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ワタミ過重労働の「内部告発者」はなぜ同僚たちから訴えられたのか 謎の背景に迫る
是正勧告を受け会見したA氏(2020年10月2日、厚労省記者クラブ)

ワタミ過重労働の「内部告発者」はなぜ同僚たちから訴えられたのか 謎の背景に迫る

過労死事件などの反省から「ホワイト化」したと言われていたワタミが2020年9月、高崎労働基準監督署から是正勧告を受け、大きな話題になった。

残業時間が過少にカウントされ、「ワタミの宅食」の営業所長だったワタミ社員・A氏に対して、適切な残業代が払われていなかったというのだ。A氏側によると、過労死ラインを超える月175.5時間の残業があったという。

ところが現在、この問題がなんとも複雑かつ異様な展開を見せている。A氏からパワハラ・セクハラ被害を受けたとして、A氏の同僚や営業所のスタッフが合計2210万円の損害賠償を求める裁判を起こしたからだ。

これによりA氏の立場は、長時間労働の被害者からパワハラの加害者へと、まるでオセロの駒のように覆ったかのような印象が一部に広まった。

だが、この裁判に関して意外な背景があることがわかった。筆者が原告たちを訪ね歩いて取材したところ、

〈自分はAさんに対して裁判を起こしたいとまでは思っていなかったが、ワタミの社員から呼び出され、原告として裁判に参加してほしいと言われた〉

…という内容の証言が得られたのだ。

さらに、この原告が言うには、裁判への参加を募った説明会の場に、A氏の元上司で、彼女の勤務記録を改ざんしたとされるエリアマネージャー・B氏も同席していたという。

ワタミはA氏と加入先の「ブラック企業ユニオン」に対し、今回の裁判と会社はまったくの無関係と説明している。

だが、上司であるB氏が裏で関与しているのだとすれば、裁判の見え方は大きく変わってくる。A氏に対する提訴の本質は何なのか。取材により検証した。(ルポライター・古川琢也)

●残業は「月30時間以内」→実際は170時間超

まず、発端となった労基法違反について振り返っておこう。

A氏(40代・女性)は2017年9月、ワタミ株式会社に「ワタミの宅食」営業所の所長代理職として入社。2020年2月からは、業績立て直しのため、群馬県高崎市にある2つの営業所の所長を任されていた。

主な仕事は、ワタミと業務委託契約を結ぶ「まごころスタッフ」と呼ばれる配達員の管理、そして毎日運ばれてくる商品(弁当や惣菜)の管理や販促キャンペーンなどである。

A氏はひとりで合計二十数名の配達員を管理しており、毎朝7時台、早いときは6時台に出勤。車で往復1時間の距離を頻繁に行き来していた。

配達員たちが帰宅してからも、キャンペーン用チラシをつくったり、上司であるエリアマネージャーのB氏(40代・女性)からの電話に応えたりしていた。

のちにA氏が加入する個人加盟労働組合「ブラック企業ユニオン」によると、休憩もなく1日6~7時間の残業をこなし、帰宅時間が23時をすぎるのもごく日常的だったという。また、土日もスタッフの管理やクレーム対応などがあった。

こうしたなか、2020年6~7月にかけてはスタッフの退職もあり、A氏自身が土日も含めて毎日代配を行い、多い日には40軒ほどを回っていたという。

深夜12時頃に帰宅し、早朝5時には家を出発する日々が続き、A氏は7月下旬には精神疾患と診断され休職。発症前1カ月の残業時間は、月80時間とされる「過労死ライン」を大きく上回る175.5時間に及んでいたという。

ワタミの宅食

●残業時間は「月30時間以内」で申告

一方で、A氏はエリアマネージャーのB氏から、残業時間を「月30時間以内」に抑えるよう指示されていた。

「(ワタミが)もう一度労基(労基署)に目をつけられたら、会社が潰れる」などとして、「美樹さん(渡邉美樹会長兼CEO)を守ろう」などとも言われていたという。

そのためA氏は日頃から自分の残業時間を過少に申告していた。それでも「30時間」を超えてしまった場合、B氏が勤務時間の「修正」をすることもあったという。

こうした状況に対し、A氏は渡邉美樹会長や清水邦晃社長に手紙を書くなどしたが、解決には至らず、外部のNPO法人POSSEに相談、さらに高崎労基署にも残業代の未払いを申告した。

これにより9月15日付でワタミへの是正勧告が出され、同28日にその事実をPOSSE代表の今野晴貴氏がヤフーニュースで記事にすると、わずか数時間でワタミの対応が一変した。

「当該社員に深く謝罪いたします」

「時間外労働、深夜労働および休日労働に対して割増賃金の不足分を労働基準監督署の指示に基づき過去に遡り再計算して支払います」

というコメントに加え、渡邉会長を6カ月間減俸50%、清水社長を6カ月間減俸30%とする処分も発表したのだ。

清水社長からの手紙

現在のA氏は前述「ブラック企業ユニオン」に加入して高崎労働基準監督署に労災申請するとともにワタミとの間で団体交渉を行っている。

●A氏を訴えた配達員たちの「ハラスメント」裁判

それから4カ月がたち、この事件が思いもよらぬ展開を見せている。

中でも最大のトピックは10月19日、A氏がパワハラ・セクハラで裁判を起こされたことだ。

A氏が所長をしていた営業所の配達員ら11名(そのうち3組6名が夫婦)、そして別の営業所の所長であり、A氏とは同僚にあたるワタミの男性社員1名(C氏)の合計12名が10月19日付で前橋地裁高崎支部に合計で2210万円の損害賠償を求めて提訴したのである。

筆者が入手した訴状によると、業務委託スタッフなど11名が共通して、A氏が勤務を開始する「午前6時台から昼夜、休日、祝日を問わず、すなわち業務時間外であっても、威圧的なメールを多数送信」したことがパワハラに当たると主張していた。

また、11人の委託配達員のうちのひと組の夫婦(D夫妻)は、A氏から退職を強要されたとも訴えていた。

訴状にはこの2つの主張に共通する証拠として、A氏が配達員たちに一斉同報で流したメールの内容が挙げられていた。A氏に悪態をつくスタッフがいる、人手不足など気にせずやめてもらって結構だ、という内容だ。

〈皆様へ。営業所の所長はA(筆者注=A氏自身。以下同)であるため、これら増員の件などすべて私の責任です。 ただし、なぜ両営業所共新しいまごころさん(注=配達員)が育たないのか、各自一度よくお考えいただきたいと思います。今のままでは同様の状態が続きます。そうなると営業所合併、閉鎖となります。また、お辞めになることを軽率に発言されることは固く禁止します、このような発言をされる方がおり大変迷惑しています。Aに対して悪態、暴言を吐かれる方がいらっしゃいます。これらは会社から契約解除に当たります。ご承知おき下さい。そしてAへの悪態、暴言をされてきてなおお仕事を継続される方へ。一度失った私からの信用を再び得るのは大変困難なことです。くれぐれもご承知おき下さい。安易なことではありません。所長としてお仕事させていただいていますが、私も心をもった人間です。まごころさんの人数が足りないからといって、どうぞ遠慮はなさらずに。お辞めになる方はお辞めいただいて大丈夫です。前向きに、まごころさんとしてお仕事をして下さる方、 今後とも宜しくお願い致します〉

しかし、原告側は、A氏がメールにしたためたような「悪態、暴言」を否定しており、それゆえに、このメールはA氏が所長という優越的な地位を利用した一方的なパワハラなのだと糾弾している。

●新任所長と古参らの対立

この点について、A氏本人は、D氏(夫妻の夫の方)から受けた「悪態・暴言」は実際にあり、2020年6月頃には「机を叩かれながら怒鳴られた」こともあったと反論する。

「Dさんは、私が所長として赴任してくるずっと前から働く古株なのですが、自分で勝手に作ったルールを他の委託スタッフにも強要するなどの面がありました。

よくいえば積極的に業務に取り組んでいましたし、会社に貢献してきた面がないわけではないのですが、問題があると考え、本人に何度か注意しました」

業績立て直しに燃える新任のA氏と、古参のD氏らは険悪な関係にあり、こうした営業所内の雰囲気もあってか、新しくスタッフを採用しても、なかなか定着しない状況になっていたようだ。

D氏側にもD氏なりの言い分はあることだろう。だが、少なくともA氏の主張は、裁判の被告となったことで考えた苦し紛れの言い訳ではないことは確認できる。

D氏の処遇について相談するため、20年2月23日に「ワタミの宅食」東北・北日本支社長の備瀬伸江氏宛に以下のメールを出しているからだ。

〈●営業所(注=メール本文では実名)は、ワタミの宅食ではありません。まるでDさんの会社です〉

〈新しいまごころさんが入ってくれてもまた同様のことが起こります。Dさんの言うことを聞き、Dさんから気に入られた人しか残りません〉

〈これまでの所長は皆、Dさんの言うことに従っていたそうです〉

注目されるのは、相談を受けた備瀬支社長も、〈お疲れ様です。ひとつ大事なことは Dさんをここまで勘違いさせてしまったことは会社の責任です〉と返信していることだ。

備瀬支社長とのやりとり

配達員のひとりであり、裁判には加わらなかったE氏(60代・女性)も、こう証言する。

「DさんたちはAさんのせいで20人もの配達員が退職したと言っていますが、私に言わせればそのことのかなりの割合はDさんたちにも責任があります」

E氏は、A氏からの「昼夜・祝日を問わない威圧的なメール」についても次のように証言している。

「訴状に出ていたメール以外はほとんどはただの業務連絡ですし、Aさんがこれをやめてしまったら営業所は回りません。

文面も、人によっては厳しいことを言われたと感じたのかも知れませんが、基本的に個人名を名指ししたことはありませんし、業務上必要な範囲のものだったことは、私も同じメールを毎日受け取っていたので知っています」

●同僚男性へのプレゼントは「セクハラ」か

これに加えて、A氏からセクハラの被害にあったとして慰謝料10万円の支払いを求めているのが原告団のうち唯一のワタミ正社員である前述C氏である。

訴状によると、C氏は、2019年7月と9月にかけて行われた社内会議において、他の会議出席者の前でA氏から「高さ数十センチメートルはある花および高級ハンカチ」を贈られた。

C氏は既婚女性であるA氏から一方的に好意を向けられたことに恐怖を感じたといい、この行為が自分に対するセクハラであったなどと主張している。

これもA氏は言下に否定する。

「2019年9月に開設された栃木県の営業所の所長にCさんが就任した際、Bマネージャーからヘルプに来てほしいという任意での要請があったのですが断りました。

すると数日後にBさんから、『●っちょ(注=A氏の本名をもじった渾名)わ(ママ)、オープンに来てくれなかったしお祝いの連絡もなにもない。すごく寂しそうだったから連絡してあげて』と再度の要請があったのです。

メールだけはしましたが、それ以上のことは避け結局ヘルプにも行きませんでした。ただ、Cさんが気を悪くしていたらまずいと思い、単身赴任中の主人のためにもともと準備しておいたハンドタオルと花を営業所開所のお祝いの品として渡すことにしたんです」

●尾行・盗撮・怪文書

A氏の「告発」に対するスタッフらの主張については、「ITmediaビジネスオンライン」が11月5日に配信した、ブラック企業アナリストの新田龍氏による記事が詳述している。

たとえば、この中ではA氏の勤務記録改ざんについて、「A氏側の希望でやったことだ」などというBマネージャー側の言い分が掲載されている。

ただ、ワタミでは当時、特別調査委員会の調査が進行中であることを踏まえ、従業員にはメディアの取材に応じることを禁止しているとユニオンには説明していた。

Bマネージャーらについても、新田氏の「取材に応じた事実はありません」と11月17日付の文書で回答しているという。

だが、ユニオンでは問題の記事の中でBマネージャーおよび備瀬支社長が取材に回答したことが明白な箇所が少なくとも19箇所あるとして、両名に対する調査を求めている。

このITmedia記事をめぐっては、インターネット上のとある匿名掲示板にスレッドが立てられ、その後、A氏の顔写真や本名などが投稿されている。

投稿された画像は、ワタミの宅食部門の社員に配布される「まごころ名鑑」という冊子に掲載された、A氏の名前と所属を顔写真とともに紹介したものだった。

つまりワタミ、それも宅食部門の関係者でなければ入手困難な画像が、この裁判の被告がA氏であることを知っている人物によって意図的に流されたのだ。

さらに数日後、この掲示板の書き込みなどをプリントアウトした紙が差出人不明でA氏の自宅に郵送で届けられたという。

このほかにもA氏は、ワタミを告発後、面識のない人物から尾行され、写真を撮られるなどの被害にもあっているという。

●「ワタミの監督責任」を問わないハラスメント裁判

話をA氏が訴えられた裁判に戻そう。この裁判には、労働問題を中心的なテーマのひとつとして取材してきた筆者からすると、かなり気になる点があった。

ハラスメントを訴えているにもかかわらず会社を被告に含めていないことだ。

そもそもA氏が本当に配達員達にハラスメントをしていたのだとしても、その監督責任はA氏の使用者であるワタミにある。誰を訴えるかは自由だとはいえ、実際に賠償金を払えるのかなどを考えると、ワタミも訴えてもいいはずだ。

ところがこの裁判で原告団はA氏だけを標的としているどころか、訴状には、A氏が告発したサービス残業の事実さえ、自分たちの訴えとは関係ないにもかかわらず否定するかのような記述が各所に並んでいる。

一方でワタミ側は、A氏やユニオンにこの裁判は原告たちが独自に起こした裁判であり、ワタミは一切関与していないと説明しているという。

●原告たちの真意を尋ねに群馬まで

そこで筆者は、原告たちが実際にどのような心境で裁判を起こしたのかを知るため、2021年1月27日から29日にかけて原告たちを直接取材することにした。

【注:なおこの取材は、新型コロナウイルスの感染拡大が依然収まっていない状況であることと、取材対象者の多くが高齢者であることを考慮し、同26日に民間の検査機関でPCR検査を受診し「陰性」判定を受けた上で行った】

高崎市内に点在する原告の家を一軒一軒訪ね歩き、「Aさんとの裁判について教えてほしい」と尋ねると、ある人からは「弁護士に聞いてほしい。何も喋られないように言われている」と断られた。

最も話を聞きたかったD氏も、自宅を訪ね「Aさんとの裁判についてお話を伺いたい。Aさんのどういうところが許せなかったのですか?」と質問すると、「弁護士に一任している」「Aから言われてきたのか!?」と一喝され追い返された。

だが、そうして訪ね歩いた中には思いのほか素直に取材に応じてくれた原告たちもいた。彼らが明かした裁判の内幕はきわめて驚くべきものだった。

以下はこの原告FおよびG氏に対し、裁判に参加した経緯を尋ねた際のやり取りの抜粋である。

F「弁護士に、会社のほうというか(委託スタッフとC氏による)グループで頼んで、そっちのほうで話をした」

G「だから私は要するに、(弁護士から)『どうだろう?』って言われて、じゃあ『こういうことがありました』ということで言った(=説明した)くらいのもので」

――それはつまり、誰かから『裁判に参加しないか?』と?

F「そう。そういうこと」
G「Cさん(注=Aさんをセクハラで訴えたワタミ男性社員)とかBマネージャー」

――では、CさんやBさんから、『裁判に参加しないか』と?

F「そうそうそう」
G「私達が個人的にとかじゃないです」

ここで話を一旦整理すると、原告たちは昨年10月の比較的早い時期に高崎市の貸事務所ないしは貸会議室のような場所に呼び出され、そこで弁護士による個別のヒアリングを受けたようだ。

そして、原告2人の口からは、「裁判への参加を呼びかけられた」相手として、原告に名を連ねている社員C氏だけでなくBマネージャーの名前も出た。

さらにB氏が原告たちを焚き付けた疑いも生じてきた。

A氏を訴えた動機について、筆者がさらに突っ込んで尋ねてみると、彼らは「(A氏が)配達員を16人辞めさせた」ことを挙げた。

だがこれは少なくともAさん側は否定している。そこで「その話を誰から聞いたのか?」と訊くと、彼らはB氏からそう説明されたと答えたのだ。

――Aさんはそんなにみんなに対して厳しかったんですか?

F「と、思うけどね。俺はあんまり会ってないから。(略)…でも一緒に働いた仲間を一言でクビ、クビではないけど辞めさせるような言動があったって(聞いた)」

――それに皆さん怒ってる?

F「怒ってるというか、呆れちゃってるんだよ。逆に言うと話もしたくねえって」

――それは裁判までしないと解決できなかったんですか?

F「いや、俺達は別にアレだよ。そこまでする必要は…。それまではアレだったけど、呼ばれたから行ってみるかって。行ってみてどういう話になるかと思ったのが最初だった」

(中略)
G「20人近くいるスタッフたち対A元所長なんですよ。個人で訴えているわけじゃなくて、向こうが訴えてきたから、じゃあこっちも組んで、そういうふうにして」

【註:G氏らがどのような意味で「訴えた」と言っているのかは不明だが、A氏は20年2月現在、ワタミの労基法違反を労基署に申告しただけで訴訟は起こしていない】

(中略)
G「Aさんは残業代を払ってもらっていない、精神的苦痛を受けたということで訴えた。 それに対してこっちは、『じゃあどうだったんだ』というんでスタッフの人からも(話を)聞こうということで、3回くらい話した」

――それはCさんと…?

F「B(マネージャー)。その人達から声をかけられて、『話を聞きたい』と。Aさん(の行為)は不条理だと思っているからと。何十人も辞めさせて、そんで自分は今度(会社を訴えた)」

F「私の方は全然知らなかった。16人辞めさせた」

G「16人も辞めさせた。スタッフを。みんな辞めさせているって」

――それは、どなたからお聞きになりました?

G「それは…」

F「これははっきり言っていいよ。Bさんだよ」

G「Bマネージャー。で、Fさんたちから事情聞きたいというので。FさんもAさんと一緒にいた人だから。で、Aさんの性格がこうで、Aさんが訴えた理由をどうなのか。皆さんから聞きたいって」

また原告たちは社員のC氏を除けば各々が200万円の損害賠償を請求しているため、裁判費用は印紙代だけで1万5000円、これに加えて弁護士費用も必要となるが、金銭はおろか時間などの面でも負担をかけないことを約束されたという。

F「要するに弁護士さんが、これは一切皆さんにはお金はかからない。それで、ただ、もし万が一勝ったときには、Aさんに勝ったときにはいくらか入るからそれは貰えると」

G「一切負担はかけないということで」

――しかし、Fさんたちが裁判所に呼ばれることもあるのでは?

F「いやないよ」

――呼ばれたらどうします?

F「いや、行きたくないけどな。だってそんなことになったら全然話が違うもん」

――そんなことはしなくていいと言われたんですか?

F「そうだよ。そういう話になってないんだもん。弁護士からは」

――じゃあ弁護士たちからは裁判所に行く必要もないし、話を聞くだけで裁判が終わるという説明だったんですか?

F「うん」

F氏はこう言うが、正当な理由なく出廷を拒否すれば、原告らの請求は棄却されてしまう。

「当事者本人を尋問する場合において、その当事者が、正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓若しくは陳述を拒んだときは、裁判所は、尋問事項に関する相手方の主張を真実と認めることができる」(民事訴訟法208条)

●訴外の社員が原告集めに関与か?

取材の結果、原告たちがA氏に対して現実に不愉快な感情を抱いていることが分かった。

ただし、原告によっては、裁判に至ったきっかけが、ワタミ社員であるB氏、C氏による呼びかけや説明である疑いが出てきた。

もしもA氏から事業所内の対立にとどまらないパワハラ行為があったとしても、その上司であるB氏が関与しているのだとすれば、裁判の意味合いは変わってくるだろう。

そこで筆者は、本裁判に関係しているワタミ側に取材を行った。Bマネージャーに関しては連絡を取れず、C氏からは他の原告同様「弁護士に一任しているので答えられない」と拒否された。その弁護士には質問状を送付したものの、期限までの回答がなかった。

またワタミに対して、問題の裁判について尋ねると、以下の回答があった。

〈当社が、原告らに関与し、訴訟を提起させたとの事実はございません。また、当社が、B氏及びC氏らに対して、A氏に対して訴訟を提起するよう指示したという事実もございません。 (中略) なお、今後、貴殿が事実と異なる記事を掲載した場合、特に報復、民事訴訟権の濫用などといった記事を掲載した場合には、当社としましては、当社に対する名誉毀損等に該当するとして、貴殿に対し、訴訟等の法的措置を講じざるを得ませんので、ご賢察ください。〉

あまりに謎が多いこの裁判におけるB氏の役割について、少なくともワタミは調査し、説明する責任があるだろう。

【9月9日追記】A氏はその後、3月31日にワタミを相手取り、東京地裁に提訴。9月9日、ワタミとA氏が所属する労働組合の双方が、(1)Aさんとワタミの裁判、(2)A氏の同僚とA氏の裁判がそれぞれ和解で解決したことをウェブサイトで発表した。

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