倉重氏はサイバーエージェントの若手育成法などに関心を持ち、CHO(最高人事責任者)に直接インタビューしています。今回の初任給を打ち出せたのは、自分の頭で考えて仕事をする若手にチャンスと権限を与えて、一定限度の失敗を許容した上で成長を目指すという企業風土が背景にあってこそだと指摘します。

「固定80時間というのは、80時間やらなきゃいけない、という意味ではないでしょう。むしろそれより短くても、80時間分もらえるということです。だらだらと長く働けば、結果いかんにかかわらず残業代がもらえるという従来の時間給制からの脱却を指向しているのではないかと考えられます」

実際、働き方改革法で残業時間の上限が決められ、36協定の原則45時間を延長できるのは年6回までとなりました。つまり、毎月80時間残業することは罰則の対象にもなり得ます。ネット上では、こうした点からサイバーにネガティブな反応も少なくありません。

「ただ、サイバーはGeppoという社員コンディション発見ツールの利用が根付いており、毎日の健康管理もきっちりしている会社です。人事制度は、健康管理体制や企業文化、組織風土とセットで考えるべきです。確かに、この基準を人員が十分にいない中小企業が単に残業代節約を目指してマネするとサービス残業や長時間労働の強要など『ブラック企業』になる危険性はあります」

●「賃金の上がらない横並びの日本企業に一石投じる狙いがあったのでは」

倉重氏は「あくまでも推測」とした上で、賃金の上がらない日本企業の横並び状態に一石を投じる狙いがあったのではないか、と話します。

「優秀な若者にとっては、年収2000万円の中国企業や、起業など魅力的な選択肢が多くあります。サイバーでは24歳で子会社の社長にして何億円ものお金を動かす経験をさせるなど、やる気のある社員を応援し、責任も与えています」

働き方改革の「時間」という一部分にとらわれてしまうと、仕事はないのに定額残業代のために残ったり、残業代をつけられないからサービス残業したりとひずみが出てきます。倉重氏は、「時間で働く」「時間=成果」という環境下では、社員はやらされ仕事という感覚になり、受け身の姿勢になってしまうと警鐘を鳴らします。

「その人自身のためにもならない上に、企業全体の力が弱くなり、このままでは日本企業は国際競争力を失って全滅してしまいます。経営陣は、表面的な働き方改革ではなく、効率的にどう結果を出すか、ビジネスモデル変革を含めて働き方改革を考えるべきです」

●事務コストカットの狙いは「メインの目的ではないだろう」

サイバーエージェント広報室は弁護士ドットコムニュースの取材に対し「恒常的に月間80時間の時間外労働を行わせるという趣旨のものではありません。事業の特性上、社員はその日・月ごとに業務量・時間に波がある状況のため、このような給与体系にしております」と回答しています。

固定残業代にする会社側のメリットとして、残業代計算の事務的なコストをカットできるという指摘もあります。

倉重氏は「確かに変動率がなく人件費を把握できる面はあるかもしれませんが、メインの目的ではないと思います。やはり効率よく成果を出せる人材を求めているということでしょう。2023年採用でサイバーにいい人材が集中したら、他も追随して初任給を上げざるを得なくなる。日本企業全体にとって好循環になるかもしれません。30年以上続く、横並びの賃金水準を変えようとする企業が増えてくれれば」と期待しています。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

倉重 公太朗
倉重 公太朗(くらしげ こうたろう)弁護士 KKM法律事務所
第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長。日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事、日本CSR普及協会理事。経営者側の労働法専門弁護士として、労働審判・労働訴訟の対応、団体交渉、労災対応等を手掛ける他、セミナーを多数開催。著作は25冊超、Yahoo!ニュース個人「労働法の正義を考えよう」等も行う。日本経済新聞社「第15回 企業法務・弁護士調査 労務部門(総合)」第6位にランクイン。

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